あげくの果て

著者 :
  • 角川グループパブリッシング
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  • Amazon.co.jp ・本 (254ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784048739078

感想・レビュー・書評

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  • ブラック味のきいた3話からなる短編集。

    「熱帯夜」
    話は2方向からなる。
    1つは友人の山荘で、その友人の借金取りのヤクザに監禁された男性の話。
    もう1つは交通事故を起こし、死にかけている事故の相手を手にかけ金を持ち去ろうとする看護師の話。
    それと別にこの話にはカッターで女性の顔を切りつけ殺害する「切り裂きタマちゃん」という殺人者の話が合間合間で書かれている。

    これはこうでしょう・・・と想像はできる話。
    だけど、ラストが文中のちょっとした描写を皮肉的に用いていて、それが効果的にきいてる。
    あの一文だけでどこにでもある浅い話になってないと感じた。
    そして、やっぱこの人、うまいよな~と思った。

    「あげくの果て」
    借金大国の日本にとって高齢者は社会のやっかいものという世の中。
    検査を受け、検査の結果次第で老人は徴兵される。
    一方、高齢者をかばう団体もいてその中には自爆する老人もいる。
    そんな中、反政府の団体に属する男性がその団体を裏切り金を手にしようとする。
    別の話で、サッカー選手を目指してバイトを頑張っている若者がある人物から奨学金を受けられるかもしれないという朗報を得る。
    また、ある老人は自分から徴兵に志願する。
    その3人の話がラスト結びつき皮肉な結末となる。

    近未来小説。
    こんな社会ある訳ないよと若い時なら笑えた話、ただの小説の中の話と思えたのが今はそうじゃない。
    それが恐いと思う。
    ここまではないにしてもカウントダウンでどんどん近いものに近づいていってると思う。

    「最後の言い訳」
    蘇生者-いわゆるゾンビと共存する社会。
    ゾンビは時に暴徒と化し、人間を襲う。
    襲われた人間はゾンビになる。
    ゾンビは灰色の顔色になり、独特な臭いがするが、普段普通の人間と変わらず生活している。
    主人公の男性は子供の頃、父親を暴徒と化したゾンビに襲われ、殺された。
    そして、母親はゾンビになった。
    大人になり市の職員となった彼のもとにゴミ屋敷をどうかしてほしいという市民の苦情が寄せられ、彼はその屋敷に向かうがー。

    これもすごく皮肉な結末の話。
    人間は結局本能には抗えないのかー。
    それを分かりやすくSF小説でまとめあげている。

    3話とも皮肉な結末がきいていて、どれも同じくらいに面白かった。
    読みやすかったので、あっという間に読めてしまった。

  • 藤子・F・不二雄先生の異色短編集・SF短編集を思わせる作品。とても面白かった。

    今、安倍政権の暴走にようやく気づく人が増えてきたこのタイミングで読んだこともあり、表題作に☆5つ。

    ■熱帯夜……短くまとまった叙述ミステリ。トリッキーな構成力の上手さが光る。「ボク」とは誰なのか、と最初から違和感を抱かせておいて、時系列と視点が微妙に異なる章を織り交ぜる手法が面白い。
    ・「ボク」の正体
    ・「ワタシ」が起こした事故で怪我した相手
    ・ブッチャーの趣味
    ・「ワタシ」の本心
    短い話に意外性をこれだけ詰め込んでいるのが凄い。

    ■あげくの果て
    超高齢社会と高齢者徴兵制度。敬老主義過激派組織「連合銀軍」(ギン)と、青年の権利を主張する過激派の「青い旅団」(アオ)。フィクションだが絵空事と思えない設定だ。藤子F先生の「定年退食」をさらにブラックに、過激にしたようなストーリー。
    光一と哲治と虎之助。誰も悪くないのに、救われないのがつらい。ラストのオチにも呆然。閉ざされた島国日本、いずれこんな世の中が来るのではないか。というかむしろ、まさに今の日本と似ているのではないか。

    ■最後の言い訳
    人が死んでゾンビになって蘇生し、人肉を求めて彷徨う。囓られた者はゾンビになるので、やがて人口の過半数が蘇生者となり……と、藤子F先生の「流血鬼」を髣髴とさせるストーリー。
    丁寧に描かれる主人公の子供時代と、父を食われたトラウマ。それが蘇生者となり、小学生時代に淡く恋した愛との衝撃的な再会を果たし……きっと愛を守るのだろうと思ったのにまさかのオチ。最後まで読んでわかるタイトルの意味。後味の悪さが最高だ。

