空想の海

著者 :
  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041130155

作品紹介・あらすじ

「緑の子どもたち」
植物で覆われたその家には、使う言葉の異なる4人の子どもたちがいる。言葉が通じず、わかりあえず、でも同じ家で生きざるを得ない彼らに、ある事件が起きて――。

「空へ昇る」
大地に突如として直径二爪ほどの穴が開き、そこから無数の土塊が天へ昇ってゆく“土塊昇天現象”。その現象をめぐる哲学者・物理学者・天文学者たちの戦いの記録と到達。

SF、児童文学、ミステリ、幻想ホラー、ショートショート etc.
書き下ろし『この本を盗む者は』スピンオフ短編を含む、珠玉の全11編。

感想・レビュー・書評

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  • あなたは、”スピンオフ”という言葉を知っているでしょうか?

    この世には数多の小説があり、私たちがその中のどの作品に魅かれるかも当然マチマチです。作品が作り出した世界観に浸り、その世界の中にいつまでも浸っていたいと思える作品に出会えることは読書の一番の醍醐味だと思います。そんな瞬間を求めて、あなたも、そして私も本の海へと船を漕ぎ進めるのだと思います。最高の読書の体験は、そんな瞬間にいつまでも浸っていたいという思いを掻き立てます。しかし、残念ながら結末の先に物語が続いてくれることはありません。

    そんな読者の思いに答えてくれるものが続編です。あの物語の先にこんなドラマが続いていたのか、とその先の世界を見る続編には、一方でこんなはずじゃなかった…と落胆の感情が湧き起こる場合もあります。その作品が人気作であればあるほどにそんな落差の危険は背中合わせとして存在します。

    一方でこの世には”スピンオフ”という考え方があります。既存の作品(本編)からそれに関連する別の作品が派生した作品を指す”スピンオフ”。それは、あなたが夢中になった物語の一部分を、もしくは光が当てられなかった部分を深掘りしてくれるものです。物語としては揺るがない結末、しかし、そこに名前が登場したまさかの人物を深掘りしていく”スピンオフ”は、元々の物語の世界をさらに深めてくれる可能性に満ち溢れています。

    さてここに、深緑野分さんの代表作の一つでもある「この本を盗む者は」の”スピンオフ”を含む11編もの短編が収録された作品があります。単体でも通用するくらいに高い完成度を誇る”スピンオフ”に酔わせてもらえるこの作品。振り幅の広いさまざまな物語世界の登場に”読む楽しさ”を感じるこの作品。そしてそれは、深緑さんが”奇想と探究”の先に読者に届けてくださる10周年メモリアルな物語です。
    
    『そろそろ自分で編めるようになったら』と、『妹の髪をブラシで梳かしてやりながら』『わざと溜め息混じりに言』うのは主人公の『わたし』。『もう大学生だというのに』『ヘアアレンジの雑誌を』見せて『こんな風にしてくれと頼』んでくる妹は『だってさ、わたしがやるとすごく変になるんだもん』と言いながら『すっかりリラックスしてい』ます。『小学二年生の時、仕事で忙しい両親の代わりに見よう見まねで』『幼稚園児だった』妹『の髪を整えてやって以来』『ずっとこの役目を請け負っている』という『わたし』の耳に『つけっぱなしのテレビの音が聞こえ』てきました。『藁人形に恨む相手の髪を入れるとかどうとか』いう内容に『今日のワイドショーは怪談特集らしい』と思う『わたし』は『夏が近い』とも思います。そんな『わたし』は、『三歳年下の妹に代わって』さまざまなことをやってあげてきた過去を思う中に、ふと、『でも妹がわたしのために何かしてくれたことなんてあっただろうか』と考えます。『仲は悪くない』ものの『家族のお姫様で、好きなことしかしてないような気がしてしまう』妹のことを思い、『この先もずっとこうだったらどうしよう』と思う『わたし』。そんな時、『あ』と言葉を漏らした『わたし』は、妹の『茶味がかった黒髪の中に、きらりと光る筋』を見つけ『白髪だ』と思います。『中学の頃から白髪があった』という『わたし』。『やった、ようやくこいつにもできたのだ』と思う『わたし』。そんな時、『どうしたの?』と『一瞬手を止め』た『わたし』に、『妹が鏡越しにこちらを見つめ、尋ねて』きました。『白髪があるよと教えてやるかそれとも放置するか、むしろいっそのこと目立つよう表面に編みこんでやって、隣を歩くだろう彼氏に見つけさせようか』と逡巡する『わたし』。そんな『わたし』はどんな決断を下すのか、そしてそんな決断の先に待つものは…という二編目の短編〈髪を編む〉。仲睦まじき姉妹のほっこりとした日常の一コマを描いた好編でした。

