文字禍・牛人 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
4.10
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本棚登録 : 91
レビュー : 8
  • Amazon.co.jp ・本 (176ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041109021

作品紹介・あらすじ

アッシリアにある世界最古の図書館には、毎夜文字の精霊が出るという。文字に支配される人間を寓話的に描いた「文字禍」をはじめ、「狐憑」「木乃伊」「虎狩」等人間の普遍を目指した著者の傑作6篇を収録。

感想・レビュー・書評

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  • 「李陵・山月記」を読んで、それ以上の中島敦に興味を持てない、或いは電子書籍で何時でも読める、と思っている方にお勧めしたい短編集である。ワンコイン弱でお求めやすいだけではない。何故勧めるのか。

    ひとつは、中島敦が単なる漢籍を換骨奪胎した小説家ではないことがよくわかる短編が精選されているためである。古代ギリシャ時代のスキタイ人を主人公にした「狐憑」、BC6世紀のペルシャ王朝の男の話「木乃伊」、BC7世紀新アッシリア時代の帝国図書館の話「文字禍」、中国戦国時代末期の話「牛人」、中島敦の伯父・中島端の最期を描く「斗南先生」、中島敦の中学時代の朝鮮人の友人のことを記した「虎狩」。自分のことを描いた末尾2篇は文体さえ違う。しかし、紛れもなく中島敦だとわかる。

    ひとつは、親切丁寧な注と全集所載の年譜、そして池澤夏樹の書き下ろし解説まで用意していること。確かに「木乃伊」以外は青空文庫でも読めるのではあるが、年譜・解説はこの安価な文庫にしては価値あるものだろうと思う。

    中島敦のことなので、これらの話の何処から何処まで、歴史的事実か、或いは想像かは判然としない。あまりにも微に渡り細に入る虎狩り随行記にしても、体験談だという「証拠」は一切残ってはいない。いや、中学時代途中で行方を晦ました趙大煥にしても、果たして実在したのか?ただその体験がやがて名品「山月記」に結びついたと思える気配がするだけだ。

    歴史的ニヒリズムから、やがて人生を俯瞰して未来に辿り着く。中島敦の読者を魅了してきたその「核」を、他の角度から比較的すぐに読めることの出来る稀有な体験を是非してもらいたい。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      kuma0504さん
      猫の手元にある筈なのは、筑摩書房の「ちくま日本文学」装丁と『悟浄』が収録されていたから選びました。
      池澤夏樹が解説を書...
      kuma0504さん
      猫の手元にある筈なのは、筑摩書房の「ちくま日本文学」装丁と『悟浄』が収録されていたから選びました。
      池澤夏樹が解説を書いているのですが、、、
      2020/12/29
    • kuma0504さん
      池澤夏樹の解説は、前半部分はちくま全集から採り、後半の個別の短編書評は書き下ろしと書いていました。
      池澤夏樹の解説は、前半部分はちくま全集から採り、後半の個別の短編書評は書き下ろしと書いていました。
      2020/12/29
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      kuma0504さん
      使い回しされていた!ちょっと驚きの事実ですね。
      kuma0504さん
      使い回しされていた!ちょっと驚きの事実ですね。
      2020/12/29
  • kuma0504さんのレビューより読みたくて。こんなにクールでかっこいいなんて驚き!恥ずかしくも中島敦=山月記としか知らない私には本当に良かった。『木乃伊』『文字禍』のようなSFファンタジー原点的作品や、観察力と暖かさと笑いの混じる自伝的作品両方が楽しめた。

  • 余録:古代アッシリアの図書館で… - 毎日新聞
    https://mainichi.jp/articles/20180411/ddm/001/070/092000c

    文字禍・牛人 中島 敦:文庫 | KADOKAWA
    https://www.kadokawa.co.jp/product/322008000177/

  • 中島敦の短編集。
    ちょっとおもしろいセレクションで、「狐憑(きつねつき)」「木乃伊(ミイラ)」「文字禍(もじか)」「牛人(ぎゅうじん)」「斗南先生(となんせんせい)」「虎狩(とらがり)」の6編を収める。
    中島敦といえば、流麗高雅な漢文調の文章が思い浮かぶが、それも知識人一族の中に育ち、漢文の素養があってのこと。祖父も伯父たちは漢学者、父は菅文教氏、生母・継母・伯母も教師。とにかく教養を叩き込まれていなければ、自分の手であれだけの作品を生み出すことなどできないのだろう。敦の強みはその上に、英語も学び、世界への目が開かれていたことだ。遠く、ギリシャ、エジプト、メソポタミアまで。時を超え、それらの地で栄えた古代文明まで。

