魔の系譜 (講談社学術文庫)

著者 :
  • 講談社
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感想 : 16
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  • Amazon.co.jp ・本 (261ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061586611

作品紹介・あらすじ

魔とは何か? 日本の王権を支えてきた影の部分を、著者は日本人の情念の歴史として捉え、死者の魔が生者を支配するという奇怪至極な歴史の裏側の流れを認めないものは、真の歴史を理解することはできないと主張する。呪術師や巫女の発生、呪詛や魔除けなどを通して、日本人特有の怨念を描く著者の眼光は鋭く、柳田国男や折口信夫がいまだ形をなし得なかった論点を直截に表現した本書が、谷川民俗学の原点といわれるゆえんであろう。

感想・レビュー・書評

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  • 諸星大二郎先生がお薦めしてたので、谷川健一さんの本をいつかは読みたかった。
    で、別件の読書会で遠藤周作の『沈黙』が課題図書だったので再読する機会があった。諸星先生の『生命の木』同様、長崎のかくれキリシタン史においてキリスト教が変質していくこと、『天地始之事』なんかが背景として重要なので、歴史やキリスト教史などにもわりと詳しい、読書友達の家に行った時に相談してみた。
    そしたら、本棚からすすすっとこの『魔の系譜』と『天地始之事』のコピーを出してきたので大爆笑。アプローチは違うけど、辿り着く先は同じ。

    かくれキリシタン史に関係あるのはこの中の一編、『バスチャン考』だったんだけど、まえがきをちょっとだけ読むと、そこだけでめちゃくちゃ面白いので止まらなくなった。
    しかし話があちこちに飛ぶので、面白いんだけど若干読みにくかった。
    特に面白かったのは『崇徳上皇』、『仮面と人形』、平田篤胤の天狗話『再生と転生』、憑きもの迷信による差別の話『犬神考』(関口宏の“そもそも”妖怪編にもけっこう関連してた)など。

    最後の二本、『狂笑の論理』と『装飾古墳』だけちょっと語り口が違ってて、話があちこち飛ばないので読みやすかった。『犬神考』とこの二本だけ掲載誌が違うのでまとまってるんだと思う。
    あと、歴史秘話ヒストリアで装飾古墳の回が丁度再放送されていたので、チブサン古墳や五郎山古墳など、隣県なのでそのうち行ってみたい。

    柳田国男、折口信夫らの民俗学を継承しつつも批判的に展開させていったのが谷川さんらしいけど、さらに昔に遡ると平田篤胤らの国学に辿り着くこと、また文中にも度々出てくるが、芥川龍之介が重要なことなどがわかってきた。
    『天地始之事』が収録されている『日本思想大系』25巻の付録に遠藤周作の寄稿文があって、そこでも芥川龍之介について書かれてたし、またかくれキリシタンの別角度からのアプローチがなされてないような事も書かれていた。
    ほぼ同じ頃にこの『魔の系譜』が出版されているので、遠藤周作が求めていたものはある意味では谷川健一民俗学的なものだったのかも、などと思いました。

  • 怨霊や対立といった観点からの論が多く収められた一冊。読んでいて非常に楽しかったです。

    「装飾古墳」のみやや前述のテーマからははずれていますが、装飾古墳が置かれている危機的な状況については、その後二十数年たっても同じような状況が呈されており(キトラ古墳の壁画にカビが生えしまったことについては記憶に新しい)、何とも言えない思いを感じました。先見の明があったのか、それとも社会がかわらなかったのか。どちらも言えそうです。

  • 解説:宮田登
    怨念の序章◆聖なる動物◆崇徳上皇◆バスチャン考◆仮面と人形◆再生と転生◆地霊の叫び◆魂虫譚◆犬神考◆狂笑の論理◆装飾古墳

  • 『ちんちんこばかま』の話は、谷川先生が参照されるまぁ原典からでなくて、ソフト化された『まんが日本むかしばなし』(川崎大治)で観た。怖かったけど。あの笑ひはない。けっ。

     隠れキリシタンとかは先生のライフワークらしいと。
     今でも読むに耐えうると思ふんだけども。

  • 本棚に埋もれている、途中まで読んだ本を発掘(^^;
    若いときに「面白そうだんねや」と思って買いつつも途中で飽きた、というケース、講談社学術文庫がけっこうある。
    しかし若いときこそ、自分の手に負えないようなちょっと高度な本に触れたほうがいいと思う(という自己弁護をしつつ)。
    『魔の系譜』……こりゃ、タイトルで買ったな、たぶん。

    学校などで勉強する「日本史」と異なり、さまざまな時代の覇者に敗れた者たちのいわば「裏日本史」とでもいうべきか。
    3誌の雑誌に連載されたものをまとめてあるので、いささか「魔の系譜」というタイトル負けしている印象をぬぐえないが(特に「装飾古墳」は魔でもなんでもないんですけど……)、それぞれ日陰の存在的な事象に対する考察が丹念にされていて、日本史と日本の文化に対する異なる見方ができるため、知的好奇心が刺激され、すいすい読める一冊(20年前になんで挫折したのかわからん)。

    さあ、この勢いに乗って次は学術文庫『憑霊信仰論』を読むぞ~。

  • 崇徳天皇のところが、興味深げ。
    バスチャン考などかなり興味を惹かれるものの、基礎体力がなくてなかなか理解できず。
    もう一周ぐらいまわってからだと面白さ倍増かも。

  • 在野ならしい著者の好著。「マナが付いたり離れたり」という霊魂観を持ち、敗者におびえ死者を恐れる日本の暗黒を見る。
    「地べたに足をつけた作家」としての夢野久作の著作が、縦横に用いられる。

     確かに、本書で指摘される通りアウシュビッツのこっちにある「髪の毛の部屋」「眼鏡の部屋」等々の山と積まれた遺品の群れは、見ていると「大草原必至」 であるが、本書で柳田國男の文を引いて説かれる「攻撃としての笑い」はインターネット界隈ではそれこそデフォルトである。

  • 死者が生者を支配する国ニポン!歴史の影の部分から読み解く、OTKの為の民俗学(勝手に命名)。「再生と転生」「地霊の叫び」「魂虫譚」「狂笑の論理」がおもしろかったです。このひとの本はもっと読みたいけど、いまだこれしか読めていない...

  • 崇徳上皇などの日本の「魔」について、考察されています。
    民俗学について一歩踏み込んだところまで知りたい!という方向け。

  • 面白い。この人の類似書で『魔の世界』もあるけれど、本流から少しずれたところをクローズアップする楽しさがある。
    さすが民俗学の碩学。

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著者プロフィール

1921年、熊本県水俣市生まれ。東京大学文学部卒業。 「風土記日本」「日本残酷物語」、雑誌「太陽」の初代編集長を経て、文筆活動に入る。「南島文学発生論」で芸術選奨文部大臣賞・第2回南方熊楠賞受賞。「海霊・水の女」で短歌研究賞受賞。 1981年以来、日本地名研究所所長として現在に至る。文化功労者。 冨山房インターナショナルより「谷川健一全集」(全24巻)を刊行した。

「2013年 『谷川健一全集 全二十四巻』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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