家族関係を考える (講談社現代新書)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (188ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061455900

作品紹介・あらすじ

家族における人間関係は一様なものではない。一人の異性を選択することによって成立する夫婦というヨコの関係、血のつながりで運命づけられた親子というタテの関係、さらに兄弟姉妹、親戚、こうした複雑さから、思いがけない対立や葛藤が生じてくる。家庭内暴力、離婚……。家族のあり方は、われわれの生きていく基盤として今、根本から問いなおされなければならない。(講談社現代新書)


家族における人間関係は一様なものではない。一人の異性を選択することによって成立する夫婦というヨコの関係、血のつながりで運命づけられた親子というタテの関係、さらに兄弟姉妹、親戚、こうした複雑さから、思いがけない対立や葛藤が生じてくる。家庭内暴力、離婚……。家族のあり方は、われわれの生きていく基盤として今、根本から問いなおされなければならない。本書は、日本社会の特質を踏まえつつ、母・父・子の深層の関係を追求、われわれが自立した人間として個性的に生きる場としての家族のあり方を模索する。

危険思想――夫婦の絆は親子の絆と十字に切り結ぶものである。新しい結合は、古いものの切断を要請する。若い二人が結ばれるとき、それは当然ながら、それぞれの親子関係の絆を切り離そうとするものである。一度切り離された絆は、各人の努力によって新しい絆へとつくりかえて行かねばならない。この切断の痛みに耐え、新しい絆の再製への努力をわかち合うことこそ、愛と呼べることではないだろうか。それは多くの人の苦しみと痛みの体験を必要とするものである。このような努力を前提とせず、ただ二人が結ばれたいとのみ願うのは、愛などというよりも「のぼせ」とでも呼んでおく方が妥当であろう。他の何事をしてもいいが、「愛する二人が結ばれると幸福になる」という危険思想にだけはかぶれないようにして欲しい、と願いたくなってくるのである。――本書より

感想・レビュー・書評

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  • 結婚する前に、一度読みました。38年以上前です。
    この本の中のテーマのひとつである「母親殺し」の概念は、その後、私の母が死ぬまで、ずーっと引きずっていて生きてきました。
    「母親殺し」の概念を知る前は「母の恩は海よりも深く山やよりも高い」という気持ちで母より大切な人はいない、と思っていました。
    しかし、結婚を決めてからは「ほんとうに申し訳ないが、私はお母さんと親子の縁は切ります」と、この本の河合さんの意見を参考に宗旨替えをおこないました。
    具体的な行動としては、結婚後、私の実家に行くときは常に日帰りで、妻と一緒に私の実家に泊まることは一回もしませんでした。
    ま~、これは「母との決別」の覚悟を心の中だけで決めたというだけで、実際には、妻と私の母はけっこう話が合うみたいで、それなりにつきあうことはできたのは幸いでした。(母が無理に合わせてくれていたかどうかは今となってはわかりませんが・・・)

    あと、この本の中のもう一つのテーマである宗教性ということでは「日本人は無意識に仏教的生活をしている」という話。これは私には目新しい概念でした。
    しかし、今思うに、それならば、同じように「西欧人は無意識にキリスト教的生活をしている」といえるのではないでしょうか?
    (こんな状態で、日本人と西欧人が結婚できるものだろうか?と私は常々思っています)
    日本人は、キリスト教の日曜礼拝のようにお寺に行ってお坊さんの説教を毎週聞きに行くこともぜずに宗教的生活しています。宗教の勉強不足の一例をあげるなら、ほとんどの人が仏教の創始者のブッタの誕生日がいつでどんな行事があるかを知らないことです。びっくりです。
    「何もしない宗教が、宗教か?」と欧米人が疑問視する、とは、河合さんの言ですが、もっともな話ですよね。
    「今後、欧米人と渡り合うには、日本人はもっとキリスト教を知らなければいけない」と河合さんは他の本でも力説しています。日本人と欧米人の宗教という土台には、はかりしれない亀裂があるのです。
    それを知らずに、表面的に暮らしを欧米化をしたところに、現代の日本人の生きづらさがある、と河合さん言っています。
    この本は、そのことを具体的な症例を取り入れて説明してくれてわかりやすいです。
    生きづらくする要因、いわば「敵」を知れば生きづらい理由がわかってくるし、それを知れば、ある程度安心して生きられるはずです。
    この本の内容は、学校では教えにくいものばかりですが、すごく重要なことが書いてある本だと思います。