    最初の3編は、古代オリエントを舞台とする。ホメロスの故事やヘロドトス『歴史』の一節が引かれ、物語の雰囲気を盛り上げる。
    「狐憑」は、ある事件がきっかけで語り部・詩人となった男に起こる悲劇。
    「木乃伊」は、エジプトに攻め込んだペルシャの将軍に呼び覚まされるある「記憶」。
    「文字禍」は、”文字の霊”に取りつかれた学者が主人公。彼は、文字の精霊が人類を滅ぼそうとしていると思い込むんでいる。だが、他の誰もそんなことは信じない。文字を見詰めるあまり、何だかそれが今でいうゲシュタルト崩壊のように崩れ始めるのだが、崩れていくのはそればかりではなくて・・・といったお話。
    いずれも奇妙な味の怪異譚の趣。

    「牛人」の舞台は古代中国で、中島お手の物の一編。
    大夫(小領主)の庶子で、愚鈍と思われている男。色黒で背が曲がり、身体は大きい。全体として牛によく似ている。大夫に忠実で、側に常に付き従う。だが、大夫が病に倒れた後、次第に牛人の邪悪な顔が姿を現す。
    ぬぼーっとした牛人の不気味さに背筋が冷える。
    直接関係はないが、「件(くだん)」(顔が人、体が牛の妖怪。重大な事柄について予言をし、それは必ず当たると言われている)も少し思い出させる。

    最後の2編は私小説風。
    「斗南先生」とは、敦の伯父、中島端のこと。作中では敦は三造の名になっている。端は、学はあるが偏屈な老人であった。三造はなぜかこの伯父に気に入られ、その世話に駆り出される。老人のわがままに振り回され、しかし彼の中に自分に似た気質を見る。知識人ではあるけれど、ある種、不遇というか、世に珍重はされていない、個性の強い老人が活写される。
    「虎狩」は子供の頃の思い出を含む。敦は少年時代を京城(現在のソウル)で過ごしている。その時、親しくしていた朝鮮の少年と出かけた虎狩の話。思春期の少年の交友と微妙な心の揺れ。そして臨場感のある虎狩。さて、どこまで実体験に基づくのかはわからないが、「山月記」の虎は、リアルな虎を知ってこその描写なのかもしれない。

    いずれも佳品。知識人、中島の底力に唸る。
    早逝が惜しまれる。

    • yuu1960さん
      幾つかは大学時代に図書館で読みました。「木乃伊」「文字禍」は文学者であることに懐疑があるのかと感じました。
      「牛人」は宮城谷昌光でほぼ同じ...
      幾つかは大学時代に図書館で読みました。「木乃伊」「文字禍」は文学者であることに懐疑があるのかと感じました。
      「牛人」は宮城谷昌光でほぼ同じ短編を読んだことがあります。元にした古典がそういうものなんでしょう。
      お蔭様でちょっと懐かしく思い出してしまいました。
      2021/07/12
    • ぽんきちさん
      yuu1960さん
      コメントありがとうございます。
      なるほど、文学者であることへの懐疑ですか。妄想や文字に取りつかれて殺される不安みたい...
      yuu1960さん
      コメントありがとうございます。
      なるほど、文学者であることへの懐疑ですか。妄想や文字に取りつかれて殺される不安みたいなものもあるのかな・・・?
      「牛人」、出典があるんですね。Wikiを見てみたら、「『春秋左氏伝』の昭公4年(紀元前538年)の記事をもとに書かれている」とのことでした。
      これ、最後の一文が効いていると思います。
      2021/07/12
  • 狐憑 古代人の話、狩猟により生活をする人々の中に作家が誕生!受け入れる人々と受け入れられない人々がいる。
    舞台は何となく東南アジア!

    木乃伊 ミイラを観たら何となくノスタルジア!実は私もミイラを観ると何故か懐かしさを感じます!舞台はエジプト!

    文字禍 ゲシュタルト崩壊と言葉が物の本質を奪う話!何事も考え過ぎると一周して大変です。何事も程々に・・・
    舞台は中東のイラク近辺石油が発見されるよりもだいぶ昔の話!

    牛人 ミノタウロスの話かと思いきや古代中国話!?世にも奇妙な話としても良いのではとも思う。個人的には本作の白眉!

    斗南先生 中島敦と叔父の話、自分と自分に流れる血への葛藤を感じる。年寄りって皆んな斗南先生の様になるよね。自分はならない様に頑張ります。

    虎狩 中島敦の少年時代の話!朝鮮半島が日本の統治下にあった時代、敦と半島人の友人とのエピソード!日本で言ったらマタギの人達が熊狩をするような感覚なのでしょうか?


    個人的な事ではありますが本作がブクログ登録777作品目になります!

  • 中島敦作品を初めて読んだ。
    失礼ながら、見た目で読まず嫌いをしていましたがこの中にあるタイトル全て面白くあっという間に読んでしまいました。

  • いつも気になる中島敦。虎狩はなかなか秀逸でした。もっと多作であってほしかった。

  • 思ったより読みやすかった。他の作品も読み進めたい。

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著者プロフィール

東京四谷に生まれる。昭和8年、東大国文科卒。横浜高女で教鞭を執りつつ、作家を志し、「山月記」等発表。昭和17年12月、33歳の若さでぜんそくの悪化により夭折。死後に「弟子」「李陵」などが発表され、その異才が惜しまれた。

「2020年 『文字禍・牛人』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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