    “2023年5月26日に刊行された深緑野分さんの最新作であるこの作品。”発売日に新作を一気読みして長文レビューを書こう!キャンペーン”を勝手に展開している私は、2023年1月に村山由佳さん「ある愛の寓話」、2月に町田そのこさん「あなたはここにいなくとも」、そして先月にも近藤史恵さん「それでも旅に出るカフェ」…と、私に深い感動を与えてくださる作家さんの新作を発売日に一気読みするということを積極的に行ってきました。そんな中に、以前からずっと読みたい!と思ってきた深緑野分さんの新作が登場することを知って、発売日早々にこの作品を手にしました。

    “‘読む楽しさ’がぎゅっと詰まったカラフルな11の物語。ミステリ、児童文学、幻想ホラー、掌編小説 etc. 書き下ろし「この本を盗む者は」スピンオフ短編を含む、珠玉の全11編”とこの作品が如何に盛り沢山な内容のものであるかを煽る内容紹介に読む気をそそられます。私は同じ作家さんの作品を三冊セットで読むことを三年以上に渡って続けていますが、今回、深緑さんの作品を読むに当たってまず「この本を盗む者は」を読みました。意図して選んだわけではありませんが、”スピンオフ”を先に読むのもイマイチなので、この選書は正解でした。では、そんな”スピンオフ”のことも含めこの作品をご紹介したいと思います。まずは、”珠玉の全11編”の中から私が特に気に入った三編をご紹介しましょう。

    ・〈耳に残るは〉: 『三年ぶりに目にする故郷は思った以上に変化している』と思うのは『ピアノを弾く仕事をしている』主人公の真琴。『久しぶりに帰ってきた娘の世話を焼』く両親に『体は元気』、『夫も協力的』…と話す真琴に両親は安堵します。しかし『一年前に最愛の人を亡くしたことは誰も知らない』と思う真琴が散歩に出ると『チャイコフスキー「舟歌」』の『ピアノの旋律が流れてき』ました。『ここでピアノ教室を開いていた頃』に生徒だった『響香という名前の少女のことを思い出す』真琴は、聞こえたきた演奏の『音を外』す箇所が響香と同じだと思い『音の源を探し』、家の前に着くと音が止みました。そんな家のインターホンを押す真琴が見るものは…。

    ・〈贈り物〉: 『大きな音がして』『体をびくりと震わせた』のは主人公の『あなた』。『近くで地雷が爆発したのかと思』う『あなた』でしたが被害はありませんでした。『反政府ゲリラが一斉蜂起して国の防衛軍と衝突、約一年に及ぶ内戦』の末『政府側の勝利で終結した』今、街は『瓦礫の山』でした。『深刻な物資不足』が続く中、『こぶし大にも満たないパンの塊ひとつ』を受け取る『あなた』は店主が『配給手帳を矯めつ眇めつ眺め』るのを見て、『この名前に変えて一ヶ月。もしやもうバレたのだろうか』と焦ります。そして、今度は郵便局の行列に並んだ『あなた』は、『裏切ったら殺す』と脅された『反政府ゲリラ』のアジトでの出来事を思い出します。

    ・〈カドクラさん〉: 『兵隊さんは風呂にも入らずお国のためがんばっていらっしゃるのに、文句をたれるな。ありがたいと思え』と叱られる日々の中、『ぎゅう詰め』の『夜行列車』に乗ったのは主人公の『僕』。『行きたくもないけど、安全な場所ですごせるだけで幸運なのだから、我慢しないといけない』と思う『僕』は『人差し指と中指が途中からすっぱりなくなってい』る『カドクラさん』の元へ疎開しました。『くすくすひそひそと陰口』を言われる学校生活に馴染めない『僕』でしたが、ある日『学級のボス』と喧嘩になります。そんな中で『カドクラさん』の名前を出され『お前もヒコクミンだ。ヒコクミンは殴られても文句は言えないんだ』と言われた『僕』。

    11の短編から三つをご紹介しましたが、バラエティに富んでいるのがお分かりいただけると思います。では、そんな作品の全体としての魅力を三つの方向からご紹介したいと思います。