  • ☤~高齢者懲兵制度~☤

    ○年・○月より

    70歳以上の全国民に兵役義務を課す。
    召集令状は「お迎え」と呼ぶ。

    従う老人、暴れる老人。

    一方、路上生活をする孤児、
    進学や夢を諦める子ども、増大。

    果たして、国の貧しさは
    老人の増加に比例するのか。

    そう遠くない問題なのか。

    オチがあまりにもせつなすぎる。

    しかも今日は、敬老の日。

  • 筒井康隆『銀嶺の果てに』のようなものを予想しながら読んだら、違った。収録3作品とものっけから不幸だった人達が更に不幸になる話。帯には「黒い笑いと切なさに満ちた」との謳い文句。黒さと切なさは素晴らしいものがありましたが・・・笑っていいのかこれは。短編ながら構成が非常に面白くよく出来ていて文章も世界観の構築も上手く、すごい作家です。ただし自分の体調や心の状態が悪いときに読むには要注意かも。

  • 「熱帯夜」「あげくの果て」「最後の言い訳」の三篇。
    以前読んだ「鼻」が予想以上に面白かったので。
    この人のホラーは、話ごとに一風変わった設定が用意されていて、それが現代社会を暗に皮肉ったようなブラックユーモアに溢れていて面白い。
    「最後の言い訳」のラストの黒さったらもう…たまらないです。
    警察もののミステリーも書かれてるそうですが、自分は警察ミステリーがあまり得意でないのでもっとホラー書いてほしいなぁ。今後に期待!
    ハードカバー版は表紙が気持ち悪すぎたのか文庫になるにあたり表紙絵と表題が変わった模様ですね。正直この表紙が一番キツい。

  • 現代劇から近未来の話が三編収録されているが、いずれも悪夢のような世界観である。残念ながら恐怖はというとそこまで怖くはなく、真に迫るものがなかった。

  • ・熱帯夜 ★★★★
    いい感じに嫌な話だった〜
    レイプのくだりは不快だったが、最後まで読むと・・・。

    ・あげくの果て ★★★★★
    まず興味深い設定が◎。
    老害という言葉がある今、似たような事が起きない事もないかも。
    一番救いがないと思ったのが、虎之助。
    みんなの想い、やった事も知らず上海へ。
    いい感じのバッドエンド。

    ・最後の言い訳 ★★★★★
    結局お前、食べるんけ!ってのが読後の感想。
    これもまた面白い設定。
    ゾンビやけどゾンビ映画みたいなチープな感じがなく◎。

  • これが格差社会の末路なのか!? 貧困大国となった日本の、恐るべき高齢者排除計画。それぞれの理由を抱え、もがく人々に救いはあるのか。鮮やかに世界を反転させ、人を狂気へと誘う3つの物語を収録。

    これまで私が読んできたどの作品も「読ませる力」のある曽根圭介だけに期待して読み始めたが、近未来を舞台にしたアイロニー溢れるこの手の作品は他の作者でも読んだことがあって、個性を感じなかった。
    (Ⅽ)

  • ホラーと言うより不条理。賢者の贈り物みたいな感じでした。面白かったのでまたこの作家さん探してみよう。

  • 以前読んだ「鼻」で気になったのでこの著者の2冊目。ちょっと描写がドギツイところがあるが中々面白い。3篇あるのだが「最後の言い訳」のラストは思わず「あぁぁぁ・・・」と声に出したくなるほど衝撃的だった。作者の術中にまんまとハマったのかもしれないが後味悪い・・・。やられたという感じ。

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著者プロフィール

1967年、静岡県生まれ。早稲田大学商学部中退。漫画喫茶の店長などを経て執筆活動を開始。2007年「鼻」で日本ホラー小説大賞短編賞、同年『沈底魚』で江戸川乱歩賞を受賞。09年「熱帯夜」で日本推理作家協会賞短編部門を受賞。2011年『藁にもすがる獣たち』で第2回山田風太郎賞の最終候補作となる。トリックの効いた異色の作風で注目されている。

「2017年 『暗殺競売』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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