- Amazon.co.jp ・本 (570ページ)
- / ISBN・EAN: 9784061853829
感想・レビュー・書評
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「村上春樹」の紀行『遠い太鼓』を読みました。
「小田実」の紀行『何でも見てやろう』に続き、旅の本で現実逃避です… 「村上春樹」の作品は2年半前に読んだ紀行『雨天炎天 ―ギリシャ・トルコ辺境紀行―』以来なので久しぶりですね。
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ある朝目が覚めて、ふと耳を澄ませると、何処か遠くから太鼓の音が聞こえてきた。
その音を聞いているうちに、僕はどうしても長い旅に出たくなったのだ――。
40歳になろうとしていた著者は、ある思いに駆られて日本を後にし、ギリシャ・イタリアへ長い旅に出る。
『ノルウェイの森』と『ダンス・ダンス・ダンス』を書き上げ、作家としての転換期となった、三年間の異国生活のスケッチブック。
1986年秋から1989年秋まで3年間をつづる新しいかたちの旅行記。
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「村上春樹」が1986年(昭和61年)から1989年(平成元年)にかけて、ギリシャ・イタリアを中心をしたヨーロッパへ長い旅に出た内容をスケッチブックを描くように綴った作品、、、
既読の作品ですが、もう一度読みたくなったんですよね… この時代に名作『ノルウェイの森』や『ダンス・ダンス・ダンス』が執筆されたそうです。
■遠い太鼓──はじめに
■ローマ
■アテネ
■スペッツェス島
■ミコノス
■シシリーからローマに
■ローマ
■春のギリシャへ
■1987年、夏から秋
■ローマの冬
■1988年、空白の年
■1989年、回復の年
■イタリアの幾つかの顔
■オーストリア紀行
■最後に──旅の終わり
■文庫本のためのあとがき
「村上春樹」作品って、小説の方はなかなか理解できず感情移入がムズカシイ面があるのですが、、、
紀行やエッセイは大好きです… その場の空気感や匂い、周囲の人の感情等等、目に見えないけど感じる部分が伝わってきて、その場に居るような気がしてきて、著者の目線に共感できるんですよね。
本書を読んで、一度も訪れたことのないイタリアやギリシア、イギリス、フィンランド、オーストリア等に、まるで行ってきたかのような感覚が残りました、、、
そして、感じたのは、物質的な豊かさは、心の豊かさには比例しないってことかな… そもそも、物質的な豊かさって、一人ひとり物差しがバラバラだし、統一的な基準はなく、環境や文化、習慣に依存することなので、比較は難しいんですけどね。
七輪で魚を焼き、タコを食すギリシアには好感を持ち、
郵便がキチンと届くことが期待できず、泥棒が多くて(特にローマ)、責任をバケツリレーして受け取らないイタリアのイメージが悪くなり、
『サウンド・オブ・ミュージック』で観て抱いていた好天が続く爽やかな青空と森の緑のイメージを、雨が多いオーストリアの実情に崩され… と、新しい発見のあった一冊だったなぁ、、、
そして、「村上春樹」が長い旅に出た理由… その「ある日突然、僕はどうしても長い旅に出たくなったのだ。」というシンプルで説得力を持った理由にも共感しましたね… 600ページ近いボリュームで、分厚くて重たい文庫本でしたが、愉しく読めたので長く感じませんでした。
「村上春樹」が37歳~40歳で経験した長い旅、、、
私は、その年齢は随分と超えてしまいましたが… これから「ある日突然、どうしても長い旅に出たくなる。」ことがあるかもしれないなぁ。
その時は、どこに行こうかな… 想像すると、ちょっと愉しみです。
以下、旅の軌跡です。
【イタリア】 ローマ
【ギリシャ】 アテネ、スペッツェス島、ミコノス島
【イタリア】 ローマ、パレルモ、ローマ、メータ村、ブリンディシ
【ギリシャ】 パトラス、アテネ、ミコノス、クレタ島
【日本】
【フィンランド】 ヘルシンキ
【イタリア】 ローマ、アテネ、テサロニキ
【ギリシャ】 レスボス島
【イタリア】 ローマ、ボローニャ、ローマ
【イギリス】 ロンドン、バース
【イタリア】 ローマ
【ギリシャ】 ロードス島、ハルキ島、ロードス島、カルパトス島
【イタリア】 キャンティ地方
【オーストリア】 ザルツブルク、ロイッテ詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
村上春樹作品。37歳から40歳になるまでの約4年間(ノルウェイの森やダンス・ダンス・ダンスを描いていた頃)、イタリアやギリシャなどヨーロッパ各地に住みながら、小説を書いたり翻訳をしたりしつつ、各地を旅した旅行記のような一冊。いつものような春樹節は少なく、独特な旅行記として楽しく読める。所々で紹介される奥さんとのエピソードや美味しい料理、コンサートのコメントなどが楽しい。村上春樹の小説はどれを読んでも僕には難解で距離を置いていたが、この本はとてもシンプル。こうくるとかえって物足りなくなる。人ってないものを欲しがるものだ。たとえそれが不自由であってもね。やれやれ。