    まず一つ目は本屋大賞2021で第10位となった〈この本を盗む者は〉へと繋がる二つの仕掛けです。その一つ目が〈御倉館に収蔵された12のマイクロノベル〉です。『御倉館』という言葉でピン!と来られた方もいらっしゃるかもしれませんが、これは〈この本を盗む者は〉の舞台となった御倉家の”巨大な書庫”です。『古今東西、名作から珍品まで、現在239,122冊の蔵書がある館』とされる『御倉館』。ここでは、そんな『館にあってほしい本のタイトルを一般に募集し、そのタイトルから着想して小さな物語にした』という12の作品が収められています。それこそが、『100文字程度で綴られた超短編小説』を指すという『マイクロノベル』です。この言葉自体初めて聞いた私ですが、たった100文字でお題とされた書名を元に見事にコンパクトにまとめられた超短編が展開します。〈90歳から人生大逆転できる完全仙人マニュアル〉、〈最古の落とし穴と、穴の底での物語〉、そして〈チョコパイひとつ分の冒険〉など、こんなユニークな書名を思いついた一般応募者の方も凄いと思いますが、それをたった100文字で超短編にまとめる深緑さん。残念ながら、たった100文字をご紹介するのは即ネタバレになるためタイトルだけにしておきますが、なかなかに面白い世界、これには私も挑戦したくなってきました。そしてもう一つが〈本泥棒を呪う者は〉という”スピンオフ”の存在です。『御倉たまきほどの癇癪持ちはなかなかいない…』と始まる物語は、あのファンタジー世界に読者を一気に舞戻してくれます。そこに展開するのは、「この本を盗む者は」の主人公・御倉深冬の祖母である御倉たまきが主人公となる物語です。たまきが本にかける深い思いとは?『ブック・カース』に隠された真実とは?そして、深冬が主人公となる「この本を盗む者は」へ見事に橋が渡される極めて完成度の高い物語がそこに展開します。はい、ここで断言します。

    ★ 「この本を盗む者は」を愛される読者の方、そうあなたです。そんなあなたは、何があってもこの作品を読んでください。この完成度の極めて高い”スピンオフ”を読んでようやくあのファンタジーな物語が決着するのを感じる読後があなたを待っています。オススメレベルではありません。必ず読むべきです。

    そして、もう一つ大切なことを付け加えさせてください。

    ★ 「この本を盗む者は」を未読という読者の方、そうあなたです。そんなあなたはこの本を先に読んではいけません。「この本を盗む者は」→ 「空想の海」の順番です。こちらもキッパリ!お伝えしたいと思います。

    そして、これを言うことは若干憚られるのを感じますが、正直なところ「この本を盗む者は」よりも「空想の海」の短編〈本泥棒を呪う者は〉の方が完成度が高い気がします。少なくとも、圧倒的に読みやすく万人が面白いと思える内容に仕上がっています。なので最後にもう一言。

    ★ 「この本を盗む者は」を途中で挫折された方、そうあなたです。そんなあなたも、この短編は間違いなく楽しめます。もしかすると、この短編を読んだことをきっかけに「この本を盗む者は」に再チャレンジしたくなるかもしれません。

    ということで、この短編は万人にオススメな作品であり、この短編集の中でも最もオススメしたい作品です。私の読書&レビュー歴にかけてこれは断言させていただきたいと思います。

    次に魅力の二つ目としては、上記もしたようにこの短編集のバラエティ豊かな作品群の存在です。連作短編でなければ、短編集はそれぞれの短編に繋がりのないさまざまな作品が収録されていくものだとは思います。しかし、この作品の幅の広さは半端ではありません。『妹の髪をブラシで梳かして』あげる姉という極めて日常感溢れる描写の〈髪を編む〉を読み終えた読者は、『土塊昇天現象を一番はじめに目撃した人物は、異常と感じただろうか?』という意味不明な文章から始まる〈空へ昇る〉で度肝を抜かれます。そして、『ピアノを弾く仕事をしていると』いう真琴が久しぶりに故郷へと帰る先の物語が描かれる〈耳に残るは〉でまた日常風景が戻ってきます。内容紹介に、”ミステリ、児童文学、幻想ホラー、掌編小説 etc”と説明される通り、極めて振り幅の大きな作品群には、正直なところ戸惑いの方が大きいですが、これだけ振り幅があるとどれか好きな作品に出会える可能性が高まるとも言えます。上記した『マイクロノベル』の工夫など読者を飽きさせない工夫にも溢れたこの作品、ちょっぴり異色の短編集というのがこの作品の魅力だと思います。ただし、頭の切り替えがついていかない…とおっしゃる方も出そうには思います。この辺り、少しとっつきにくい一面もあるかもしれません。

