消えない月 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041109731

作品紹介・あらすじ

彼らは出会って恋人になり、やがて別れた。ありふれた恋のはずだった、彼が”ストーカー”になるまでは。――被害者の恐怖と、加害者の執着。ストーカーの闇を両側の視点から抉る畑野智美流傑作イヤミス!

感想・レビュー・書評

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  • ブクログさんが「十五夜に読みたい 月のつく小説」を推していたので迷う事なく便乗。否、至極当然暗黒Ver.である。

    マッサージ店で働くさくらは客であった松原のアプローチを受け交際を始める。優しく包容力のある彼に惹かれたさくらだったが、交際してまもなく彼女は松原の支配欲に違和感を感じ別れを切り出す。これにより、松原の異常なまでの執着が延々と彼女に付き纏う事となる。女性陣は鳥肌不可避の「ストーカー」の誕生だ。
    はっきりしないさくらの言動が模範過ぎるストーカーへの滑走路を造り出してしまった。

    そんなストーカー松原の狂気度は個人的には低く感じた。いや、しっかり気持ちが悪いのだが、なんだろう、許容範囲と言うか、いや、自分がされたらと考えると恐れ戦くが、フィクション内の狂気を求めると弱い。(語彙力)
    しかしこれ、裏を返せば「とてもリアル」。名前のイメージもあって淡いピンクな雰囲気をまとっていたさくらは松原に追い詰められた事により段々と薄くなり、白くなり、最終的は透明な精神状態となる様が恐ろしかった。
    現実に起こるであろう範囲内で究極の気持ち悪さが彼女の色彩を奪ってゆくのだ。

    これを踏まえて今回のテーマである「月」をなぞった文を改めて見返してみる。
    「青い空に傷をつけるような白くて細い月が見えた。月はいつも、振り返るとそこにある。どこまで行っても、ついてくる。」
    ....やだぁ、怖い。(語彙力)
    ーーーーーーーーーーーーーーーーー

    小説としては微妙。ストーカーの視点だけで物語を追うと内容は在り来りだし展開はめちゃくちゃ。後半は「不運な偶然」とやらが多い。粗探しは野暮だが、ご都合主義感は否めなかった。
    終わり方はとても胸糞悪い。私はこれを褒め言葉として使う事が多いが、今回に限っては言葉通りの意味である。アンチハッピーエンドという人間性疑う癖を持ち合わせているはずなのに、この釈然としないラストには眼球が埋もれるくらい眉間の皺を刻んだ。

    ストーカーの問題定義だけではなく、承認欲求についてや男女の意識の差、幼少期の境遇による意識の変化等、心理学的な要素にも触れられていたので「ただただ嫌な気持ちになる作品」とは言わないが、ここら辺の主張は浅い。
    決して短くは無い物語だったので広がりを期待し過ぎてしまったのだろう...。
    これに加えて、着地点到達時のあっさり感とあっさりさせるには重すぎる結末に少々グロッキーとなった。

    うーん、はっきり言うと面白くはなかった。
    ので、今回は興味深かった事のメモとそれに対して感じた事を保存する場として使わせていただきます(._.`)
    ーーーーーーーーーーーーーー

    接近欲求
    理性を凌駕すれば対象への関心が固着する
    成就すれば恋愛だが、拒否される「摩擦」が生じれば欲求が高まりアディクションが始まる。つまりストーカーとなる。

    ストーカーは警察や被害者よりも努力する。運は、努力するものの味方をする

    解説者は小早川明子さん。
    (ストーカー問題を始めとする人間観のトラブルを手掛けるカウンセラーの方)の解説内の言葉。

    「こうしてほしい、しかしそうしてくれなくてもあなたの自由だ、私は諦める。でももし私の希望を受け入れてくれたら感謝でいっぱいだ」

    ここだけ抜粋すると圧の強めな発言に聞こえるが、純粋に言葉自体を受け止めると普通に生活している私達が人に何かを要求する時って大体こうだと思う。
    〈してくれたら嬉しいけどしてくれないのは自由だしそれに対して負の感情は持たない〉のを当たり前に繰り返している。だが、このリミッターが外れる瞬間なんて誰にも分からない。
    回避方法も分からない。なので、月並みな言葉ではあるが、どんなに近くにいる人にも思い遣りの精神は忘れてはいけないと改めて強く感じた。
    人のためは勿論だが、もし自分のリミッターが外れて見境が無くなったモンスターになってしまったら嫌ではないか。つまりは己自身のためでもあるのだ。この理論は美しくは無いが、悪でも無いと思いたい。
    ーーーーーーーーーーーーーーーーー

    • NORAxxさん
      土瓶さん、こんばんは♪

      ちょ、やってみないでください(笑)誇張がバレてしまうではないですか(笑)
      実際、目と眉を近付けたくて一人鏡の前でア...
      土瓶さん、こんばんは♪

