先祖供養と墓 (角川ソフィア文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784044006761

作品紹介・あらすじ

「霊魂の恐れをどう処理するか、なお進んで死者の霊魂をどうして祭るか、どう供養するか、どう慰めるか、ここに宗教の原点がある」。丹念な現地調査にもとづいた民俗学の知見により、古代から現代までの日本人の死生観を考察。モガリや葬墓をはじめとする死者と先祖の祭りに宗教生活の根幹を見出し、霊魂観や神観念の成立、その仏教化、寺院の葬送や供養の変容をたどる。宗教の根源、日本文化の本質に迫った名著。解説・碧海寿広

感想・レビュー・書評

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  • ・ 殯(もがり)が気になつてゐたのだが、それが具体的にいかなるものであるのか分からなかつた。wikiには、「死者を埋葬するまでの長い期間、遺体を納棺して仮安置し、別れを惜しみ、死者の霊魂を畏れ、かつ慰め、死者の復活を願い つつも遺体の腐敗・白骨化などの物理的変化を確認することにより、死者の最終 的な『死』を確認すること。その柩を安置する場所をも指すことがある。」とある。私は後の「柩を安置する場所」のやうに思つてゐた。まちがひではないが、 正確でもなからう。第一、どのやうな場所か分からない。「物理的変化を確認する」にしても、それがどのやうな場所で行はれるのかは重要な問題である。私は、本当に殯とは何かが分かつてゐなかつたのである。五来重「先祖供養と墓」(角川文庫)は、その殯について詳しく書いてある。「今の葬式や墓のことでわからないことは、古代の殯にさかのぼっていくと説明できます。」(11 頁)と五来は言ふ。実際、その通りであるらしく、現代の葬儀は殯との関連でかなり詳しく説明される。要するに、殯といつても一つしかないわけではない。いくつかの種類に分けられる。何しろ、私は墓といつても寺の墓等の集団墓地ぐら ゐしか知らない。寺以外の古い集団墓地ならば殯の類があるのかも知れないのだが、私はさういつた場所を知らない。従つて、殯をイメージできないまま現在に至つたのである。第二章は「殯の種類——殯の残存形態」である。ここではそれが5類型に分けられてゐる。青山型殯、忌垣型殯、等々である。その青山型に出 てくるのが花祭、といふより、花祭の前身たる大神楽の白山である。これは早川孝太郎「花祭」にも出てゐた。これが青山型殯の残存だと言ふのである。「白山の中を地獄・極楽として想定したものですが、その構造は木の枝を四角もしくは円錐形にして囲って」(71頁)あるもので、この中で、「十念を授かって、亡くなっても極楽往生疑いなしという証明を受けて出てくるという儀式が行われ」(同前)るのである。所謂生まれ清まりであらう。白山の中で人は一度死ぬ。さ うして生まれ変はつて出てくるのである。すると、あの白山は確かに殯と言へさ うである。殯の残存形は意外に身近にあるものらしい。
    ・今一つ、暮露や放下についてである。「放下踊とか暮露は、念仏ですから、浄土宗関係の人がやるものかと思うとそうではなく、放下僧や暮露は禅宗の放浪者です。梵論師ともいいます。」(176頁)とある。この暮露、ぼろんじは徒然草115段にも出てくる。私は梵論師が放下僧につながることを知らなかつた。「放下僧という禅宗の放浪者に対して、芸だけをする放下がゐます。」(同前)放下僧は僧形、放下は俗形である。しかも、「放下僧に何人か何十人の放下が付いて、一つの興行集団をつくって歩いたようです。」(同前)放下の残された絵は俗形である。もともとは放下だけが単独で存在したものではなく、そのまとめとして放下僧がゐたらしい。現在の放下が団扇やヤナギを負うて何人かで行ふのも、もともとの興行形態によるのであらうか。これも葬送の形であつた。この「暮露は、のちには虚無僧になったりします。」(同前)ともある。現在は尺八 だけが独立して明暗寺に属するやうになつてゐるが、もとをたどれば暮露に行き着くらしい。これも葬送から順に派生してきたものであらう。その大本には殯があるといふのが五来の考えであらうか。殯や葬送から考へることのできるものが 多くあるのはまちがひないらしい。「宗教の原点としての葬儀の問題」(11 頁)を述べた本書であるが、それ以外に実に多くのことを教へてくれる書であつた。

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著者プロフィール

五来重(ごらい・しげる)
1908‐93年。茨城県生まれ。東京帝国大学文学部印度哲学科を卒業後、京都帝国大学文学部史学科国史学専攻卒業。高野山大学教授を経て、大谷大学文学部教授、同名誉教授。専門、日本民俗学、宗教史。著書に、『五来重宗教民俗集成』(全8巻)『五来重著作集』(全12巻・別巻)の他、『仏教と民俗』『高野聖』『熊野詣』『山の宗教』『日本の庶民仏教』『四国遍路の寺 (上・下)』『円空と木喰』『日本人の地獄と極楽』など多数。

「2021年 『修験道入門』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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