東方三月精 Eastern and Little Nature Deity (KadokawaGameCollection)

著者 :
  • KADOKAWA
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感想 : 4
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  • Amazon.co.jp ・本 (136ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784047072343

作品紹介・あらすじ

東方シリーズ初のコミック化!!ZUN×松倉ねむによる、オリジナルストーリーで贈る「東方三月精」コミック第一部を完全収録!!雑誌掲載イラスト、上海アリス通信も同時収録。

感想・レビュー・書評

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  • 幻想の最小単位「妖精」meets「?」

    「光」と音の幻想遊戯「東方Project」の商業展開としては最初期の方の作品になるのでしょうか?
    副題を何度か変えつつ2019年6月現在第四部に突入した「三月精」というタイトルでは第一部に当たり、全体を見てもプロローグ部分を担当しています。

    彼女らの快進撃も、はじめはひっそりとはじまったのですね。
    後にほぼ主役格として単独ゲームタイトルを「ひとりでゲームを作る程度の能力を持つ」幻想神主こと原作者ZUNからもらうことになるなんて、この時は誰も夢にも思わなかったでしょう。

    ちなみにこの頃はWIN初期三部作(紅魔郷・妖々夢・永夜抄)+花映塚の出た頃合い。
    十作品以上をリリースした現状では寂しいようですが、それを差し引いたとしても登場人物は極々控えめです。

    主人公三人組「光の三妖精」、および本家主人公ふたり(博麗霊夢・霧雨魔理沙)の間で話は大体回っている通り、舞台となる「幻想郷」の紹介と三妖精の基本の動きといったところに話は終始します。

    手探り感もあり、基本の漫画に原作者書き下ろし小説やコラム、作曲CDが付いていたりと、設定資料としての総合紹介も狙ったか、ムック本的な側面も強い一冊になっています。
    漫画としての側面が強くなったのは第二部以降、体調不良により作画担当者が松倉ねむさんから比良坂真琴さんに交替になってから。
    比良坂さんは本作中でも四コマ漫画を数本提供されています。

    きちんと線を描き、現実的な女児の特徴も取り寄せつつ、まるっこく肉付きの良い絵柄が魅力的な比良坂さんも素敵ですが。
    輪郭を揺るがせ、幻想の存在や、霧や雪、光といったあやふやな空気感を表したこちらの絵柄も素敵ということで、つまりはどっちも素敵。

    背景が白めなので「白三月精」とかネット上で言われてしまうのもむべなるかなとは思いますが、本当の本当に東方で言う「妖精」がなにか感じる上で本書は外せない価値を持っているかもしれません。

    比較的入手が難しく、コレクター向けという但し書きは付いてしまいますが、単独作品として成立していますし。

    時に、西洋で言うところの「妖精」とはこちらの概念でいう「妖怪」と同じくらい包括的で漠然とした概念だそうです。
    こと「東方」の世界観では自然を構成する人格を持った一概念であり、STG(シューティング)な本編ゲーム中では群れとして現れたが最後、十把一絡げで撃破されていくそんなザコ敵なわけですよ。

    ほぼ例外なく小さくいとけない少女の姿をしており、手のひらサイズから子どもサイズまでと幅広くも、大体虫の翅を背負っていたりする――。
    その辺はわかりやすい少女の友としてのフェアリーのイメージに忠実ですね。

    だけど、彼女らはいたずら好きで後先を考えず、生命力そのものであるがゆえ、いわゆる「死」が一回休み程度の感覚でしかない。
    (この辺はゲーム中で容赦なく撃墜できる根拠になっている重要設定なわけですが)

    ゆえに失敗から学ばず、成長しない子どもゆえの無鉄砲さと残酷さを持ち、少し口悪く言えば頭が良くないわけです。
    だけど、妖怪は元より正面切ると一般人相手でも容易く捕まえられてしまう。単独では弱い存在ですね。

    一方で古くは「チルノ」、最近の作品では「クラウンピース」や「エタニティラルバ」のようにステージボスやプレイヤー操作キャラを務められる規格外や例外も現れているわけですが。

