日本アパッチ族 (角川文庫 REVIVAL COLLECTION こ 2-1)

著者 :
  • KADOKAWA
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感想 : 11
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  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041308011

作品紹介・あらすじ

鉄を食べる人間-それがアパッチだ!憲法改正によって失業罪に問われた木田福一は、食料も水もない廃墟の追放地でアパッチ族になった。その勢力が増大するにつれ正体不明のアパッチに日本国中が大騒ぎとなる。ついに軍隊はクーデターを起こして政府を倒し、アパッチ族を制圧にかかった…。現代文明への痛烈なる諷刺を巧みな筆致で描き出す珠玉の一冊。

感想・レビュー・書評

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  • 戦禍の廃墟が生々しく残る大阪の街に、鉄を喰らって血肉とする人間「アパッチ族」が現れた。当初は隔離された遺棄地の中で細々と生き延びるだけだった彼らが、政治的な思惑から住処を追われ、日本全国に拡散していくに従って、その存在は日本という国家を、また人間という種の生き様さえも変容させる一大勢力となっていく。止むにやまれぬ事情でアパッチ族の一員となった気弱な青年が目撃したその勃興の歴史の実態は、そして行く末は?

    日本SF史上に燦然と輝く巨星・小松左京の長編デビュー作。如何にもデビュー作らしい若々しく荒削りなパワーに満ち溢れつつも、そこかしこに垣間みられる文明批評の視点、社会変革を精緻にシミュレートする文脈、叙情的な台詞運びを織り込みつつも決してお涙頂戴には流れない冷厳たるストーリーに、その後開花する小松SFの本質が既にてんこ盛りに盛り込まれています。これが長編デビュー作って、どんだけパワフルなのか小松御大。

    「鉄を喰って生きる人間」という荒唐無稽なSF的アイディアを立役者としてストーリーを展開するという点で、この作品は紛れもなくSFです。が、鴨は、ひょっとしてこの作品はSFの手法を借りたマジック・リアリズムではないのか?という印象を受けました。物語の前半は、社会全体の不穏な情勢を描きつつも、主人公の青年がアパッチ族の一員に至るまでのやや滑稽な(裏返すと相当悲惨な)いきさつと、アパッチ族の生態及び社会形態をユーモラスな筆致で描き出し、この時点で読者はアパッチ族が跋扈する幻想の近代日本に取り込まれていきます。
    終戦直後の大阪で実際に暮らしていた人なら、きっとこの作品で描写される大阪の町並みやそこに暮らす人々の息づかいは、相当リアルに感じられたと思うんですよね。小松左京自身が正にそこに暮らしていたわけですし。そんな現実と地続きの世界に立ち現れるアパッチたち。彼らによって、物語の後半は加速度的に政治色と暴力の度合いを増し、日本全体を、そして世界全体を巻き込んだ「旧人類 vs. アパッチ族」の戦いへとなだれ込んでいきます。最終章の壮絶なカタストロフィの後に訪れる、静かで物悲しいラストシーンと、冷徹な結末。小松左京がこの作品で描きたかったのは、単なるユーモアSFでもシミュレーション小説でもなく、日本という国家/日本人という民族そのものを再構築する可能性だったのではないか、そう鴨は思います。
    間違いなくSFではありますが、SFという言葉で一括りにするのは本当にもったいない、硬派な傑作だと思います。タイトルと表紙のアートワークがおちゃらけてるので、なかなか手に取りづらいんですけどね(笑)

  • 小松左京は私の大好きな作家の一人であるが、この「日本アパッチ族」は彼の作品の中でもベスト3に上げられる作品である。SFにはまっていた高校生時代に読むんで大変ショックを受けた記憶がある。最近、また読もうと思って探したのだが残念ながら一般の本屋では手に入らない。図書館で探して久しぶりに読んだ。その奇抜な発想、構想力、ユーモアを交えながらもハードボイルド。物語の面白さを存分に教えてくれる小説であり、是非、復刊されみんなに読んでもらいたいものである。

  • 個人的に、『国家反逆』カテゴリーに含めている作品(ほかには井上ひさし「吉里吉里人」、筒井康隆「俗物図鑑」、大江健三郎「同時代ゲーム」)。

  •  刺激的で最高に楽しかった。傑作SF。

  •  数年前、全国各地で金属窃盗事件が多発し、大きなニュースになった。ガードレールやらすべり台やらお寺の鐘やら工事現場の鉄板やら、こんなん無くなったら周囲は困るだろうにというものが普通に盗まれているのだ。あの後藤真希の弟サンも金属ケーブルの窃盗で捕まったっけ。
     これらの金属は需要が高まっている諸外国に行っているのではないかと言われている。もちろん真相はわからないが、そんなに金属って高く売れるんだなあと感心したものだ。
     しかし、戦後の日本にも似たような状況があったのだ。金属窃盗事件のニュースを見て、この小説を思い浮かべた人も多かっただろう。
     小松左京の処女長編『日本アパッチ族』だ。

