かたばみ

著者 :
  • KADOKAWA
4.60
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本棚登録 : 613
感想 : 67
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  • Amazon.co.jp ・本 (560ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041122532

作品紹介・あらすじ

「家族に挫折したら、どうすればいいんですか?」太平洋平洋戦争の影響が色濃くなり始めた昭和十八年。故郷の岐阜から上京し、日本女子体育専門学校で槍投げ選手として活躍していた山岡悌子は、肩を壊したのをきっかけに引退し、国民学校の代用教員となった。西東京の小金井で教師生活を始めた悌子は、幼馴染みで早稲田大学野球部のエース神代清一と結婚するつもりでいたが、恋に破れ、下宿先の家族に見守られながら生徒と向き合っていく。一方、悌子の下宿先の家主の兄である権蔵はその日暮らしを送っていたが、やがて悌子とともに、戦争で亡くなった清一の息子・清太を育てることになった。よんどころない事情で家族となった、悌子、権蔵、清太の行く末は……。

感想・レビュー・書評

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  • ブクログでよく見かけるので手に取った一冊
    初読みの作家さんでした


    図書館で予約したので
    届いた時の分厚さに思わず声が出ました。笑
    でも読み始めると分厚さも込みで
    素晴らしい作品でした。


    描かれている時代や、この物語の長さ、
    そして内容も、まるで朝ドラのようでした

    私朝ドラ大好きなんですよー
    じっくりと一緒に成長してく感じが好きで
    録画してあさイチの朝ドラ受けとセットで
    毎日楽しんでおります
    この本も大好きな一冊となりました


    ところどころに出てくるセリフが
    すごくいいんですよね
    ずっと読んでいたかったです



    好きな言葉をいくつか

    『おかしいな、と
    自分で感じたものからは
    いくらだって逃げていいんです』


    『どんなつらいことでも、
    自分だけに起こってるってこたあまずない』


    『教師も親も、子供の手本になろうとする。
    でもそれは間違いだと思うのです。
    人は、どこまでいっても未熟で不完全です。
    ですから、ただ一所懸命生きている正直な姿を、
    子供たちに見せるほかないように思うのです』


    『あたしにそっくりでしょ
    しかも奇妙なもんで
    自分でも持て余してるような
    嫌な部分が似てるのよ』


    他にもまだありますが。

    わかるーと唸りたくなるような言葉や
    これからの子育ての軸にしたくなるような言葉、
    肩の力がふっと抜けるような言葉など
    たくさんの言葉をもらいました

    権蔵さんいいなぁー
    清太はもう我が子の気持ちで読んで
    最後は泣いてました(T_T)


    また読み返したいです(^^)

    • NO Book & Coffee  NO LIFEさん
      主犯とな? 人様を騙して本を取り寄せさせた?
      新種の詐欺? いやいや、冤罪確定ーっ!
      私のメリットないですもんƪ(˘⌣˘)ʃ
      あ、待って、褒...
      主犯とな? 人様を騙して本を取り寄せさせた?
      新種の詐欺? いやいや、冤罪確定ーっ!
      私のメリットないですもんƪ(˘⌣˘)ʃ
      あ、待って、褒めてくれてる? かたじけない(^^)
      2024/04/17
    • どんぐりさん
      かなさん

