- Amazon.co.jp ・本 (314ページ)
- / ISBN・EAN: 9784041898055
感想・レビュー・書評
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私は花村作品では『ブルース』『眠り猫』『二進法の犬』『ゴッド・ブレイス物語』が好きだが、その4作に匹敵するノンストップ・エンタテインメント。
花村の芥川賞受賞作『ゲルマニウムの夜』はこの『イグナシオ』を焼き直したものと言われていて、花村自身もそのことを認めている。
『ゲルマニウムの夜』は私も発表当時読んだけれど、「焼き直し」とは感じなかった。最初の舞台(修道院とは名ばかりの、非行少年の教護施設)が共通で、よく似た場面も登場するけれど、作品としてはまったく別物だと思う。
この程度の類似で「焼き直し」と批判されてはかなわんだろう、という気がする。2作とも、花村自身の実体験(児童福祉施設での生活)に根差しているのだし。
並外れた美貌と知力を兼ね備えた悪魔のごとき混血少年・イグナシオが衝動的にくり返す殺人と、あてどない彷徨(逃亡とはちょっと違う)を描いている。ストーリーはかなり強引で粗削りだが、イグナシオが愛する3人の女性の描き方がたいへん生々しく、鮮烈で素晴らしい。
3人のうち1人は修道女で、もう1人は日韓混血の高級娼婦……という、一歩間違えば安手のポルノになりかねない人物設定。それでも3人とも、血が通った女性としてのリアリティを具えている(男にとって都合のいい描き方ではあるが)。花村は、艶めかしく女を描くのがうまいなあ。
そういえば、この作品は1996年に映画化されている。私は未見だが、イグナシオ役がいしだ壱成だというだけで、観なくても失敗作とわかる(笑)。
いしだ壱成では白人との混血には見えないし、凄みのある美貌というわけでもないし、並外れた知力をもつようにも見えない。絵に描いたようなミスキャスト。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
暴力は嫌いだけど、暴力的なものは嫌いじゃない。セックスと暴力って結局人間の根本なのか、と思わされる。「疾走」同様、彼の不幸(と一言ではいえないが)はどこからやってきたのだろう、と考えてしまう。
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スピードに飲み込まれていく小説だ。
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内容(「BOOK」データベースより)
神父や修導士の厳しい監督のもと、社会から完全に隔離した集団生活―修道院とは名ばかりの教護施設で、混血児イグナシオは友人を事故に見せかけ殺害した。修道女・文子は偶然現場を目撃するが、沈黙することをイグナシオと約束する。“人を裁けるのは、神だけです。”静謐に言い放つ文子にイグナシオは強く女性を意識し、施設を脱走する最後の晩、初めて文子と結ばれる。そして、己の居場所を探して彷徨い新宿歌舞伎町に辿り着いたイグナシオは、新たな生活を始めるが…。 -
どぎつい内容だが、スピード感とリアルさがある。
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破戒的、暴力的だけど、宗教的。ペシミスティックでもあり、紫色の小説だった。イグナシオが様々な人と出会い、愛や温もりを知るたびに、その自我は密かに、しかし確実に崩壊へ進んでいく。差別を定義するのはすごく難しいけど、あいつに言われるのはいいが、こいつに言われると腹が立つ、と超主観的に説明していたイグナシオの理論には共感できる。多分、差別なんてそんなもんだ。深く、エグい。
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まぁいつもの花村節。
療養中に読むものではなかったかなー。 -
「ゲルマニウムの夜」の元本だそうです。
美形で賢くて性格が曲がってて・・・って、
ラノベかマンガみたいなキャラクタ設定だなあ。
・・・・
でもどんなに茶化しても、やっぱり信仰心って美しい。 -
世間から隔てられた修道院で育てられた賢く美しいイグナシオが輝き、果ててゆく物語。
性的な描写がものすごく多いエロ小説っぽいのに、なぜか読んだ後に目をつぶって余韻を味わいたくなるような、祈りをささげたくなるような不思議な物語。
イグナシオは天使だったんだと思う。
きっと、今の時代に天使は不適合なんだろう。