    以下、重要だと思われる河合さんの概念を一つだけ引用しました。

    p52 マタイ伝12章には、キリストが肉親としての母をはっきりと否定するところが述べられている。(この間、省略)このような強烈な母の否定の上に西洋の文化は成り立っている。肉親としての母を一度否定した後に、隣人愛としての人間関係が語られるのである。これは言うなれば、血のつながりよりも契約のつながりを重視する文化とも言うことができる。
    これに対して、東洋の国々は未だに母の否定を行っていない。その中で、日本という国は母性を温存しつつ、欧米の文明をいち早くとり入れた特異な国なのである。(西洋のように)宗教的なレベルにおいて母の否定が行われるとき、それによって守られている人々は、象徴的な母の否定が行われた後に、わざわざ実母と血みどろの戦いをする必要がない。事実、多くの宗教的儀式は、人間が自分の内界の深層に存在する恐ろしい元型に直面することを避けるために、人間が見出してきたものとも言うことができる。近代人の合理性は、そのような儀式の非合理性に対して浅薄な挑戦を行い、多くの儀式を否定し、宗教をさえ否定するほどになった。
    このため、現代人は宗教の守りのないままに、無意識界と直面しなくてはならない。つまり、既に例をあげて説明したように、子どもたちは何らの宗教的知識も守りも無いままに、日常生活のなかで観音や鬼子母に遭遇することになるのである。来世における極楽や地獄の存在を否定してしまった現代人は、この世に楽園を築こうとして、逆に家庭の中に地獄を体験することにもなる。
    このように言っても、筆者は既成の宗教が簡単に救いとして役立つとは思っていない。しかし、家族の問題をつきつめて考えてゆくならば、それは自分の内界をあくまで探求してゆこうとするという意味において、本来的に宗教的な問題へとかかわらねばならないことを覚悟すべきであろう。

  • 物凄く面白かった。問題のない家族はない。夫婦としての横の繋がり、両親との縦の繋がり、子供との縦の繋がり、叔父叔母、甥姪との斜めの繋がり、そして兄弟関係。核家族や未婚離婚の増加により、個人として自己実現を求める生き方と、家族の中での力動バランスが、劇的な変化の渦中にある昨今、自分はどう生きていきたいか、深く考えさせられた。

  • 相手は自身の鏡というが、
    感覚的に受け取れても、
    自身のこととなるとわかりにくい。

    この反射現象を、現場現象として読みやすい一冊。

    また、自分の生き方として、どう終焉を迎えるのか?
    自分らしい老い方を考えるために、安心できる視点をもらえる。

    ○老人はなにをしなくても、そこに存在するだけで、多くの意味を与える

    そんな社会、地域関係、ご近所関係、家族関係が
    老いた自身の周りにあることを想像する。

  • 家族の問題というのは本当にこの本を読むと
    根深く感じました。
    しかもすごいのは親子間ではなく
    嫁-姑巻の問題もでていたこと。
    (なぜか舅は出てませんでしたがあまり
    軋轢がないからかしら)

    そこに絡む個々の心理が分かってきて
    面白く読ませていただきました。
    と、思うと本当に子育てというのは
    エネルギーの必要なものだということ。

    だけれどもきちんと自分、相手に
    きちんと向き合えれば(隠れた部分含む)
    自分も成長できるものなんですね。

  • 「自己」や「私」には思いの外他人が含まれていて、そのパラドックスに気づかない限り自己実現なんてものは全く馬鹿げたものになる。
    安易に自立を求める人は自分の周囲に犠牲を強要することになる。

    だと。なかなか示唆を与えられる内容だった。家族を自分の中に綺麗に取り込めている人はどれほどいるんだろうね。

  • 女性の社会進出にともなって、「社会の中での女性の地位を男性と機会平等に」「家事・育児もすべて平等に」などの意見をきくことがあるように思う。

    その一方で、性別の違いに伴い、本来果たすべきと期待される役割も異なる面もある。それが一番顕著になるものが「家族関係」「育児」のようなものだろう。

    本書では、人が「家族」として背負っている役割を、どの時代にも通用するマクロな視点から捉えつつ、現代社会で表出している家族間の問題にも言及することでわかりやすく説明している。