      おはようございます(^^)
      かなさんも引きましたか笑
      私独り言言ってましたよ笑

      でも読むのやめなくてよかったです♪
      かなさん

      おはようございます(^^)
      かなさんも引きましたか笑
      私独り言言ってましたよ笑

      でも読むのやめなくてよかったです♪
      2024/04/17
    • どんぐりさん
      本とコさん

      新手すぎる詐欺ですね٩( ᐛ )و

      もちろん褒め言葉です!!!
      本とコさん

      新手すぎる詐欺ですね٩( ᐛ )و

      もちろん褒め言葉です!!!
      2024/04/17
  • 昔、家族で観ていたホームドラマを思い出す。
    老若男女全ての人が楽しめる、笑いあり涙ありのドラマ。
    戦中、戦後を生き抜いた家族のお話。
    家族といっても今のような核家族ではなく、三世代、さらには叔父叔母いとこまでもが、狭い家に団子のように引っ付きあって暮らしている。
    もちろん、戦争の悲惨な場面も出てくるのですが、一冊まるまる、清々しくて力強い。
    作中、おばあちゃんが『時間もお金も少ないくらいがちょうどいい。余っていると余計なことを考えてしまうから』という意味のことを言っています。
    まさしくそういうことなんだな、とストンと腑に落ちる。登場人物全ての言動が単純明快で気持ち良いほど。裏というものが全くないのです。口は悪いけど、言った後に何のしこりも残さない。
    でも、悩みがないかと言えばそんなことはなくて、家族だからこそのすれ違いは、やはり起こるのです。そんなところは今も昔も変わらないなと思うけれど、解決の仕方は、大家族ならでは!
    自分一人で抱え込まないのが大切なのかも。
    図書館で見た時、あまりの分厚さに引いてしまったけれど、何ならまだまだ読んでいたいよ。終わらないでほしかったよ。
    爽やかな読後感!いいお話でした。


  •  長い良質の朝ドラを、最後まで夢中で観たような感動をもらいました。老若男女問わず、どの世代にも読んでほしい、そんなとてもいい話でした。戦中戦後の苦難の時代を生きた家族の物語です。

     主人公は山岡悌子25歳、昭和18年の戦争が色濃くなっていく頃の描写から始まります。悌子の波乱万丈の人生の詳細は伏せますが、戦争に翻弄され、抱いた夢や希望を何度も打ち砕かれます。それでも、先の見えない暮しの中で、真っ直ぐに懸命に毎日を生きる悌子たちの姿に胸を打たれます。

     戦争が背景にあり、非日常や不条理さが描かれて辛くはあるのですが、不思議と重い感覚がありません。悌子の前向きな性格、周囲の人の温かさを上手く描く著者の筆力の為せる技だろうと思います。

     「かたばみ」は、クローバーに似て非なる道端などに自生する植物で、ハート形の3葉が寄り添い、黄色い花をつける繁茂力の強い野草だそう。物語を読み進めるほど、妻・夫・子の絆、複数の家族が寄り添う絆が眩しく映り、この象徴としての本書タイトルが胸に沁みます。

     ウクライナやガザ地区の戦争には終息の兆しも見えず、元日の能登半島地震や13年前の3.11の傷も癒えません。そして79年前 (終戦の年)の3.10は、10万人が犠牲になった東京大空襲の日でした。
     戦争を知らずに今を生きる、多くの人たちに読んでほしい物語でした。小さなことを皆で共有する幸せ、温かさをシンプルに伝えてくれる傑作長編でした。

    • こっとんさん
      本とコさん、こんにちは♪
      この本良かったですよねー(*^_^*)
      毎日ワンコとお散歩してる道に、今たくさんかたばみの花が咲いています。去年も...
      本とコさん、こんにちは♪
      この本良かったですよねー(*^_^*)
      毎日ワンコとお散歩してる道に、今たくさんかたばみの花が咲いています。去年も咲いていたはずなのに全く気付かなかった自分が怖い( ˊᵕˋ ;)
      ホントにハート3つだ〜なんて思いながら見ています。
      その道で必ずウチのワンコはアレをするんで私は密かに「ウ○コロード」と名付けていたのですが、これからは「かたばみロード」に改名しようかと思っております٩( ᐖ )۶
      2024/03/11
    • NO Book & Coffee  NO LIFEさん
      こっとんさん、実にいい本でした!
      ワンコと幸せのウ◯コロードのお散歩、よき(^^)
      こっとんさん、実にいい本でした!
      ワンコと幸せのウ◯コロードのお散歩、よき(^^)
      2024/03/11
  • 長編を感じさせないほどにのめり込み夢中になってしまった。
    読み終わったあとは、この家族と同じように青空を見上げて微笑みたい…一緒にそんな気持ちに浸りたいと感じた。

    太平洋戦争直前、故郷の岐阜から上京した山岡悌子は国民学校の代用教員として働き始め、幼馴染の早稲田大学野球部の神代清一と結婚するつもりでいたが、彼には決まった人がいて戦地に行く前に結婚したことを聞く。
    恋に破れたが下宿先の家族に見守られながら生徒と向き合っていく。
    下宿先の家族と親しくしているうちに富枝とも仲良くなり、その息子の権蔵と根っこの部分が似ているところや自分をごまかさないところが相性いいんじゃないかと…。
    結婚する気もなかったが、結婚は物語だと言われて。
    そのうち清一が亡くなったことを知り、清一の息子を養子にと…。

