勇者、辞めます (4) (角川コミックス・エース)

  • KADOKAWA
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感想 : 1
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  • Amazon.co.jp ・マンガ (196ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041093450

作品紹介・あらすじ

人間との共存を目指すため、魔王軍に正式採用された勇者レオ。しかし、次に挑むのは魔王城内に作られた地下ダンジョンだった。お色気満載のトラップに大苦戦? さらにデモン・ハートシリーズが再稼働し――!?

感想・レビュー・書評

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  • エロと食の楽しみは、戦いというレクリエーションで結ばれる。

    勇者と魔王という対立が約束されたふたつの立場のうち、勇者についてひとつの答えを示した『勇者、辞めます ~次の職場は魔王城(略称:ゆうやめ)』。これより原作小説二巻の内容に突入です!
    三巻までをご覧になられた読者にとっては自明の理ですが、見事なタイトル回収でした。

    表紙の方も、徐々に暗転していった三巻までから一転して涼やかな印象を与えるものになっています。
    人選の方も主人公にして“元”勇者こと「レオ」を中心に今回の二つの事件の導線となった、純情サキュバスにして魔法のエキスパート「シュティーナ」と天真爛漫な妹系獣人少女「リリ」の両名を配置し新展開を予兆させます。

    内容としてはまず、ここまでの振り返りを兼ねて幕切れの後の平穏なエピローグから始まります。
    それからさっそく今回のふたつの事件の発端をまずは読者向けに提示します。すなわちシュティーナの弟子「カナン」とレオにとって他に十一いる「きょうだい」の一体「ヴァルゴ」との接触シーンからなるプロローグですね。

    「レオ」同様に黄道十二宮に材を取った旧人類文明の決戦兵器にして、ワイルド系バトルマニア「ヴァルゴ」、まさかのビルド:ヒーラーとしての登場です。三千年の時を経て、肉体を失い核のみになった彼の真価がどのようにして明らかになるのはコミックスでは続刊にご期待いただくとして。

    彼の陰ながらの後押しを受けて、陰鬱系サキュバスにして各種の束縛やルールによって実力を引き出す「カナン」が動き出します。師匠シュティーナへの愛とレオへのリベンジ意識をこじらせて決意を新たにするわけです。
    ヴァルゴとカナン。出会いを意識しているのは前者だけですが、この場面はお互い独語です。にも関わらず、噛み合うはずのない言葉同士が噛み合ってるような、なんともな凸凹感が素敵だったりします。

    と、そうして波乱の前触れとしてやって来るのが漫画映えするエンタメ中編エピソード二本立て。
    つまりは「エロトラップダンジョン編」、そして「ドラゴンステーキ編」です。

    そんなわけでまずはエロトラップダンジョン編から! 
    罠なのかすら定かではない弟子カナンの自室ダンジョンに挑むにあたって、とっておきの手管まで使ってレオを巻き込んだシュティーナさん。弟子思いはいいんですが魔王軍随一の苦労人は彼女で間違いないでしょう。

    エロトラップダンジョンとはなんぞや? という疑問を抱かれる無垢なお客様に対しては、文字通り非殺傷・エロ系のトラップが満載ということをご了承いただくとします。
    あと、うら若きお嬢さんお姉さんがひどい目に遭う迷宮(ダンジョン)としか言えることはありません。
    その発祥と隆盛については18禁系の記事に分析を譲るとして、本作はいたって健全な全年齢向き作品であることをお忘れなく。

    ただ、少年漫画的なお色気トラップの数々が全力で恥ずかしがってくれる魔将軍・シュティーナさんの魅惑の肢体を明らかにし、ついでにレオのガタイのいい出来上がった肉体もあらわになります。眼福ごちそうさまでした。
    ついでに言えば道中も気になるようですが、流石に一巻丸々費やすだけの紙幅がないのは残念かもしれませんね。

    妄言はさておきます。性愛と欲望の入り混じることである意味サキュバス(女淫魔)の仕掛けらしい迷宮をくぐり抜けた二人が目の当たりにしたのは――!?
    敬愛と愛欲と、その他もろもろが籠るものの、肝心の想い人には決して届かないハズの「愛の巣」だったのでした……。

    小さくてやせっぽちなカナンという少女が師匠・シュティーナさんに向けるこじらせまくった情念の数々がミニキャラによって七転八倒するさまも含めてコミカルに演出します。
    ついでにゴブリンさんの反応やシュティーナ人形など、小説から忠実に描写を拾いつつも漫画版オリジナルでプラスアルファされたお遊び成分が、それらをさらに増幅するわけです。

