マリオと魔術師: 他一篇 (角川文庫 リバイバル・コレクション K 49)
- KADOKAWA (1955年3月1日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (158ページ)
- / ISBN・EAN: 9784042081029
感想・レビュー・書評
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平成元年のリバイバルコレクションとして入手。「マリオと魔術師」(旅先の悲劇的体験)、他一篇、「混乱と稚き悩み」(いずれも旧漢字に変換不可能あり)。「あとがき」の、「マンは稀有の強さを持っている」という一言をだけを、引用したいと思います。
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リバイバル コレクション
旧仮名遣い -
2007/5/10購入
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トマス・マンときてまずこの短編集、というのもちょっと奇妙なのかもしれない。もちろん魔の山も、ドクトル・ファウストゥスも、トニオ・クレェゲルもよいけれど、わたしはここに収録された二編、とりわけ「混乱と稚き悩み」と題された掌編がとても好きだ。<br>
この他愛なくしかし美しい作品を、――古い見知ったものを刷新し奪い去る新しい時代の到来が、小さい娘の成長と初恋のきざしのなかに投影される作品――と言ってしまってはまちがいだ。コルネリウス教授のささやかに利己的で報われない、愛情と呼ばれる小さな独占欲を描いた描写は、この作品の白眉であれこそすれけっしておまけではない。
「この一瞬間、彼はこの今晩の祭りを憎んだ。今晩の祭りは、その雰圍氣の中に混つてゐるあやしげな要素でもつて、彼の愛兒の心をかき亂してしまつて、彼から引き離してしまつたのだ。(中略)彼は機械的に微笑した。彼の瞳は曇つた。さうして、目の前に踊つてゐる人々の足の間に見えてゐる、どこかの絨毯の模様をじーつと「見つめ」た。」(141-142頁)
マンの(そしてたぶん訳者の)筆のきらめきは、こうした描写に潜んでいるとわたしは思う。愛娘の親離れに対する父親の落胆は、ここで喜劇的に描かれることもできただろう。しかしマンはそうしない。滑稽であるはずものを、その滑稽さの枠組みを残したまま、ひどく繊細に哀切に、そして深く暗いものとして描く―<br>
これが彼の手腕である。