    どんなかたちであれ、家族というのは血の繋がりだけではないことを感じた。
    この夫婦の愛情が半端でないことにただただ凄いとしか言えない。
    胸に響く感動長編だった。


  •  ブクログのおかげでこの作品を手にすることができました。この本かなり分厚くって、その内容にいちいち感動したり、泣いたり笑ったり、憤ったりしながら読んだので、必然的にゆっくり読むことになりましたけど、読めてよかったなぁ…と思います。

     戦中、戦後の日本で、元槍投げ選手で教師の悌子とラジオ作家の権蔵の夫婦が、悌子が想いを寄せていた清一の忘れ形見でもある清太を実子として育てる…お話です。まとめてしまえば一文でまとまっちゃう内容ですが、そのひとつひとつに、心を動かされるドラマがあるんですよね!!

     戦中戦後の混乱の社会…教育方針も様変わりするし、家族の在り方も女性は結婚して夫と子を守ることが当然であるとされていた中、理解のある家族もあって教職を続けていた悌子はある意味サバイバーですよね!!戦争は戦死者も負傷者も多数出したけれど、兵役を免れた者に対しての偏見とか、戦後いつになっても満足な食料が手に入らなずに皆が栄養失調であったこと等々…。そんな中で血のつながりはなくとも、清太に一生懸命の愛情を注いだ権蔵と悌子の家族は、清太の出自なんて問題にならないほどの大きな絆で結ばれた、本当の家族の姿だと感じました。何気なく見ていた、“かたばみ”が愛おしくなりました。

    • かなさん
      どんぐりさん、今日もお疲れ様です( ^^) _旦~~
      本とコさんのレビューには
      すすんで犠牲になる所存です(・∀・)
      って…でも嬉しい...
      どんぐりさん、今日もお疲れ様です( ^^) _旦~~
      本とコさんのレビューには
      すすんで犠牲になる所存です(・∀・)
      って…でも嬉しいですね♪
      こうやって素敵な作品と出会えるのって!!
      どんぐりさんと同じタイミングで読めたこと
      私も嬉しかったです。
      ありがとうございます。
      2024/04/17
    • 1Q84O1さん
      かなさん
      ブクログ内でも高評価ですね!
      けど、かなりぶ厚いんですよね〜w
      かなさん
      ブクログ内でも高評価ですね!
      けど、かなりぶ厚いんですよね〜w
      2024/04/17
    • かなさん
      1Q84O1さん、おはようございます!
      そうなんですよ~今回はブクログの評価と
      私の評価、一致しました♪
      ホント、分厚いけど読めてよか...
      1Q84O1さん、おはようございます!
      そうなんですよ~今回はブクログの評価と
      私の評価、一致しました♪
      ホント、分厚いけど読めてよかったと思ってますよ(*'▽')
      2024/04/18
  • かたばみという言葉も、木内昇さんの作品もはじめましてでした。

     かたばみとは、よくその辺に茂っている、クローバーに似た葉をしていて、黄色い小さな花をつける多年草の名前だそう。よく目にするのに知りませんでした。

     今年一番の一冊になりそうです。
    戦中、そして、占領下の戦後に、教師の悌子をはじめとして、懸命に自分なりの正しさを貫いて生き抜こうとする人々が描かれています。血のつながらない親子の絆の物語でもあります。

     この本の一番の魅力は、登場人物が、自分が好きなこと、こだわりたい事にはひたすら一生懸命に向かい合う、その生き様にあると感じました。特に悌子のその執拗なまでの一生懸命さは、仕事に対しても家族のことにしても、常に軸がぶれません。

    ○教師も親も、子供の手本になろうとする。でも、それは間違いだと思うのです。人は、どこまでいっても未熟で不完全です。ですから、ただ一生懸命生きている正直な姿を、子供たちに見せるほかないように思うのです。

    ○ (悌子の夫の言葉)「多少の挫折があっても乗り越えられるよ。」
     (悌子)挫折なんてしないわよ、きっと大丈夫よ、と言ってしまうところだった。以前、安易に励まして傷つけたことがあるのに。権蔵は決してそういう言い方をしない。生きていれば、誰にでも望まないことは起こるけど、乗り越えていけるはずだよ、という言い方を常にする。

