ハードボイルドの要素も強い、長編ミステリー。
紺野と高遠をベースに、水樹の視線で展開される「上側の世界」と、
記憶が不確かなガネーシャを中心に、夢のなかを彷徨うような「下側の世界」との、
二本立てで物語が綴られる。
大作志向の作品にありがちな、過剰な肉付けが個人的に合わなかった。
人物描写及び状況描写が一々芝居がかっており、それがより一層安っぽさを強調しているように思えてならない。
「人類を撲滅させる因子を手に入れた者同士」の対立では物語として成立しないため、
ニュートラルな水樹の存在が必要だったのであろう。
ただ、水樹の行動には必然さは感じられず、深追いし断罪していく様を肯定させる根拠が不明瞭だ。
一連のメールに隠された謎や眠り病の種明かしは、その昔、少年マガジン誌で連載されていた「金田一少年の事件簿」
で強引に展開される”とんでも理論”を思い出してしまい、読んでいて非常にこっ恥ずかしかった。
作品の中で作者が言いたいことは、おそらく、P308~P311で綴られる「生命連鎖」の論理と、
P597で手短に纏められた「記憶の連鎖」の論理だと思う。
作品をミニマムに纏め上げれば、その主張が読み手により響いたと感じるが、
”たった一行の真実を言いたいばかりに百頁の雰囲気をこしらえている”要素が強い本作では、
その主張は幾つもある記号の内の一つに過ぎない。
読み手により好き嫌いがはっきりと別れる作品だと思う。