セーラー服の歌人 鳥居 拾った新聞で字を覚えたホームレス少女の物語
- KADOKAWA/アスキー・メディアワークス (2016年2月9日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
- / ISBN・EAN: 9784048656320
作品紹介・あらすじ
「歌があるから生きられた」目の前での母の自殺、小学校中退、施設での虐待、ホームレス生活。今も複雑性PTSDの病と共に生きる、ある女性歌人の感動的な半生を、鮮烈な短歌を交えて描く。いとうせいこう氏推薦!
感想・レビュー・書評
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新聞を拾った(?)のは、児童養護施設内。
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燃やされた戦地の人を知る刹那【せつな】フライドチキンは肉の味する
鳥 居
セーラー服姿の女性の写真が表紙。サブタイトルは、「拾った新聞で字を覚えたホームレス少女の物語」。新聞記者である岩岡千景によるノンフィクション「セーラー服の歌人 鳥居」が、話題を集めている。
「鳥居」という名前は、もちろん筆名だ。幼少期に両親が離婚し、母は自死。児童養護施設では虐待を受けるなど、その生い立ちは読むにもつらいものである。「生きづらさ」を抱え、住む部屋を失った一時期もあったが、天運のように短歌という心の「居場所」に出合った。
2014年、帯広ゆかりの女性歌人の名を冠した「中城ふみ子賞」候補作に選ばれ、歌集「キリンの子」も上梓【じょうし】したばかり。信頼できる大人との出会いは少なかったが、作歌によって、みずからのよりどころが生まれたのだった。
他者の痛みに敏感で、その想像力、共感力が、作品にもあらわれている。たとえば掲出歌。テレビで目にした戦争犠牲者の肉体を連想した瞬間、「フライドチキン」の肉の味が生々しく口中に残ったという。
慰【なぐさ】めに「勉強など」と人は言う その勉強がしたかったのです
家庭の事情で義務教育を一部しか受けられず、ほぼ独学で漢字を覚えた彼女には、つねに「学び」に対する渇望があるという。
みずいろの色鉛筆で○つける(今日も生きた)を確かめるため
生き続けるための、水色の「○」マーク。読者にも、生の自己確認を迫る新刊である。
(2016年5月1日掲載) -
今年1番に魂を揺さぶられました。僕のような文章弱者は本作のように鳥居さんの生い立ちを辿りながら、感情移入しながら、作品(短歌)を読む事で理解し、感動する。
鳥居さんの作品を手に取ろう。そして鳥居さんが幸せに暮らせることを東京の端より願います。 -
以前、記事か何かでこの歌人のことを知り、ずっと気になっていた。
かなり壮絶な体験の持ち主。解離性障害を負っているというほどの過酷さである。よくぞここまで生きていたとすら感じる。
彼女自身の体験から紡ぎだされた短歌は、平易な表現でありながらとても心を揺さぶられる。彼女最初の作品集『キリンの子』も一緒に借りたので読んでみるつもり。
ただ惜しいのは、どうにも本書のノンフィクションとしての仕上がりが今一つなこと。新聞連載をまとめて加筆修正したことがその原因なのか、一冊の本としての読みごたえに不満がのこる。
構成のせいなのか、エピソードの掘り下げ不足なのか、敬体であるせいなのか、はたまた単に文章力のせいなのか、ここが、とうまく言えないのがもどかしいが、何とも中途半端な感じが否めず残念。 -
一気に読んだ。不幸物語で終わらせたくないし、そんなふうに読みたくもない。
彼女の作品をもっと読みたい。
こむずかしいことはわからないから、なんとか賞とかも別にいいから、とにかく読みたい。
少なくとも私はこの本と彼女の作品で、
まだ生きる力をもらった。 -
幾つかの不遇が重なり、義務教育を受けることができなかった歌人の鳥居の半生。
何度も涙が拭い、状況を想像しながら読んだ。
挿入されている短歌に心が鷲掴みになった。
生活保護受けない理由も書かれている。
図書館で出会った短歌集が彼女を救った。
言葉の力に表する言葉が見つからない。
多くの図書館や図書室に所蔵、彼女が自立の為に本を購入することを切望。 -
私自身、17歳の頃に短歌を詠んでました。
久しぶりに歌集を読みたいと思って、図書館の歌集のコーナーを見てたら、この本に出会いました。
過酷な子供時代を生き抜いて、歌人として活動している「鳥居」さんのお話。
御本人も語る通り、インタビュー等でも過酷な子供時代がクローズアップされがちだというけど、彼女の歌を読んで、人生の絶望の中に見出した感傷のようなものを捉える、感性を感じました。
それから、御本人が語るお母様の言葉が聞き覚えのあるテンションで、自分の子供時代を思い返してなんだか切なくもなりましたが…それでも母なりの愛情を注いでくれていたんだ、と認識できる彼女はすごいなって思いました。
歌集「キリンの子」もチェックします。 -
過酷な子供時代を過ごした彼女が、短歌に出会ったことで生きる望みを見出し、歌人として活動する話。
鳥居氏のことは、Twitterのフォローはしているものの「セーラー服着たサブカルっぽい雰囲気の歌人」くらいにしか認知していなかったが、この本で彼女の半生を知り、もっと早くこの本に出会いたかったと後悔した。