    そして、最後に三つ目はなんと言っても書名「空想の海」に繋がるであろう冒頭の短編〈海〉の存在です。何が凄いかを冒頭数行の引用でご紹介しましょう。

    『そうしてすべてが終わると、荒くれた世界のはずれに、海が生まれた。
     その色は誰もが知る海と同じ青だが、深く、光をも飲み込み、
    ほとんど黒く見える。
     海面は盆のように平たく滑らかで、さざなみひとつ立たない。
     水の中にいのちの姿はなくただ静かなだけで、
    砂時計よりも遅い速度で、しかし確実に広がり、大きくなっていく』。

    まるで詩を読んでいるかのような独特な雰囲気感に溢れる文章から始まるこの作品。この作品を開いて冒頭の短編である冒頭の文章を読み始めた読者は間違いなく戸惑います。小説には主人公がいるのは当たり前だと思います。小説を読み始めた読者は主人公が誰であるかを理解し、その主人公がどのような境遇に置かれているか、そして何をしようとしているのかという情報を元に物語の概要を理解しようとすると思います。ところが、この冒頭の短編〈海〉は、そんな読者の行動を嘲笑うかのように最後までこの調子で展開します。もちろん、そこには主人公の『私』が登場しはします。しかし、茫洋とした雰囲気感が揺らぐことはありません。

    『あなたはもうここにいない。
    この世にはがらんどうの新しい海があるだけ』

    そんな風に描かれていく物語は、詩で書かれた小説、もしくは詩と小説が融合したような世界を見せてくれます。こんな作品が冒頭に置かれることの絶大なインパクト。意味不明、とおっしゃる方も出る可能性はありますが、私としてはとても好きな世界観の物語を読んだ気がします。これから読まれる方には、まずはこのなんとも不思議な『海』を語る物語に是非ご期待いただければと思います。

    “奇想と探究の物語作家、デビュー10周年記念作品集!”

    そんな本の帯の言葉に深緑さんの作家生活の一つの節目となる作品であることを感じるこの作品。そこには、さまざまな雑誌に掲載されてきた短編と、この作品のために書き下ろされた短編が混在する中に、深緑さんならではの物語が描かれていました。Twitter企画で募集した本のタイトルに『マイクロノベル』を書き下ろすという意欲的な試みを見るこの作品。「この本を盗む者は」を愛する方には絶対に読むべき”スピンオフ”が待っているこの作品。

    “読む楽しさ”をさまざまな方向から存分に味わわせてくれる、深緑さんの懐の深さを垣間見せてもくれる作品だと思いました。

  • Web東京創元社マガジン : 「深緑野分のにちにち読書」第一回
    http://www.webmysteries.jp/archives/28345976.html

    SHONO Naoko Illustrations
    http://zinc.boy.jp/

    Naoko Shono Illustrations
    https://nshono.tumblr.com/

    「空想の海」深緑野分 [文芸書] - KADOKAWA
    https://www.kadokawa.co.jp/product/322206000479/

  • 海:本を海に沈める(表紙 庄野ナホコ)
    空へ昇る:土塊昇天現象
    贈り物:裏切者の末路,スリリング
    ☆緑の子供達:自転車作り
    「この本を盗む者は」より,
    タイトル公募(12)と派生作品(本泥棒)あり。

  • 万華鏡のような一冊。

    想像以上に幸せな時間だった。

    11篇のジャンルいろいろな物語は大海原でくるくると新しい色模様が拡がる万華鏡を覗いた気分。

    目に飛び込む意外な色模様に時にうっとり、時にせつなく、時にハッとしたり、ほわっとしたり。

    心の揺れ幅のなんと大きいことか。
    改めて深緑さんの筆による無限の海を感じた。

    いつでもオールを持っているからこそ、日々の営み、目に耳にする出来事から空想創造の海へと漕ぎ出し、こういう物語がふわっと生まれるんだろうな。

    中でも繰り返しの虚しさの色模様がピリッと焼きつく「カドクラさん」は秀逸。

  • どうしてこの本を買ったのか、理由を覚えていない。本の雑誌で紹介していたのだろうか。改めて深緑野分について調べてみたら、推理作家で、これまで何度も直木賞候補にノミネートされていたとのこと。どうやら実力派の作家のようだ。蔵書を確認したところ、アンソロジー「想像見聞録 Voyage」に名を連ねていた(「水星号は移動する」という作品)。この本の作家の殆どがSF作家なので、正しく今月のSFマガジンの副題「ミステリとSFの交差点」に佇んでいる作家なのだろう。最近の紙魚の手帳にも短い作品「メインディッシュを悪魔に」を寄せていた。

