- Amazon.co.jp ・本 (528ページ)
- / ISBN・EAN: 9784061593770
作品紹介・あらすじ
理性優位の時代に、科学は、また宗教は、人間の生といかに係わっていくのか。本書は、中世最大の思想家トマス・アクィナスの理性と信仰の総合へ向かう思索の軌跡を、伝記や『神学大全』等の著作に拠りつつ論証する。「恩寵は自然を破壊せず、むしろこれを完成する」というトマスのテーゼに、21世紀への解が示される。
感想・レビュー・書評
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欧州思想山脈のチョモランマへの登山案内。
「ある人の邪悪さに関する明白な証拠がないところでは、疑わしい点は善い方に解釈して、彼を善人とみなさなければいけない」
自戒しよう。 -
なにより驚きは、トマスが偉丈夫だったこと。巨体だったそうな。ボッティチェリの描いた肖像画が載っていたが、谷崎潤一郎に面影が通じる。
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中世最大のカトリック神学者・哲学者として名高いトマスの、足跡と思想とを紹介した書です。前半は主にトマスの伝記、後半は著作から重要部分を抜き出した抄訳集のようになっていて、750年前を生きた彼の人となりと思想とを、とても身近に見ることができるようになっていると思いました。
本を開くとまず眼に飛び込んでくるのがトマスの肖像画なのですが、眉間にしわをよせたとてもいかめしい顔をしていて、なんとも威圧されているような印象すら受けます。托鉢修道会に入ることを決心したトマスが、実家の城に一年間にわたって軟禁されたエピソードは有名です。10代後半の青年が耐え忍ぶにはあまりに魅惑的な少女を追い出すほどの意志が、確かにその絵からは伝わってきます。しかし本文を読むと、トマスそのひとがもっともっと繊細でおおらかな人物であることに気づかされました。
遠雷を聞いて十字を切り祈りの言葉を口にしたといった、伝記部分で語られるエピソードは、トマスの人柄をよく表しているでしょう。でもそれ以上に、特に思想を紹介した後半では、その繊細さをとてもよく感じ取ることができます。トマスの著作があまり入手しやすくない現状の中で、彼の主著「神学大全」をはじめとした作品の訳を読めるのはありがたいことです。そこではたとえばこんな論考がなされます。すなわち、人間の理性や自由意志を認める態度と、それでも人間は神によってしか至福に与れないとする思想。あるいは、形相と質料とによって「もの」の本質を規定するアリストテレス的な思想と、一方で「もの」は「存在」を神から分有しなければ「存在するもの」とはなり得ないとする思想。一見矛盾するような考えが、見事に同居する世界を眼にするとき、とても不思議な感覚にとらわれるのです。
同じキリスト教神学者であるところのアウグスティヌスと対置されることが多いトマスは、しかし、前者ほどには人気も知名度も高くない気がします。それは思想的位置や身をおいた環境なども影響しているのでしょうが、少なくとも私は、アウグスティヌスと同じくらいトマスに魅力を感じることができました。一途な学僧としての彼の生きかたは、本当にうらやましく思うのです。
(2008年8月入手・2009年5月読了)