最後のディナー (角川文庫 し 9-6)

著者 :
  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (252ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041682067

作品紹介・あらすじ

龍臥亭で出会った里美と石岡に新たな事件が降りかかる。上京してきた里美に勧められるままに、英会話学校に通うはめになる石岡。そこで知り合った孤独な老人と親交を深める。しかしイヴの夜に里美と三人で囲んだ晩餐を最後に、彼は帰らぬ人となった。あの夜、彼が取った謎の行動の意味とは…?表題作「最後のディナー」ほか全三編を収録。心が痛むほどの透き通った愛を描いた、「御手洗シリーズ」珠玉の短編集。

感想・レビュー・書評

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  • 本短編集は島田作品の中では御手洗シリーズに位置づけられるのだろうが、『龍臥亭事件』同様、御手洗は電話のみの登場で実際は石岡と『龍臥亭事件』で知り合った犬坊里美二人の顚末を描いた連作短編集となっている。

    まず冒頭を飾るのは犬坊里美が広島の大学から横浜のセリトス女子大に転入して、上京してきて石岡と共に一日横浜見物をする顚末を語る「里美上京」から始まる。これは非ミステリ作品だが、石岡の『異邦の騎士』事件の良子の思い出が里美との横浜散策中にフラッシュバックするあたり、こちらも胸に去来する熱い思いがあった。
    特に横浜は何度も訪れているので以前『異邦の騎士』で読んだ時よりも鮮明にイメージが蘇り、あたかも里美とデートしているようだった。

    その後、幕末に起こった薩摩の大飢饉に遭遇した酒匂帯刀と寂光法師がなぜ生き延びることができたのかという謎を解明する「大根奇聞」と続き、クリスマスに起きた悲劇を語る表題作「最後のディナー」で幕を閉じる。

    「大根奇聞」はこちらが考えていた解答の上を行く解決だったが、いささか印象としては弱いか。
    旧暦と新暦との差異を利用した降雪という真相は驚いたが、なるほどという域を出ない。しかし挿入される「大根奇聞」という読み物の部分は今までの島田作品同様、読ませる。やはり島田氏は物語を書かせると本当に巧い。

    「最後のディナー」は今思えば『御手洗潔の挨拶』に所収された「数字錠」を思わせるペシミスティックな作品。
    石岡が里美に誘われ、英会話教室に通うくだりはギャグ以外何物でもなく、石岡がこれまで以上に惨めに描かれているのがなんとも情けない。大田原智恵蔵という老人の隠された過去とかその息子の話とか色々な哀しい要素はあったが、今一つパンチが弱かったか。モチーフは良かったのに十分に活かしきれなかった感が強い。これはやはり石岡では力量不足だという事なのかもしれない。

    気になったのは「大根奇聞」と「最後のディナー」で石岡がちょこっと話しただけで真相が解る御手洗の超人ぶり。正直やりすぎだろうと思う。これは逆に御手洗というキャラクターの魅力にならなく、あまりに現実離れした架空の人物というにしかとれない。

    本作品で見せる石岡の極端なまでの鬱状態はそのまま当時の島田氏の精神状態を表しているのではないだろうかという推測は下衆の勘ぐりだろうか。

  • たまにはこういうのも良い。
    暗闇坂や水晶のピラミッドなどのような壮大なストーリーがあるわけではないが、魅力的なキャラクターが読んでいて楽しい。
    石岡くんにはもう少し独り立ちしてほしい。

  • 文庫版で再読。
    初読時は里美の喋り方がうざすぎなのと、石岡君が情けなさ過ぎてまともに読めずにさらっと読んだだけだったんですが、今回改めて読んでみるとそれなりに楽しめました。中でも「大根奇聞」がよかった。島田先生の史実を織り交ぜた歴史創作話はやっぱり面白いなぁと思った。
    最近横浜の馬車道へ行ったので、色々思い出しながら読みました。次行った時には十番館でケーキを食べたい。

  • 石岡君には乗り越えて欲しいが忘れて欲しくない。
    里美で上書かれてしまうかもしれないと思うとあまり楽しく読むことが出来なかったのが正直な感想。
    御手洗がいなくても弱者を守りたいという思いが伝わる作品だった。

  • 御手洗シリーズの短編集です。
    私は御手洗シリーズの1作目の『占星術殺人事件』しかまだ読んだことないんですが、短編ならまあ大丈夫かなと思って順番関係なく読んでみました。
    御手洗シリーズといっても、今作は御手洗さんがほとんど出てこなかったです。
    あと、里美さんは以前出てきた人物らしく、いきなり出てきて誰⁈って感じになって、やっぱりちゃんと順番通りに読むべきだったかなと思いました。

    内容は、うーん…。短編だから、続きがすごい気になる!っていうような感じではなかったです。
    3つの話の中では、表題作の最後のディナーが良かったです。
    私的に石岡さんがネガティブで、どうしても好きになれません。

  • 3月の2冊目。今年の35冊目。

    御手洗シリーズの短編集。ただ、御手洗はほとんど登場せず、石岡さんに主に焦点が当てられている。『異邦の騎士』を読んでいないとちょっと分からないところがところどころ出てくる。作者自身がそのことについて解説に書いているので、これを読む前に『異邦の騎士』を読んでおいておいたほうがより感情移入ができるかもしれない。というか、そこから20年も経っているとは、驚きでした。ちょっとした休み時間なんかにどうぞ。気軽に読めます。

  • 「里美上京」、「大根異聞」、「最後のディナー」という石岡さんと里美にまつわる3つの短編からなる短篇集。

    「龍臥亭事件」、「龍臥亭幻想」、「犬坊里美の冒険」と読んでから、同じく里美が出てくる本作を読んでみようと思って、本棚から取り出して再読。以前に読んだけど、記憶なし。

    ■里美上京
    広島の大学から横浜の大学に転入してきた大学2年になった犬坊里美が石岡さんを訪ねてデートするというセンチメンタリズム溢れる短編。

    石岡さんは、かつての良子との横浜デートを思い出し、
    終始センチメンタルな感じ。

    ■大根奇聞
    幕末の薩摩で起こった謎を解く歴史ミステリー。
    心暖まるストーリー。

  • 御手洗シリーズ久しぶりに読んだ気がする。楽しかった。さすが島田氏。LAはいいところですか?

  • 石岡×里美の短編集。表題作「最後のディナー」は悲しいけど素晴らしい!

  • 全編通して、里美ちゃんは石岡くんを好きなのかい?と言いたくなりました。この二人のための本と言ってもほぼ間違っていない。本書は「龍臥亭事件」は読破していた方がより楽しめる。(里美ちゃんって誰?とならないだろう)。言葉の壁って怖いなあ。私も石岡くん並の英語力なのでそう思いました。リズムですか?御手洗(島田)先生。

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著者プロフィール

1948年広島県福山市生まれ。武蔵野美術大学卒。1981年『占星術殺人事件』で衝撃のデビューを果たして以来、『斜め屋敷の犯罪』『異邦の騎士』など50作以上に登場する探偵・御手洗潔シリーズや、『奇想、天を動かす』などの刑事・吉敷竹史シリーズで圧倒的な人気を博す。2008年、日本ミステリー文学大賞を受賞。また「島田荘司選 ばらのまち福山ミステリー文学新人賞」や「本格ミステリー『ベテラン新人』発掘プロジェクト」、台湾にて中国語による「金車・島田荘司推理小説賞」の選考委員を務めるなど、国境を越えた新しい才能の発掘と育成に尽力。日本の本格ミステリーの海外への翻訳や紹介にも積極的に取り組んでいる。

「2023年 『ローズマリーのあまき香り』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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