空海「秘蔵宝鑰」 こころの底を知る手引き ビギナーズ 日本の思想 (角川ソフィア文庫 G 1-6 ビギナーズ日本の思想)
- 角川学芸出版 (2010年4月25日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
- / ISBN・EAN: 9784044072131
作品紹介・あらすじ
『三教指帰』で仏教の思想が最高であると宣言した空海は、多様化する仏教の中での最高のものを、心の発達段階として究明する。思想家空海の真髄を示す、集大成の名著。詳しい訳文でその醍醐味を味わう。
感想・レビュー・書評
-
以前に同シリーズの『三教指帰』を読んだが、本書の解説にもあるように、その内容と本書の内容はまっすぐにつながっており、空海が若い頃から晩年までブレることなく思想形成していったことがわかる。本書を読んで感じるのは、空海が当時の最先端の思想である中国の様々な思想を理解し、それを大きな体系(物語と言った方がいいかもしれないが)にまとめる、当時としてはおそらく圧倒的な知力をもっていたであろうということだ。空海にこんな風に言われたら、多くの人が密教を目指すようになるのもわかる気がする。現代語訳(訳者自身は「意訳」と述べている)もとても読みやすい。
詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
えっ、難しいんだけど……
-
どこまで行くんだ悟りの世界、って感じです。
分かりやすい日本語訳でしたが、上にいくほど、「こりゃついていけねえわ」でした。
青年期の空海が三教指帰によって明らかにした課題と解答を57歳という円熟期において拡大し構築したもの。
人間の心の在り方を第一住心から第十住心までランク分けしたものであり、それぞれの心の在り方に対応する宗教も説いております。
いえ、ランク分けというよりかは、多様性を乗り越えた共通の帰着点、比較しながら同時に共存できるありかたを空海は見出そうとしていたのかもしれません。
空海の時代には、奈良時代までに大陸から輸入されてきた儒教、道教、小乗仏教、大乗仏教、密教など多様な価値観が取り巻いていたのである。
それなのに、世間の人たちは、自分の目標を失い、何度生き死にを繰り返しても人生の目的については理解しない。
それぞれの心の在り方によった、「治療法」を空海は示そうとしたのである。
「いくら薬があっても、それを服用せずにいたずらに議論したりして時を無駄に過ごしているならば、如来(みほとけ)は必ずこれをお叱りになります。」
第一:異生抵羊心(本能のままに生きる心)
現代人、これ多いんじゃないの???
第二:愚童持斉心(人の道に目覚めて、道徳に従って生きる心)
人間はいつまでも悪い人間ではないということ。
第三:よう童無畏心(神や天を仰いで生きていく心)
人間界を厭い、清浄な天上界を求める心。
第四:唯うん無我心(小乗仏教の、とくに声聞乗の心)
心の平生を失わないようにする。
第五:抜業因種心(小乗の縁覚乗の心)
言葉から離れ、世の無常を悟る。しかし、慈悲の心が欠けている。
第六:他縁大乗心(大乗仏教、法相宗の心)
広く一切衆生を仏の悟りに運ぶ。現象はすべて自分の心のアーラヤ識のあらわれと分かる。
なんか難しくなってきたぞ~。
第七:覚心不生心(三論宗の心)
心の本性は、波が静まったときの水のように常住であり、消滅はない。法が本来無性であると悟る。
第八:如実一道心(天台宗の心)
大自然の中で雨がすべてのものに降り注ぐように説かれた方便としての法華経。泥のような環境に汚されず清らかな花を咲かせる。
真の寂静でありながら、しかも同時に智慧の活動が働いている状態。虚空の姿が悟り。
第九:極無自性心(華厳宗の心)
小乗仏教の知識では理解できない、菩薩の知恵でもすべては理解できない、超越したものである「自心の仏」。しかしこれも終着点ではなく、縁にあえば移り変わっていく駅のひとつにしかすぎない。言葉では表すことのできない境地。
第十:秘密荘厳心(真言密教の心)
この生涯のうちに秘密荘厳の仏をこの自身に体験することができる。らしいが、たやすく説けばこの世では夭折し、死後は無間地獄に赴くことになる。
大著・十往心論の「ポケットバージョン」というのは誤りだそうです。 -
人間の成熟の段階を10の状態で指し示した空海の思想「十住心論」の要点が語られている書物。儒教、道教、小乗仏教、大乗仏教、密教の到達点を十住心に当てはめて一つの整合性のとれた体系としている。このあたりの複雑化した各宗派の教えを鳥瞰的に見て、分かりやすい図式で捉え直した空海の仕事は本当に偉大だと思う。
-
「心の底を知る手引き」というサブタイトルが直感的に気になって手にとった。しかし、あまりに抽象的すぎて、全く頭に残らないし、心に響かない。空海が入門書として書いたもので、後世に影響を与えたらしいのだが、これは専門家の解説なしには理解できない気がする。