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数十年前に発売。その当時はこの本が旅行記とは知らずに買ってしまい最初のほうを読んでつまらなくてそのまま放置していた。先日何の気無しに手に取って読み始めてみるととても面白かった。若い頃は旅行記なんて退屈だと思っていたのに歳を取るとこんなにも興味深いものになるとは。
クラシックやワインのくだりは自分にはわからないのでちょっとウンチク的に受け取ってしまったけれど(笑)
村上春樹さんの旅行記は他にもあるようなので旅に出たくなったら読んでみようと思った。 -
3年間のヨーロッパの旅行記。
港があって、それを取り囲むようにダウンタウンがある、それからすぐに、山の斜面が、はじまって家が港を見下ろす、っていうカヴァラの風景が印象的でした。 -
村上春樹の紀行文。以前これを読んだのが確か学生の頃だから、約20年ぶりに読んだことになる。僕がまだ若かった頃はあまり強い印象を受けなかった本だが、40に近くなるとちょっとだけ印象が違っていた。
面白いね、この本。 -
村上春樹の3年間に渡るヨーロッパ滞在記。
この間に彼は『ノルウェイの森』などを執筆。
ギリシャやイタリアの人々の気質を独特の口調で語るのを読むと、まるで自分がハプニングだらけの旅に出ているよう。
じっくりと時間をかけて読むといいと思います。 -
エーゲ海の島特有の白すぎるほど白い塀の上で、小さな黒猫が思いっきり反りかえって背のびをしている。突き上げられたお尻の先の黒い尻尾がまたかわいい。家に無料で届く『アゴラ』というJALの広報誌でのことだ。村上春樹が「ギリシアの二つの島」という短文を載せていて、それに添えられた写真がまず私の目を引いた。
25年ぶりに訪れたスペッソス島で村上春樹が猫の背を撫でている。島中に猫が溢れる島で、彼は猫好きを自称している。『ノルウェーの森』を書いていた四半世紀前、初めて来た時と比べ、わずかには観光化が進みはしたもの、あいかわらず程良く寂れ人の気持ちも変わりないことにほっとする彼だが、唯一、「しかし昔に比べると、猫がみんな小奇麗になっているように思えた。かつては傷だらけの、耳が半分ちぎれたような汚い野良猫があちこちうろうろしていたんだけど、今はそういう猫はほとんどみかけない。驚くほど毛並みの良い、美しい猫たちが通りをすらりすらりと歩いていた」という。
当時「若手作家」だった彼は、「ある理由」があって日本を離れヨーロッパを転々としながら書いていた。「ある理由」とは何なんだったのか、多くは語らない彼が、傷ついてみじめな野良猫だった自分を、世界的ベストセラーライターとなった今振り返っているかのようなこの短文は、私にとって「発見」であった。その発見を深め、「ある理由」とはなにかをしっかり掴みたいとおもって読み始めたのが、当時の事情を記した『遠い太鼓』であった。
発見や発掘は好きだが追従は好きではない。だから私は村上春樹の作品はほとんど読まない。『ノルウェーの森』も『1Q84』も、気がつくと既に書店に山積みにされ、高い評価がすでに定まっていた。こういうものに対して偏屈な私の触手は全然のびない。
今回はどうして違ったのだろう。
無料の広報誌みたいな、文芸誌や単行本とは違うどこか正式ではない冊子の中に見出した短文だったから、かもしれない。
近頃私は、こういう冊子の類に一目置いている。というのは、須賀敦子に嵌りまくっている私は、彼女の書いたものは何から何までとことん読み尽くそうと試みているのだが、「これは」と思える名文の初出が食品問屋の店頭配布冊子だったり、観光バスの車内備え付け冊子であったりすることに小さな感動を覚えているからだ。
戦後まもなく、同居する芦屋の家の庭にひっそりアスパラガスを植えていた保という叔父と、ミラノでいつも収穫したアスパラガスを届けてくれた義理の従妹のアドリアーナの思い出を細やかな心遣いの籠った端正な日本語で綴った「アスパラガスの記憶」は、明治屋の店頭配布冊子『嗜好』に寄せられた一文だった。欧州産の野菜の缶詰も扱うこの店の求めに応じ、しかし手抜きがないばかりか珠玉といってよい名文を寄せた須賀敦子とは、万事がそういう人だったのかも知れない。その彼女自身が「一番好き」と語った「霧の向こうに住みたい」は注文住宅メーカーの広報誌の連載であった。私が秘かに須賀文学の精髄が込められていると信じる「隣町の山車のように」は観光バスの車内誌が初出であった。
JALの『アゴラ』が届いたとき、たまたま家人が留守で一人だったこともあり珍しくじっくり目を通したことも、写真が目を引いたことも、きっかけ、であったかもしれない。
いづれにしても、私ははじめて、私だけの村上春樹を「発見」した気でいる。 -
とにかく大好きな本。
どれをとっても印象的なエピソードばかり。イタリアの天気予報士の話が一番好き。ギリシャ行きたーい! -
何度も読んでしまう。
日本で鬱屈として疲れ切った村上春樹が、イタリア、ギリシャに行き、40歳までに書かなければならないと思った小説を書いた日々。
自分がやるべきことがわかっていて、それを毎日実行できるから、この人はやっぱりすごい。
この日々で『ノルウェイの森』と『ダンス・ダンス・ダンス』を書き上げているわけだし。
ローマの蜂の描写はそういうことあるなぁと思うし、ギリシャで会ったおじさんが羊男っぽかったり、パレルモをさんざんに悪く言っていたりするのも面白い。
タイトルのもとになった、トルコの詩もとても好き。