      ちょ、やってみないでください(笑)誇張がバレてしまうではないですか(笑)
      実際、目と眉を近付けたくて一人鏡の前でアウトローな顔面晒してた経験者の発想です!!
      2022/10/01
    • 土瓶さん
      アウトローな顔面(笑)
      アウトな顔面(だいぶ失礼)
      アウトローな顔面(笑)
      アウトな顔面(だいぶ失礼)
      2022/10/01
    • NORAxxさん
      アウトで改行されなくてホッとしてたのに...( ー̀ н ー́ )笑
      アウトで改行されなくてホッとしてたのに...( ー̀ н ー́ )笑
      2022/10/01
  • 松原の思考回路が怖すぎる。
    ストーカーってこんな感じなのか。
    一つの物事に対して普通では考えられないような歪んだ捉え方をする。自分が正しいと信じて疑わず、誰に何と言われても信じた道をまっすぐに突き進む。
    無断欠勤して職場からの連絡を無視し続け、ついには私物が自宅に送られてきてしまうのに「それどころではない」にはさすがに笑った。自分が異常だとは全く思っていない。自分はストーカーではない、と言い切っている。

    どうしたら止められたんだろう?
    恋人の意見を「口答え」だと言う時点でアウトなんだけど。考え方が変わるとは思えないし。
    狙われたらおしまいなのか・・・
    まさに「消えない月」。
    救いが欲しかったな。


  • 畑野智美/消えない月

    被害者(さくら)と加害者(松原)の双方視点から、
    一人称で淡々と描かれる小説。

    被害者・加害者の考えが交差し淡々と進む中で、
    被害者は逃げ切れるのか?
    加害者の心に終わりはあるのか?
    着地点が気になり読み進めました。

    ストーカーは決して軽視してはいけなくて、
    もう大丈夫、これぐらいなら平気、
    といった一瞬の隙や油断がとんでもない事態に。

    ストーカーに合っていると認識した時から、
    被害者は次に何が起こるか分からない恐怖に常に
    怯えて暮らし、少しずつ心や生活が壊れていく様が切々と書かれてます。

    どんな言葉を選んで伝えても伝わらない、
    話が噛み合わないもどかしさのなか、
    被害者の心は諦めに変わります。

    加害者は常に自分が正しく、
    相手は間違っていると疑わない。
    自分の言う通りにすれば幸せになる。
    自分が相手を守らなくてはならない。
    自分に助けを求めてる。

    そもそも客観視という概念がなく、
    全てを自分の中心で都合よく捉える
    加害者の心理には恐怖を感じます。

    でも、その加害者の心理とその成長背景が詳細に
    書かれていて、歪んだ考えを生むに至った経緯が
    なんとなくわかり、本当に求めていたものの姿が
    明確になった時、ストーカー加害者の行為や
    考え方は決して受け入れられないけれど、
    なんとも言えない苦さを感じました。

  • 畑野智美『消えない月』角川文庫。

    ストーカー事件の被害者と加害者の双方をリアルに描いたサスペンス小説。

    典型的なストーカー事件の被害者と加害者。全く救いの無い結末に厭な気分のままに読み終えた。

    主人公の河口さくらは一度地元の松本にある信用金庫に務めるが、顧客の老人男性によるストーカー被害に遭い、退職。上京し、専門学校に通い、マッサージ師となる。さくらは何度かマッサージの客となった大手出版社に勤務する松原と恋人の関係となるが、松原の態度の豹変に別れを決意する。次第にエスカレートしていく松原の行動。

    さくらが密かに都内のアパートを引き払い、松本の実家に戻るも、執拗に追い掛けて来る松原。

    男性の気持ちに流され、自己を余り強く主張しないさくらと自身の異常な性格と執着に気付かず、相手を傷付けることに無頓着な産まれながらのストーカー・松原……

    本体価格840円
    ★★★★

  • 東京でマッサージ師として働くさくらのもとに客として来た松原。
    2人は付き合うようになったがその後別れ、松原がストーカーになりさくらを恐怖に陥れる話。

    被害者のさくら、加害者の松原のそれぞれの2人の視点から進んでいくが、ずっと胸糞悪い。
    ストーカー松原の数々の異常行動ももちろんそうだが、さくらの周りに流される言動にもイライラ。
    なぜそこではっきり言わないのか。
    なぜそこでもっと信頼できる人を頼らないのか。
    池田先生が聖人君子かのよう。

    まあ最後は逃げ切れてハッピーかと私のイライラも少しは報われると思っていたのだが、その希望さえも折られた。

    最後に長々と松原の幼少期の独白があるが、流し読み。

    表紙を見たら、あのシーンじゃん!と思い、よくここを表紙にしたなと引いた。
    内容を知らない時に見るのと、読み終わった時に見るのとでは、捉え方が変わる。

  • きぃーーーーーーーもい!!!キモすぎる松原。最初の50ページくらいから気持ち悪いが止まらなくてイライラも止まらないけど、読む手も止まらなかった。実際にこういう人がいそうでさらに気持ち悪い。途中からはさくらにもイライラする。一回ヨリを戻した時点で、あ、さくら死ぬなだて思ったけど。本当に死んだ。
    読み終わってイライラ止まらず。次は楽しくなるようなスカッとしたものを読もう。
    運は努力する方の味方する。って言葉はメモメモ。