     本当に子供にとって良い教育とは…と考え実行する教員の姿も心に残りました。

    ○もちろん、過剰な折檻はいけません。ただ中津川先生(悌子)が申しましたように、痛みを知らないと、加減ができない子になる。それがどんな恐ろしいことを引き起こすか、殺伐とした世の中を作るか。その点も、私たち教員は考えていかなければなりません。

     体格は、槍投げをしていて大柄な悌子とかなり違いますが、途中から私の脳内では、悌子が女優の江口のりこさんの顔と声になっていました(笑)

     そして、556ページもあるこの長作品で、一番好きだったのは、終盤の533ページ、権蔵の脳裏に、小さかった頃の清太が浮かんだ場面でした。

     苦しんだり喜んだりしながらの、人間の長きに渡る歩みの愛おしさ、確かさを強く感じさせてくれる感動作でした。

    〜〜〜〜〜
    好きだった他の文章

    ○他人の事はどうでもいい。それ以上に、自分のことがどうでもよかった。これまでを顧みる。無関心は、多分権蔵にとって、相容れない世の中から完璧に防禦してくれる。最強の盾だったのだ。

    ○私は、人生は競技だと思うんです。いかに有望な選手でも、良い監督につかなければ花開きません。監督の指摘を受けて、自らの足りない部分に気づき、修正していくことが必要なんです。そうやって、客観的な視点を得て、力をつけていくんです。つまり、私が教師としてやっていくには権蔵さんのような、真っ正直な人がそばにいたほうがいいと思うんです。

    ○年寄りって厄介でしょ。いたわってもらってありがたいとは思うの。でも一方でね、いたわられちゃった、ってちょっとしょんぼりするの。なんだか思春期みたいよね。歳をとったら、その分、知恵も経験もつくから、揺らぐことがなくなると思ってたけど、年寄りには年寄りの揺らぎがあるのよ。だって、自分が初めて体験する年齢なんですもの、当然よね。だけど、周りに対しては、年長者だから自制もしないとならないでしょ。結構しんどいのよ。若い人は感情爆発させても格好がつくんだけどね。

    ○生徒が、他の誰かに怪我をさせたり、ひどい言葉で傷つけたりしたら、私を叱ります。ぶたれたら痛いんです。石を投げれば怪我をします。そのことを感覚的に知らない子が増えるのも、また危ういと思うんです。共同生活の中で加減というものを学ぶことも、私は必要だと考えています。

    ○教員への苦情はいつでも承ります。教育現場を良くするためにも、常に風通しの良い環境を作るつもりです。ただ、私どもに任せていただく部分も頂戴したいのです。大事なのは、子供に健やかな環境を与えること。それから、二度と子どもたちを戦争の犠牲にしないことです。

    • 本ぶらさん
      こんにちは。はじめまして。
      木内昇は、最近(といっても結構前からいる方ですけど)の作家にしては骨太の話を書くし。
      また、新しい本が出る度、今...
      こんにちは。はじめまして。
      木内昇は、最近(といっても結構前からいる方ですけど)の作家にしては骨太の話を書くし。
      また、新しい本が出る度、今度はそっちなんだと面食らってしまう、面白い方ですよね。
      最初の頃の『茗荷谷の猫』の頃か気になるんだけど、なかなか手が出なくて、結局読んだのは新選組物だけなんですけどね。

      この本は全然知らなかったんですけど、これまた、こういう人を本のテーマにもってくるかーって感心するやら、なんでそれ?と不思議な気がするやらw
      ただ、本の紹介とavec totoさんの見る限り、またもやこの作家らしい一見地味なんだけど、でも他の作家が書かない骨太な話なことが想像できます。

      こういう小説って、一見地味だからなかなか手が出ないんだけど(ていうか単行本の今では読まないと思うw)、憶えておいて文庫になったら読んでみようと思います。
      2023/12/05
    • avec totoさん
      本ぶらさん、コメントありがとうございます。
      木内昇さんは、この本で初めて知りました。おっしゃる通り、少し地味で、それでいて骨太な感じでした。...
      本ぶらさん、コメントありがとうございます。
      木内昇さんは、この本で初めて知りました。おっしゃる通り、少し地味で、それでいて骨太な感じでした。他の本はまだ未読ですので、少しずつ読めたらと思っています。
      そんなに毎回違う方向なんですね。最近似たようなものばかり書く作家さんが流行りなので、楽しみです。
      2023/12/05
  • 一本の映画を観ている感覚だった。読んでいて映像が何度も浮かんできた。
    木内さんの作品は主役はもちろん、脇役も味のあって魅力的な人物が多くて、読んでいて飽きがこないから好き。ボリュームのある作品だったけれど夢中になれた。