     大阪に暮らす木田福一は、上司を殴ったために会社をクビになった。あまりの事に呆然としつつあっという間に3ヶ月が経過し…彼は「失業罪」で追放の刑を下されてしまう。大阪の街中にある「追放地」に閉じ込められてしまった木田は、自らをアパッチと名乗る異形の集団に出会うのだが…。
     実はアパッチというのは自らの体を変えて環境に適応した元人間らの集団だった。どん底から這い上がるためになんと<鉄を食って生き、体も金属化させている集団>なのである。
     このアパッチが八面六臂の活躍をするのが本書の大まかな内容だ。異形の集団といっても、元々は大阪のオッサンたちなので非常に陽気で屈託がない。会話ももちろん大阪弁で、「どないしなはった?」「何かおましたんか?」ってな具合なので、ストーリーの緊迫度に関係なく実にユルい。アパッチ自身のんびりした性質なのだ。

     しかし本書で書かれている物語がとても深刻な問題をはらんでいる事に読者はすぐに気づくだろう。
     憲法が改正されて「失業」が罪になっている社会というのも不穏だが、それにも増して気になるのが、軍隊が復活している社会である。アパッチを攻撃する為に出動した軍隊との攻防のシーンは、失業者のなれの果ての集団vs国家の軍隊という絶望的なシチュエーションなのだ(そんな感じはしないように書かれているけど)。戦争を経験した小松氏ならではの皮肉であろう。
     本書の背景として、戦後日本に実際「アパッチ族」とあだ名された金属窃盗団が存在したことがあげられる。まだ復興真っ最中の日本には所々に廃墟や施設跡があったらしく、そこから鉄くずを不法に回収していた人がいたらしい。小松氏はそんなアパッチ族が跋扈する廃墟からこの物語を創造したと語っている。
    (ちなみに開高健氏の『日本三文オペラ』、梁石日氏の『夜を賭けて』もアパッチ族を扱っているらしい。僕は読んだ事ないけど)
     つまりこの物語を読む上では「戦争の記憶」「失業」「貧困」といったキーワードが非常に重要になってくるのだ。それを踏まえて読むと、単なる娯楽小説ではなく、ちょっとした毒を含んだ風刺小説の側面もあることに気づくだろう。
     それに加え、政治・経済・社会を徹底的に風刺し作品の中に取り入れた手法は並みの技法ではない。この手腕がやがて日本を完全に壊滅させてしまうあの『日本沈没』へと発展していくのだ。

     人間が金属を食べて、体まで金属化させていく部分については科学的・生理学的に一応説明がされており、本気なのかハッタリなのか何だか納得させられてしまう力技。まー読んでて「本当にこんなことって起こりそう」と思わせ、しかも読んでて「鉄って食べてみたらなんだかおいしそう!」とまで思わせてしまうところが小松SFの醍醐味だろう。

     ちなみに小松氏は、新婚時代に奥さんの嫁入り道具であるラジオまで質に入れてしまい、娯楽がなくなった妻のためにこの物語を書き始めたという。微笑ましいエピソードだ。

     ま、とにかく、やたらに陽気で人懐っこいアパッチたちのキャラクターに思い切り感情移入してしまう。おまけに鉄を食うもんだから、戦車だろうがパトカーだろうが何でもかんでも平らげてしまう痛快さ!

     国家との衝突を経てアパッチ族は日本社会に変化をもたらしていく。彼らの行き着く先は、人類の未来はどこへ向かうのか。ラストでの木田の独白が胸を打つ。息をもつかせぬ展開で描ききる、小松左京初期の傑作である。

  • 以前に梁石日の「夜を賭けて」で、
    大阪砲兵工廠跡地のアパッチ族の話を知ったが、
    小松左京が書くとこうなるか。
    シニカルな視点とユーモア、泣き笑い。
    関西人の著者が描くイチビリな大阪弁が素晴らしい。

  • SF界の巨体として知られる氏の処女長編。

    前書きに見られる氏の原点への渇望。

    作品の中に流れる氏のほとばしるパッションに圧倒される作品。


    「アパッチか!人か!」

    人類に突き付ける問いに、あなたはどう答える?

  • 鉄を食って生きるアパッチ族。平和に暮らしていた彼らに日本政府が攻撃を開始した。

  • 実際に読んだのは復刊前.

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著者プロフィール

昭和6年(1931年)大阪生まれ。旧制神戸一中、三校、京大イタリア文学卒業。経済誌『アトム』記者、ラジオ大阪「いとしこいしの新聞展望」台本書きなどをしながら、1961年〈SFマガジン〉主催の第一回空想科学小説コンテストで「地には平和」が選外努力賞受賞。以後SF作家となり、1973年発表の『日本沈没』は空前のベストセラーとなる。70年万博など幅広く活躍。

「2019年 『小松左京全集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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