    その点、本シリーズの三妖精は普遍的でありながら例外的です。
    「幻想」に一般的な法則を求めるなと言われればそれまでですが、ネームドになった時点で「特別」から逃れられないといったところでしょうか。

    では本題の「光の三妖精」について。

    日の光「サニーミルク」。
    中央に陣取ることが多く、見たままに活発で行動的なリーダー格です。太陽という強い光なだけあって、力も三人の中で一番ですし、頭も良いようです。

    月の光「ルナチャイルド」。
    しんがりを務め、貧乏くじを引くことが多いタイプです。
    「月」という「東方」最大級の重要ファクターを司るだけあって、かなり重要な示唆がされています(後述)。

    星の光「スターサファイア」。
    逃げ足が早く、よそに突拍子の無い行動を取りがちです。捉えどころのない性格をしていますが、この漫画では黒系統の髪色ということもあって紙面で目立ち気味かも?

    ということで。
    彼女ら、基本群れない妖精の中で三人行動する時点で、なんか浮いてるとも言われています。
    その他にも普通の妖精とはちょっと違った性質を持っているようですが(ルナチャイルドは特に顕著)。

    で、この子たちの必勝パターンは光を屈折させるサニーが身を隠し、音を消すルナが敵の耳を躱し、動いている生き物の位置を察するスターが事前に脅威を察する。
    見て、聞いて、察する、そんなSTGの基本を表しているような気もしますが、それはきっと私の言い過ぎですね。

    三人での掛け合いを基本としつつ、弱いながらもそれらのシナジーがそれなりに有効に機能しているのでいろんなところに入り込める。
    でも、単独の力はその辺の妖精に毛が生えた程度なんで見つかったらすぐ捕まる。

    弾幕の強さと美しさを比べ合う本編とは関係なく、日常を観察する視点として三妖精がこの上なく優秀なのがわかります。
    脅威にならない分、案外人妖と交友を幅広く持てたりもしますし。

    まぁその辺は二部の内容からになるわけですが。
    ここ第一部では幻想郷のちょっと変わった風物に触れるほかは、妖精の本分(?)であるイタズラに終始した基本となるべき巻とも言えます。

    「月から落ちてきた星条旗」などと言った今後の布石となる伏線もさりげなく置かれていたりと、初期作に関わらず侮れないんですけどね。

    そもそも三妖精は「光」という外界由来の現象を可視化・擬人化した存在ともいえるわけで。
    壮大に言えば「宇宙」を感じさせつつ、所詮は妖精、大したことにならないという放り投げもされていたり、つまり解釈の幅が広がるわけです。

    時に「東方Project」は今も昔も「同人」としての側面の方が強く、古くから二次創作が盛んなジャンルであったわけです。
    十年以上、二次創作コミュニティで五指に入る地位を保ってきた貫禄は伊達じゃないとでも言いますか。

    一方でストーリーラインはしっかりとしつつ創作の中心となるゲームそのものが持つ情報も限られていました。
    細部と設定の空白部分は個人の解釈に任され、放任されていた部分もあったわけです。
    よって、原作者が公的に出す情報が一文であっても、宝石にも爆弾にもなりえたといえば大げさでしょうか?

    シューティングとは設定好きの数寄者が近寄る、考察が捗ると言われている気がしないでもないでもないですが……。
    情報を絞ったかと思えば、広げたりと、無法図というか天衣無縫な、素敵なジャンルだと思います。

    何が言いたいかといえば、巻末の方に載っているキャラクター紹介が公式で正誤表を出されるレベルの間違いだらけな点ですね。
    原作者のインタビューが載っているレベルの本でこれをやらかされた当時のファンのご心中察します。

    幸い、私は初版と二版の両方を持っているので比べることも可能なのですが、修正後も「?」な部分が散見されているので全体を見ても資料として信憑性に極めて乏しかったりします。

    当時の二次創作で繰り広げられた設定の間違いも盛大に取り入れているように見受けられましたし。

    ただ、あれから十数年経過した現在では逆に当時の二次創作の風潮を一部なりとも感じられるという意味でまた違った資料的価値を持っているように思われました。
    無論、私の見方がどっかズレていることは認めますが。

