なまづま (角川ホラー文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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感想 : 66
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784043944934

感想・レビュー・書評

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  • ヌメリヒトモドキは切っても焼いても真空に閉じ込めても、何をしても死なない。悪臭を放つ粘液を垂れ流し、ゴキブリのように人の住む町に増える。

    そして、人の頭髪や爪、死肉、記憶などを与えると、その人間とまったく同じ意思を持った「近似個体」に成育していく特徴をもつ。

    主人公はヌメリヒトモドキを研究する研究員で、最愛の妻を亡くしている。

    研究チームの一人をヌメリヒトモドキにコピーすることに成功し、そこから妻の蘇生を思い立ち、狂気にとりつかれていく。

    哲学の思考実験「スワンプマン」をホラーに落とし込み、人間のディスコミュニケーションを描いた物語として、とても面白く読めた。

    ただ、終盤で急ハンドルを切った感があり、僕はそこから先をもっと読んでみたいと思った。

    審査員たちに、文体がくどいと評されているが、評者たちは自身の作品を読んだことがないのだろうか。無視していい。

  • 死んだ妻を再生しようと試みた愚かな男。
    再生途上の生物が拙くも「ああな(あなた)」と言葉を発した時、彼女が哀れだった。
    可哀想だった。
    近い将来、クローン技術で同じ過ちを犯す奴が現れそう。

  • 何かこう言うサイエンスホラーって増えたよね。面白いけど

  • 日本ホラー小説大賞は、たまにこういったものが出てくるから侮れない。個人的には角川ホラー文庫の装丁ヤメればいいのに、と、思う。もっと差別化した装丁にすればいいのに。そのほうがこの「なまづま」の良さと心地悪さが際立つだろうに。


    例えば読書がスキで、あたしみたいにグロへの耐性がかなりある知人がいたとしたらあたしはこの本、迷わず勧める。その時の確認事項としては例えば、日本ホラー小説大賞に沿っていけばおそらく、こうだ。

    以下、A群とB群でB群の方がスキ、あるいは最低限B群が「読める」。
    A群例:「黒い家」「ジュリエット」「パラサイト・イヴ」「嘘神」
    B群例:「姉飼」「夜市」「鼻」「粘膜人間」

    上記B群いずれか、特に粘膜人間と鼻を読んだことがあるあなた、きっとあたしのいいたいことがわかりましたね?そうなんですよこの作品、そのレベルのすごさです。しかもすごいのは、架空の生命体のぐろぐろ加減に比べて、地の部分の主人公の独白が、かなり美しい絶望と愛で織りなされていること。ここは4作品とは大きく違ってむしろ、ちょっとした恋愛小説と大差ないほどだ。巻末に選考委員のコメントとして愛のドロドロが書かれていないとあったがそうだろうか?十分切なくもどろどろだったように思うけれど個人的には。

    おっとすっかり忘れていた、どんな話かというと:

    激臭を放つ粘液に覆われた醜悪なばけもの、ヌメリヒトモドキが住み着き、増殖していく東京で、その研究をする私。その汚臭に精神を病みつつもあるとき、ヌメリヒトモドキが人間の抜け落ちた髪や爪を食べて母体に吸収・排出される過程で成長し、その人間の感情や記憶を学習することを知る。3年近く前に死んだ妻の髪を大事に保存していた私が考えたのは、ヌメリヒトモドキを飼育して、妻に模したそれを完成させようとする、が。


    最後のエンディングが、単に絶望感に彩られた予定調和ではないのがいい。あたしは何度か書いているけど完全にハッピーエンド信奉者ではある。けれどそもそも絶望と不快を下敷きにしたこの作品はすでに破綻の音がしていた訳で、その中でこうひねったのであればすごいなーと思ったし。

    気色悪いし生理的におえってなるシーンもたくさんある。でもそれでも、技巧的で巧みな独白部分と、最後の絶望的ででも非常に計算高いこの作品は、読んでよかったと思う。



    <引用>
    「ねっとりとした慢性的な疲労をとびきり深いため息に代えてでろでろと排出すると、私はうなだれるようにして足下を見下ろした。」

    「浮薄さを装っているせいで自分は人に好かれないということに山崎さんも気づいてはいるだろう。だがそれでも彼は演じることをやめない。演じ続けることでいつしか本当に、喪われた過去を顧みず、ただ来るべき未来のためにだけ生きられるようになると夢見ている。しかしその願いどおり、もし彼がもう少し愚かしい人間だったなら、奥さんを亡くした後、彼はもっと幸福な人生を送ってきたはずだ。話を聞く限り、奥さんを失った後の彼の人生は幸福とは言い難い。彼はまだ、聡明なままなのだろう。」

    「彼女の中で、私にはまだたくさんの空白があったに違いない。彼女にとっての私の中に存在している未知な部分は ー 私が多くの言葉を持たないせいで彼女の目には空白に映っていた私の心の一部は、彼女の陰鬱な精神状態を反映してあらぬ色合いを帯びていた。私が自分の多くを語らず、彼女が私の多くを知り得なかったせいで、彼女の中の私は好き勝手姿形を変えて、現実の私の態度とは関係なく、彼女を責め立て、彼女を罵っていたのだろう。」
    <引用終わり>

  • 選評にもあるとおり、よく言えば濃密な文章、わるく言えばしつこくねちっこい文章。
    がしかし、このどろどろでぐちゃぐちゃな物語にこの文章はマッチしているのではないか。
    ホラー好きを自称しておきながら読書経験の乏しい僕だが、この作品には強い衝撃を覚えた。
    傑作であると思う。
    短編賞受賞作の『穴らしきものに入る』も読み、こちらも傑作であると感じたが、もし大賞を受賞するとしたら、この『なまづま』だったのではないかと思う。
    大賞が出なかったのはひじょうに残念だが、短編賞長編賞が例年にも増してよかったので、大満足。

  • ヌメリヒトモドキという生物を利用して亡き妻をよみがえらそうとする話。

    物話が進むごとに主人公や周囲の人の状況が刻一刻と変化していき、読むのに没頭してしまった。
    とても気持ち悪いヌメリヒトモドキという正体不明の生物が妻に変わっていく過程で主人公の心情が狂っていく様がとても恐ろしかった。

著者プロフィール

1987年生まれ、東京都出身。文京学院大学人間学部卒業。第18回日本ホラー小説大賞長編賞を受賞した『なまづま』で、2012年デビュー。奔放奇抜な想像力と独特の世界観が光る気鋭の作家。

「2017年 『臨界シンドローム 不条心理カウンセラー・雪丸十門診療奇談 』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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