    戦前・戦中・戦後。目まぐるしく変化する時代に翻弄される家族の物語。
    肩を壊したことがきっかけで国民学校の代用教員となった、元槍投げ選手の悌子。一本筋の通った子供思いの先生で、こんな素晴らしい先生に出会えた子供たちは幸せだ。こんな理不尽な時代でなければ学校生活ももっと楽しめただろうに。

    「楽しいもなにも、生まれてきたんだから生きるんだよ。それが生命ってもんだよ」
    「ごちゃごちゃ考えてねぇで、どんどん生きりゃいいんだよ。七面倒くせぇ」

    とにかく生きることに必死。けれどユーモアも忘れない。久々に笑って泣けた物語だった。

  • 正真正銘の良作の一冊。

    この言葉しか似合わない。

    戦中戦後の時代のうねりの中で紡ぎ築かれていく家族物語は正真正銘、涙と笑い、温かさの良作。

    戦時下で左右される子供達、教育に何度も胸がつまり涙し、身勝手さに憤り、手の差し伸べに胸がいっぱいになりと心は大忙し。

    "負"を"正"にくるりと変え合う悌子と権蔵。
    成り行きからとはいえ二人の見事な相性が愛情へと変わる過程、家族という形にこちらまで幸せをいただいた気分。

    血の繋がりよりも言葉。

    真剣に向き合ったがゆえの言葉が紡ぎ紡がれ家族は出来上がる。

    唯一無二の家族の結晶が今ここに。

  • じわっと涙が溢れ、クスクスと可笑しさが込み上げ、なんだか心の栄養になるような物語だった。カバーのそでにはかたばみについての簡単な説明や花言葉が掲載されている。読み終えてから改めて見ると、なんとも素敵なタイトルだと沁みてくる。

    主な舞台は戦中から戦後。その日の食卓や一日の暮らしが詳細に描かれる場面も多く、当時の環境や空気がありありと目に浮かぶようだ。戦中は、空襲での被害や常に脅かされる日常の心情が。戦後は、大きな変化と長らく戸惑うことになる日常の心情が。家族として暮らすことを通してまっすぐに伝わってくる。理不尽で辛いことが多いが、社会の変化に対しても人に対してもしっかりと向き合って生きている姿にジンとくる。

    「終戦から七年も経つと、被害に遭わなかった者は簡単にこれを過去にできる。だが一方で、大きな傷を負った者は生涯戦争を背負っていくことになる。」文中にこのようなくだりがあるのだが、直接的な被害も間接的な被害も想起される。皆がそれぞれに何かしら抱えて、葛藤したり衝突したりしながら前向きに生きていく姿がとても印象的だ。どの人物も人間味があって魅力的で、家族であってもなくても人と人の繋がりにとても心温まる。

  • 毎朝の新聞連載で悌子と権蔵に会うのが楽しみだった。
    木内昇さんの小説の描く人間味が大好きだ。「笑い三年、泣き三月」を読んで、こんな書き手がいたんだなと日本も捨てたもんじゃないなと思ってからのファンだ。鋭く世相を切る小説とはまだ違って(そういう小説も好きだけど)人間の持つ善良なところを掴み取って見せてくれる、洒脱で落語を聞いているような人情味を小説で表す作家だ。朝から、泣き笑いさせてもらって、自分もいい人でいようと思わせてもらった。
    清太と権蔵の触れ合いがとにかく心に沁みた。連載が終わってかなり経つが、こんなに記憶に残る小説も珍しい。

    いい小説は終わる時に登場人物とのお別れが惜しくて悲しくなるが、これもまたそういう小説だった。

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著者プロフィール

1967年生まれ。出版社勤務を経て、2004年『新選組 幕末の青嵐』で小説家デビュー。08年『茗荷谷の猫』が話題となり、09年回早稲田大学坪内逍遙大賞奨励賞、11年『漂砂のうたう』で直木賞、14年『櫛挽道守』で中央公論文芸賞、柴田錬三郎賞、親鸞賞を受賞。他の小説作品に『浮世女房洒落日記』『笑い三年、泣き三月。』『ある男』『よこまち余話』、エッセイに『みちくさ道中』などがある。

「2019年 『光炎の人 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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