    ちなみに、その後原作者が書き下ろした資料集的な書籍も作中のキャラがバイアスを持って語っていたり、またあえて勘違いしていたりと資料としてあえて難のある作りにしている節があります。

    これが決定稿です! と断言するのは、無何有の地である「幻想郷」を定義することに他ならず、創作者としても避けたい事項であるとは思うのですが。

    野暮と知っていてなお、外界の読者は幻想郷を探検して知りたい感じたいという探求心を満たしたい。
    幻想郷という、楽しく煌めいていて、時に恐ろしい宝箱を自分のものにしたい。

    そんな読者の欲求をこの漫画は叶えてくれるのではないでしょうか?
    基本、勢い任せの妖精視点なのであまり考えずに日常を漫歩できると思えば悪くないかと。

    で、巻末の短編小説「月の妖精」は三妖精の一人「ルナチャイルド」が幻想郷の立役者の一人でもある大妖怪「八雲紫」と出会う話です。
    世界全体、マクロな視点から見れば、極々小さな出来事なんですが、ミクロな視点から感じるとなかなかに胸を衝く、頼もしくも恐ろしい話だと思っています。

    学びがなく、成長しないがゆえに永遠に妖精であり続けるしかない小さな存在から見たからこそ、境目を操る大妖の恐ろしさが伝わってくるようです。

    紫の言葉が激励なのか教唆なのかはわからないんですが、もし将来ルナチャイルドが成長して「妖精」の枠を外れ、生き死にもする「妖怪」の域に入ってしまうとしたら……?

    人間の言葉で語るのは難しいんですが、友達のようにも姉妹のようにも思える二つの光と別れることになってしまうんじゃないか?

    続刊を読むと、まぁそんなことないだろうなって安心しつつ、危惧が喉に刺さった小骨のように残り続ける、読者にとっても結構残酷な話な気がしないでもないです。

    ちなみに「東方Project」の世界は時間の経過が存在しないというわけではないハズです。
    様々な事件・事変が起こっているはずなのですが、時の流れについては付随する設定も含めてぼかされているというか極めて希薄に書かれている感があります。

    要は曖昧で漠然として、言葉にならないものを感じるならこの上ないということ!

    ついでに言っておくと『東方香霖堂』の森近霖之助も出演していることもあって、関連するエピソードも含めて読むと示唆も深まると思います。

    なお、付属CDの内容としては三妖精のテーマ曲が一人一曲ずつ書き下ろされています。
    二部二巻に再録されているのでここを狙う必要はありませんが、三月精関連曲は隠れた名曲が多いのでいずれかを機に追ってみてもいいかもしれません。

    能天気なのはサニーミルクの「サニールチルフレクション」くらいでほか二人は案外妖精らしくない雰囲気も入っていたりしますが、神主のコメントを読むと趣深いです。
    ルナチャイルドの「夜だから眠れない」はタイトルからして語ってくれていますが、かなり特異な雰囲気ですよね、ゲームのそれと同じで曲ありきで世界観が見えてくる気がします。
    スターサファイアの「妖精燦々として」もどことなく夜、だけど妖精がいる空気を確かに表してるし、やはり文字で音楽を称えるというのは、なかなかに難しい……。
    好きです。

    では最後にご挨拶。
    そこに当然のように佇むがゆえあえて意識せず、肌で感じる日の光。
    夜と共にあって、狂うとわかっていても見つめたくなる月の光。
    惑い、流れ、時に座す、色とりどりな顔を見せる星の光。

    そんなわけで、先に述べた通り作画が交替となる次巻以降は三妖精の一挙手一投足が愛おしく、また出会いと冒険が楽しくなっていくわけです。

    けれど、もしこの巻を手に入れることがあればそういったなにかが生まれる前の空気感を味わっていただきたいな、なんてそんなことを思ったり。
    ちなみには私は三妖精の中では一番スターサファイアが好きです。

  • 絵だけならペド坂さんより好きかも、しかしストーリーは相変わらず意味がわからない

  • 現三月精の方が面白いなと。おまけのキャラ紹介が誤植だらけで酷いw凄い笑えるw

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