    いわゆるハウツー本的なものとは違う、時代性・特殊性などを捨象したシンプルな描写が特徴。


    以下、メモ。

    ・子どもは一般に親の言うことよりも、していることによって教化されるようだ

    ・子どもたちの一見非行とも思われる行為:その両親に既成の枠組みや固定した人生観を超えて、より個性的に「生きる」ことを要請していることが多い

    ・母子の一体感を破るものは父親。子どもは父親を通して「他者」の存在を知る

    ・母性原理は「包含」、父性原理は「断絶」

    ・夫婦はその共通部分を関係の維持のために必要とし、対立する部分をその発展のために必要としている:川の中の2本の杭の話
    共通目標をもって努力しているとき、対立する部分は相補性を担う

    ・母・娘の結合の強さ。同化する。

    ・嫁姑の関係を直線的ではなく範囲的になものとして解説。;関係が関係に関係するの話

    ・きょうだいは他人のはじまり

    ・兄弟喧嘩 親の考えが単層的なことが原因になることも

    ・思考の逆転:
     「おじいちゃんがうるさいから放っておかれる」
     ↓
     「放っておかれるからうるさくなった」

    ・孤立は他人が自分の領域に入るのを拒む。自立は「ゆるぎない自分」を持っているので他の人間が入ってきても大丈夫。大人になっても孤立をつづけたら問題。

    ・物事を批判的に考える:父性原理、いざ行動する:母性原理

    ・息子は父親が高所から安易に接してくるのを拒否したい

    ・自分のエネルギーを機械のそれと考えてはいけない

    ・家族の中心をどこに置くか。:不可思議な中心

  • 日本の家族のあり方について、その歴史・現状・課題を論じた本です。

    中でも、戦後の社会変革を受けて西洋化しつつある日本の家族だが、戦前から家族の根底にあり続ける母性原理は決して無視してはならないものだ、という見解は新鮮でした。僕はむしろ、戦前から家父長制によって、男性の権威だけが家庭を支配してきたものとばかり思っていたので…

    ただ終盤で登場する「永遠の同伴者」という概念…これがあまり理解できませんでした。まぁ論の流れからして、この概念の意味は自分の人生の中で模索して下さい、と読み取ることも可能といえば可能なのかなぁ、という気もしますが。

    将来自分自信が家庭を築いたとき、有用となる知見を多く得ることができたかと思います。これは読んで良かった。

    それぞれが互いの存在をしっかり認められる、温かい家庭を築きたいなぁ。

  • 特集:「先生と先輩がすすめる本」
     家族について、心理学者の筆者ならではの鋭い切り口で分析しています。また、文化論的な視点からも論じており、戦前の家族のモデルを捨て、欧米文化を取り入れた現在の日本の家族の問題点も浮かび上がらせています。
    印象深かった内容を引用して、紹介を終わりにします。
    「子どもは真の大人になるためには、内面的な母殺しや父殺しをやり遂げねばならない。(中略)失敗すると、儀式として行うべきはずの父殺しや母殺しを、あるいは、子殺しを ―再生への可能性を閉ざしたまま― 家庭でやってしまうような悲劇も生じてくるのである。」
    (建築学科 教員推薦)

    ↓利用状況はこちらから↓
    https://mlib3.nit.ac.jp/webopac/NJ83035050

  • 一言一句理解しようとするには少し難しい部分もあるので、少し緩く読んだ
    いろいろな理論や考え方をある程度前提としている部分もありそうなので、また他の書籍をあたってから読み返すと新たな発見があるかも

    老人は存在するだけで特に何かに有効というわけではないが、存在するだけでいいのだと教えてくれる、といったようなことが書かれていて
    自分や身の回りの人が老いて何もできなくなることが少し怖くなくなった

  • 人間の幸福や生き方について簡単なルールはないようである。ただ、どこまで誠実に自分の生き方について考え、生ききるかということになるのであろう。自分の幸福のみを単純に考え、子どもの幸福を無視するのは、まったく馬鹿げているし、子どもの幸福のみを考えて、自分たちの生き方を曲げてしまうのも望ましいことではない。片方のみを重視する人は、結局はそれも失ってしまうことになるだろう。人生の問題は、あれかこれかの選択としてではなく、あれもこれも担うことによって解決に至ることが多いように思われる。

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