  • 恋愛と狂気は紙一重かな。
    誰かに思考をコントロールされ、支配されて、「あぁ幸せだ」と勘違いする人も現実には多くいるのだろうなと思わされました。
    本作では、ストーカーの思考が生々しく描かれていて、その類は往々にして一種のパーソナリティ障害なのではと考えます。
    ヒロインは、男性と交際して、お話をして身体を合わせて、その相手の人格を理解したのち、次のステップを考えたけれど、無理だと判断した。これは一般的(現代的)な考えと思われ、私は違和感を感じませんでした。

    話の結末に関しては「まぁ、最後はそうなるでしょうね。」という感じです。
    面白かったです。

    • 本ぶらさん
      誰かに思考をコントロールされ、支配されることって、見方によっては「安心」だったりもすると思うんですよ。
      だって、自分で何も考えないでいいと...
      誰かに思考をコントロールされ、支配されることって、見方によっては「安心」だったりもすると思うんですよ。
      だって、自分で何も考えないでいいという「楽」と、その支配している相手(や何か)が指示してくれるレールの上を進んでいればいいわけですから。

      もちろん、この小説のソレは自分が感じられる心地よさしか頭にないストーカーだから。
      第三者からしたら、それは支配される悲惨な状況でしかないんでしょうけどね。
      学生の頃、『O嬢の物語』というエロ小説を、もちろんエロ目的でw読んだことがあるんですけど(^^ゞ
      読み終わってみると、その本の言う「奴隷の快楽」っていうのは、あながちわからなくもないって考えてしまった記憶がありますw
      ていうか、今の世に限らず、人っていうのは良くも悪くも、何かからの支配を受け入れることで生きているんだろうなーって。
      いや、だからって、ストーカーは怖いし気持ち悪いですけど(~_~;)
      2023/12/05
  • ★3か4かで迷った。
    マッサージ師のさくらを指名する松原はイケメンで背も高く、さくらはちょっと気になっていた。
    さくらの誕生日だったその日、スタッフの人たちが誕生祝をしてくれた。
    松原にその話をした。
    そうしたら彼が誕生祝にとプレゼントを渡してくれ、それから二人は付き合いを始めた。

    彼の言動には引いた。スマホに登録してある男の連絡先を消去したり、桜の言い分を口ごたえするなの一言で聞こうとしない。
    さくらが別れを切り出したのち、ラインをブロックしたらと助言されても出来ない。
    読み進んでいくと松原がストーカーになった原因はなんとなくわかるが、桜の優柔不断さはどこから来るのか。

    どのような形で終息するのか と思いながら読んだが、私には思いがけない結末だった。

  • 先が気になって一気読みしてしまった。素敵な恋の始まりから一転すぐに暗雲が立ち込める。

    ストーカーされる側とする側の両者の視点で綴られるのでお互いの感情の揺れ動きや価値観が分かってとても良い。ストーカーについて理解を深めるためにもこの本はおすすめできる。

    人はいろんな一面を持つから付き合ってみたらこんな人でしたというのは良くある話で主人公は自責思考なため執着されやすく支配欲の強い人間に好まれそうだと思った。

    どんな人間にもストーカー被害に遭う可能性はあるしそのためにどうしたらいいのか。というのは読みながら考えてもなかなか難しく警察も動かないのは理解ができた。

    恐ろしい話だと思う。

  • ショッキングな結末だったなあ。
    田沢さんの台詞があったから、きっと伏線だろうとは思ったけれど・・・

    物語ではあるけれど、ストーカーの背景とか、やっぱりこうなのかなって
    わかったな。
    愛されていない、挫折だらけの半生。
    怖いな、すげぇ迷惑だし。
    だいぶ序盤から別れ話になったから、
    え、このあとずっとストーカー?と思ってびっくりした。
    かなり濃くしつこく描かれている。
    でも一気に読めた。

    リベンジポルノとか合鍵とか、
    都合のいい思い込みとか警察やサイトの対応とか
    本当にこうなのかな、酷だな。
    それはだめでしょ。。。っていう対応とか、いろいろ考えながら読んだ。

    和樹くん、いいね。
    でも、和樹くんの行動歴からわかってしまったってきついな。
    これを彼が知ったらと思うと・・・つらいところの多い話だ。

    「月はいつも、振り返るとそこにある。
    どこまで行っても、ついてくる」

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著者プロフィール

1979年東京都生まれ。2010年「国道沿いのファミレス」で第23回小説すばる新人賞を受賞。13年に『海の見える街』、14年に『南部芸能事務所』で吉川英治文学新人賞の候補となる。著書にドラマ化された『感情8号線』、『ふたつの星とタイムマシン』『タイムマシンでは、行けない明日』『消えない月』『神さまを待っている』『大人になったら、』『若葉荘の暮らし』などがある。

「2023年 『トワイライライト』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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