    帯に書かれた「カラフルな11の物語」のカラフルの意味は十分に判った。奇想と探求の物語作家、デビュー10周年記念作品というのも頭に入れて読んだ。どの作品も読み易く、一つ一つの作品が独立しているので、全く飽きることなく一気に読み進めることができた。特に心に残ったのが「空へ昇る」、「耳に残るは」、「贈り物」、「プール」、「本泥棒を呪う者は」、「緑の子供たち」、なんだ11作品中6作品も選んだ。素晴らしい作品集じゃないか。そして、深緑野分は今後も注目して行きたい作家のひとりとなった。

  • 「空想の海」(深緑野分)を読んだ。
    
「空想の海」というタイトルそのままのあらゆるものを産み全てのものを呑み込む、深緑野分さんのなかで揺蕩う海からの贈り物だな。
    
これまでに読んだ深緑野分作品は、戦争や戦後の占領下などある種の極限状態における人間の愚かさみたいなものを抉る物語だったので、この短編集を新鮮な驚きと共に迎え入れる。
    
「髪を編む」 : この短篇に出会えただけでもう満足だな。と、思えるくらいこれが好き。本当に見事!
    
「イースター・エッグに惑う春」と「カドクラさん」はわたしの中の深緑野分のイメージに重なるものがある。
    
「本泥棒を呪う者は」と「御倉館に収蔵された12のマイクロノベル」は著者の別著「この本を盗む者は」関係とのこと。
    
ほか、意表をつく物語や細やかな心の綾を見事に捉えた物語など粒よりな11の短篇。

  • 段々感じる不穏さが魅力な作家さんと思っていたけど、色んなカラーが見れた短編集だった。
    『緑のこどもたち』『贈り物』『カドクラさん』

  • 【収録作品】海/髪を編む/空へ昇る/耳に残るは/贈り物/プール/御倉館に収蔵された12のマイクロノベル/イースター・エッグに惑う春/カドクラさん/本泥棒を呪う者は/緑の子どもたち

    「海」 ディストピア。
    「髪を編む」 姉妹のかわいらしい話。
    「空へ昇る」 土塊昇天現象。
    「耳に残るは」 亡くなった人の遺した声や音。
    「贈り物」 戦場の火事場泥棒の末路。
    「プール」 百合。
    「御倉館に収蔵された12のマイクロノベル」『この本を盗む者は』の「御倉館」にあってほしい本のタイトルを公募し、そのタイトルから着想した12編のマイクロノベル。
    「イースター・エッグに惑う春」 反戦。
    「カドクラさん」 ディストピア。ありうる未来。
    「本泥棒を呪う者は」 『この本を盗む者は』の前日譚。
    「緑の子どもたち」 一人で暮らす子どもたちの共同生活。

  • 不思議な一冊。
    正直、読みにくい話もあったけど、小説って自分が今いる場所ではない、想像も及ばないような場所に連れていってくれるものなんだよなってことに、あらためて思い至った。
    小説のもつ不思議で大きな力を感じた。

  • 本当に同一人物が書いたのか!?
    と思うくらいバラエティに富んだ短編集

    内容だけでなく文章も
    ぜんぜん違う感じがして驚いたよ

    おっ!と思う短編もあったが、
    大半がイマイチ

    これだけバラエティに富むと
    短編それぞれで世界観に入り込むのが大変

    これも読みにくさに
    つながった

    短編で面白いの教えてと言われたときに
    オススメとは言えないので★2つにしときます

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著者プロフィール

深緑野分(ふかみどり・のわき)
1983年神奈川県生まれ。2010年、「オーブランの少女」が第7回ミステリーズ!新人賞佳作に入選。13年、入選作を表題作とした短編集でデビュー。15年刊行の長編『戦場のコックたち』で第154回直木賞候補、16年本屋大賞ノミネート、第18回大藪春彦賞候補。18年刊行の『ベルリンは晴れているか』で第9回Twitter文学賞国内編第1位、19年本屋大賞ノミネート、第160回直木賞候補、第21回大藪春彦賞候補。19年刊行の『この本を盗む者は』で、21年本屋大賞ノミネート、「キノベス!2021」第3位となった。その他の著書に『分かれ道ノストラダムス』『カミサマはそういない』がある。

「2022年 『ベルリンは晴れているか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

深緑野分の作品

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