言葉で命を繋ぎ、また彼女自身も言葉の力で誰かの命を救いたいと活動する姿に感動した。芸術はお腹が膨れるものでも、お金が儲かるものでもないけど、死の境地に立つくらい悩み苦しんでいる人の灯火になる。
彼女の以下の言葉が突き刺さった。
「"自殺したいと思ってしまった人"を踏みとどまらせるには、力づくで生の側へ引き戻すのではなく、死の世界まで一緒に潜って一緒に戻ってくるという手続きを踏まないといけないと思う」
友人が目の前で自殺したという彼女にとって、自死をどうすれば踏みとどまらせるのかは大きな課題だという。 -
この境遇から絞り出した正解が短歌だったのかもしれないですね。
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セーラー服の歌人鳥居 岩岡千景 KADOKAWA
教師であった両親と裕福ながらしつけの厳しい中で
父親に性的迫害を受け良妻賢母の母にも突き放されて
家出同然のシングルマザーであった母の服毒自殺に
11歳の少女は学校からの帰宅で出合い
死んだ振りをしているのだと思い
のり弁を水で飲ませようとしたりしながら成すすべもなく何日かを過ごす
保健室の先生に話したその後は
やる気のない行政官とイジメの蔓延した養護施設においての日々の虐待
そこでの楽しみは読み古しの新聞紙で漢字を覚えることぐらい
その後も補助金付きの小間使い目当ての里親や駆け込み寺のDVセンターや
同じように女中扱いでしかない祖母の家に暮らし
八百屋などでアルバイトしながら痴呆になった祖母の垂れ流しの世話をし
祖母が入院した後は
財産を狙う親戚に脅され追い出され
昼間はデパートのトイレで洗濯したりウトウトして
危険な夜は早足に町外れを歩き回るというホームレスになる
そんな中で新聞に載った和歌と出合い自己流で真似事を始め
様々な作家と作品に出合う中で食えない創作に励む
この本の著者は東京新聞の記者であり「作家が生まれるとき」の取材中に
鳥居と出合いその付き合いの中で鳥居の
「キリンの子鳥居歌集」の出版へと流れていく -
本書と同時に第一歌集『キリンの子』を上梓し、マスコミにも多数取り上げられている話題の歌人・鳥居の半生をたどったノンフィクションである。著者は『中日新聞』の記者。
小学5年のときに目の前で母に自殺され、その後に保護された児童養護施設ではひどい虐待を受け、ホームレス生活を経験し……といった壮絶な半生を、著者は克明に追う。
この手の本では、著者が「いかに悲惨な体験をどぎつく書いて、読者の目を引くか」しか考えていないようなものも散見する。
たとえば、「女性の貧困」をテーマに底辺風俗を取材にくる記者の中には、「いまの子、普通すぎるのでちょっと……。もっと悲惨な子はいませんか?」と店側に要望するような者もいるらしい。その場合、取材対象者は「読者受けするキワドイ話のための素材」でしかないわけだ。
それに対して、2人の娘をもつ40代シングルマザーである著者は、“母の目線”で鳥居を見ている。彼女を見世物にするのではなく、一人の表現者としてきちんととらえようとする視点が感じられるのだ。その点が好ましい。
胸を打つのは、過酷な体験をしてきたサバイバーである鳥居が、短歌と出合ったことによって「生きる力」を得たという事実である。
「芸術は、私にとっては贅沢品でも嗜好品でもなく、生きるために必要なもので――食費を削っても……実際、3日に1食で暮らしていた時でも、私は美術館や図書館に行くほうを選びました」
文学の力、文学がもたらす「救い」について考えさせられる一冊。
彼女の表現者としての歩みは、ちょっと柳美里さんを思わせる。どこかの雑誌で2人の対談をやったらいいと思う。 -
信じがたい事実
何も言えない
知ったことを受け止めよう -
2016.5/16
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強烈なインパクトを感じた! しかし、それにしても生い立ちが凄まじ過ぎ。。よくぞ生き残ったものだ。。
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母親が目の前で自死し、児童養護施設に入所したもののそこでひどい虐めにあい学校も不登校になり、まともな教育を受けられないまま中学を卒業した少女が、拾った新聞で文字を覚え、図書館で歌集と出会い、短歌を詠むことで生きる支えを得た少女の話。
・・・・いろいろ衝撃的でした。
そして社会復帰を目指していく上で義務教育内容を身につけられなかった人が改めて勉強し直したくても、その場がないということに考えさせられました。
そして彼女が図書館で短歌に出会ったということに、図書館は貧しくても知識や文化に出会える場なんだなあと、改めて考えさせられました。 -
虐待、不登校、ホームレス-過酷な人生を送ってきた、鳥居氏。
彼女が紡ぐ短歌は 生々しく、胸を突き刺すようだ。
確かに、三十一文字より背景が前に出てはいけない。
それでも、この背景がなければ、この三十一文字もなかったであろう。
産み出された物と、産み出した者を、別個にすることはできないのだから。 -
芸術とは、目に見えざる何かの力によって、最も弱いものを救うためにある。
境界を超えるなにか。