    さて、このパートについてまとめるに当たってはお色気の焦点が当てられ(てしまっ)たシュティーナさんのリアクションに尽きますね。
    やはり可愛さやエロさは反応に宿る! というわけで、いろんな意味でフリーダムな同僚や上司部下に挟まれた中間管理職っぷりの悲哀だけでなく、初心な乙女としての彼女の魅力を再発見、再々発見したパートでした。

    では引き続いて「ドラゴンステーキ編」のレビューに移ります。
    冒頭で人間界に残した魔王「軍」の維持および魔王「城」堅持の方針を固めたメインヒロインにしてもうひとりの主人公、魔王「エキドナ」。

    とはいえ、幹部陣は近々の撤退を視野に入れているとはいえ、わかりやすい問題がその前に浮上します。
    豆だけのごはんはもうやだよー! と育ち盛りのお子様らしい正直な感想で泣いてしまう獣将軍「リリ」が可愛いのはもはや当然のこととして。

    一巻で触れられましたが、リリが担当する補給ラインによって最悪飢えることはなくなったものの、食事というのは軍所帯に限らず共同体では最も身近な娯楽のひとつです。帰還を前にして置き去りにはできない問題ですね。
    栄養だけでなく味も重要! ならば「肉」だ! ということで豪放磊落な竜将軍「エドヴァルド」が持ち込んだのは理性を失って暴走した竜退治による肉の確保! ついでに人類国家側との関係改善という一石二鳥の策でした。

    ドラゴンといえば、モンスターというカテゴリの中では間違いなく最上位に入る種族、ならばその味も絶品という理屈は筋が通る、というわけですね。
    なおこのパートは、ごくごく一般的な新米兵士「ヨハン」くんの狩られる側の視点を借りて、そこに現れたレオとエドヴァルドとリリという謎の助っ人三人組に対して憧れの視線を送るまでの流れでお送りします。

    下級のワイバーンからリーダー格のウィルムまで、ドラゴン自体にも格はあるんですが、上級のドラゴンに至っては対比物を考えれば縮尺狂ってないか? と思わせる現実感のない巨大な悪夢感が微妙に癖になりました。
    リリとエドヴァルドの方はわりと力だけでさらっと片づけていく描写になっているんですが、本来ならかなり怖いですよドラゴンたち。理性こそ失っていても最低限の知性は失っていないようですし。

    そんなわけで、この世界を支える一般人と世界を見据える頂点たち、ドラゴンという脅威を題材にして蹂躙される側と軽く討伐する側の「差」を描きわけるわけですね。
    今回は元勇者「レオ」の側から歩み寄ってヨハンくんに指導する姿勢も見せたりで、今までの流れで孤独だった勇者も仲間に囲まれることで成長してるんだなと思って何とも嬉しくなりました。

    で、王道ながら気持ちの良い別れを介して読後感を良くした後にやってくるのが肝心の料理回ですね。
    小細工抜きで肉の塊にぶつかっていく美味しさの描写、なによりも肉の質量をダイレクトにぶつけてくるこの回はぜひとも空腹を抱えながら読んでいただきたいですね。
    おなじみウェイトレス姿に扮した四天王のひとり「メルネス」の登場も、食にまつわる回なら納得ですね。

    総じてここ四巻は「エロ」と「食」という娯楽の王道に挑み、過去を受け継ぎつつも今を生きる楽しみに目を向けて心の陰を振り払った巻といえます。
    それでいて、一見無関係に思えたふたつの事件を結び付け、冒頭で読者向けに示唆された真相に向かってさっそく動き出した主人公の迅速さに目を剥きつつ、新展開に向けた軽快さが実に気持ちのいい巻でした。

    ちなみにこの巻のおまけ要素として勇者&魔王と四天王たちがもし現代日本の学生などだったら~、という趣旨で、1イラスト×6のちょっとした幕間が用意されています。
    つまるところは漫画特有の遊び要素としては王道の、いわゆる学園パロディ(学パロ、学園IF)ですね。
    原作者クオンタム先生との連携が示唆されているあとがきも含め、単行本派の方は箸休めに楽しめると思いますよ。

    それではレビューを締めるに当たって最後に。
    単純な文量でいえばおおよそ原作小説二巻の半分を消化といった塩梅ですが、ここからもアクション回だったり、コミカルで快刀乱麻な過去編がやってきたりと、急いで畳むには惜しいエピソードが満載です。
    今後も乞うご期待ください。繊細なようでいて、豪快な筆致でも描かれるこの物語のことが私は好きなのですよ。

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著者プロフィール

小説投稿サイト「カクヨム」に2017年1月より『勇者、辞めます ~次の職場は魔王城~』を投稿開始。「カクヨム第2回web小説コンテスト」にて大賞(ファンタジー部門)を受賞し、本作で書籍化デビュー。

「2018年 『勇者、辞めます3 ~次の職場は魔王城~』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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