陸と千星~世界を配る少年と別荘の少女 (ファミ通文庫)

著者 :
  • KADOKAWA/エンターブレイン
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  • Amazon.co.jp ・本 (264ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784047297265

作品紹介・あらすじ

両親の離婚話に立ちすくむ千星。明るく笑ってみせることで、壊れそうな家の空気を辛うじて保ってきた。けれど本当は、三人で一緒にいたいと、素直に泣ければよかったのだろうか…。新聞配達のアルバイトを続ける陸。母は家を空けたまま帰らず、生活のために必要だった。ただ絵を描いていたい、そんな願いも叶わない。それを恨んでも憎んでもいないけれど、今まで自分は笑ったことなどあったのだろうか-。そんな二人が、出会う。切なく繊細な一夏の物語。

感想・レビュー・書評

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  • 大きなことが起きるお話ではありません。
    一夏、ただ毎朝出逢うだけの少女と少年の、淡い恋のお話。

    読んでいて悲しくて、胸が痛くて。何度も本を置きました。

    終りが来ると分かっていて、
    どうしてそれでも惹かれていくのでしょう。

    絵を描くことで自分を支えている少年、陸。
    彼は最後に、初恋の少女を画布に写し、賞を取ります。

    彼はきっと孤独の中で自立して、名のある画家になるかも
    しれません。

    その受賞と、彼の想いを受け取る千星も、今のまま
    ひとりで日常を丁寧に生きて、多分進学し、いずれ
    静かな家庭を持つでしょう。

    いつか届けば。

    そう願いながら、きっと彼女たちは
    名実ともに大人になっても、思い出の夏にしかなりえない。

    けれど…。

    なんてきれいな夏。
    清冽で、淡くて。おとぎばなしはいつもかなしいと
    決まっているなら、これもまた。

    荒れた言葉は出てこずに、食事や小物や、風景や
    全てが綺麗です。

    ただ、世界を握りつぶす大人たちの存在だけが
    どうにもならない闇の色を しています。

    文学少女やヒカルより、こちらのお話が野村さんの本質
    だと思います。どうかお手にとってみてください。

    せつなく。悲しいお話ですが。
    ラムネの瓶を陽に透かすような、薄青のおはなしです。


    私はどうして あなたに出会ったのかしら。
    いつかお別れの時が来るなら
    何も知らずにいたら良かったかしら。

    だけれど、あなたと見たあの空は ひかりは。
    いまも目を閉じれば。

    揺れる白いスカートの裾
    空に舞った麦わら帽子

    あなたのそばには どんなひとがいるのかしら。

    あなたの手はもう触れないのに
    私は

    あなたをいまも。

  • 両親が離婚協議をする間、遠縁の親戚が住んでいた別荘にやってきた千星。
    母子家庭で男にだらしない母親のせいで新聞配達をして生活費を稼ぐ陸。
    家庭事情の関係で千星は泣けず、陸は笑えない。
    そんな2人が新聞配達のわずかな時間に心を通わせていく一夏の物語。

    人と関わり合うのが得意ではないため、2人の関係は終盤までほとんど進展しない。
    それでも惹かれあっていることがひしひしと伝わってきて、やり取りに面映ゆくなる。
    ほとんど会話することはなくても人は誰かの心の支えになることが出来るのだなぁ、としみじみとした。
    家庭の問題はどちらも解決せず、2人に再会があるのかどうかも分からない。
    ただラストの1行を読んだ瞬間、じんわりときた。
    静かにゆっくりと沁み入るような作品だった。

    1巻完結の作品で、ここで終わるのが物語としては綺麗なのだろうと思うけど、高校生になった2人も読んでみたくなった。

  • 内気なお嬢様と貧乏少年が新聞配達の時間を通じて、少しずつ心を通わせていく話。お互いが相手の幸せを思う様は健気で切ない。「初恋」の絵、素敵だった。ひと夏という短い期間のふれあいだったけど、また二人が会えるといいなあと思う。

  • 1巻読み切り。
    純愛ライトノベルの名品。
    二人の世界がとても辛くて、でも、互いに相手の幸せを祈っている描写が好きです。お薦めライトノベル。

  • 【あらすじ】
    両親の離婚話に立ちすくむ千星。明るく笑ってみせることで、壊れそうな家の空気を辛うじて保ってきた。けれど本当は、三人で一緒にいたいと、素直に泣ければよかったのだろうか…。新聞配達のアルバイトを続ける陸。母は家を空けたまま帰らず、生活のために必要だった。ただ絵を描いていたい、そんな願いも叶わない。それを恨んでも憎んでもいないけれど、今まで自分は笑ったことなどあったのだろうか―。そんな二人が、出会う。切なく繊細な一夏の物語。

    【感想】

  • 小川未明の児童文学を思い出しました。丁寧な展開、心のやりとりがありました。

  • 平凡な話である。地味な話、と言い換えてもよい。
    だが、私は、この物語を心底愛している。
    この話は、砂浜を歩きながら、可愛らしい貝がらや、水にぬれてきらきら光る海ガラスを拾い集めているような話だと思う。もしくは、春の田舎道を歩きながら、そこここに割く小花を詰んでいくような話だ。
    ささいな、小さな、気づこうとしなければ見逃してしまうような美しいものを、ひとつずつ見つけていくような、そんな話だ。
    壮大な物語ではないけれど、優しい気持ちになれる。そういう物語である。

  • 文学少女シリーズをきっかけに野村さんを知りました。
    野村さんの描く世界や言葉はいつも優しくて淡くて、竹岡美穂さんの絵と融合して穏やかな気持ちになります。
    避暑地の別荘にいるお金持ちのお嬢様と、貧乏な新聞配達の少年が出会うというシンプルなストーリーの中に2人の家族関係や美しい自然描写などが丁寧に描かれていてあっという間に読めました。
    もう少し先まで続きがよみたかったというのが正直な感想ですが(笑)

  • 別荘のお嬢様と新聞配達の少年のひと夏の淡い恋。お互いに想いあっているのにね…もどかしい。確かに少女漫画っぽい感じ。「一番素敵なメモリー」で、作品のタイトル…区切りをつけてしまってるのかな。

  • 爽やかな恋愛小説かと思って読み始めたら
    ちょっと違った。
    陸と、千星、それぞれの抱えるものが
    お互い見えないながらも相手が幸せであるといいと想いをはせ、
    それぞれが居てくれることが心の支えになっている。
    いつ壊れてもおかしくないような関係だけど
    綺麗なものに感じられました。

    千星の泣けない、笑わなきゃ、弱みを見せても
    嫌われるだけだ、って思いは自分も感じることがあるので
    胸が苦しくなる思いでした。

    この話のあとの展開が二人にとって幸せなものであるといいなぁと思いました。

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著者プロフィール

合唱王国福島出身。春の夕暮れに生まれる。幼いころから読むこと、書くこと、眠ることが大好きで、作家を目指す。作品に「文学少女」シリーズ、「むすぶと本。」シリーズ、『ドレスな僕がやんごとなき方々の家庭教師様な件』(いずれもファミ通文庫)などがある。

「2021年 『世々と海くんの図書館デート(5) 春めくきつねは、つりばしにゆられて、あのこに会いにゆきます。』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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