遠い太鼓 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
3.86
  • (477)
  • (407)
  • (598)
  • (41)
  • (4)
本棚登録 : 4972
感想 : 387
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (570ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061853829

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 結構前に単行本で読んだのを文庫版で再読。
    春樹の小説が全然読めなかった…とガックリしていた自分に友達が勧めてくれた1冊。
    結果として小説は正直苦手だけど、春樹のエッセイはめちゃくちゃ好きになるというきっかけになってくれた大事な1冊。
    やっぱり積読してみても面白い!
    読む度に旅をしたい気持ちになるし、遠いヨーロッパ事情を垣間見れるのも楽しい。

  • ギリシャのことが書いてある本を探してたら、なんとあの村上春樹さんがギリシャで生活していたときの滞在記を書いているというので読んだ。けっこう分厚い本で読み応えある。かなりまえのことだがおもしろい。住んでなければわからないことがいろいろ書かれておりかなり興味深い。私にとってはこの人の作品は小説よりもエッセイのほうがおもしろい気がする。

  • おもにギリシャ、イタリアに3年間滞在したときの紀行文。(途中、ロンドン、フィンランド、オーストリアも少し)1990年前後頃だが、今でも楽しく読める。一定期間生活したからこそ分かる、土地柄や国民性の比較が面白い。クスッと笑える箇所、「良くぞ言ってくれました!」と思うところも!
    「ローマをローマたらしめる、あの音」には共感。懐かしい土地も出てきて、さらに楽しめた。バースからカッスルクームまでの、あの丘陵地帯を自転車で行くとは、チャレンジャー!

  • 「村上春樹」の紀行『遠い太鼓』を読みました。

    「小田実」の紀行『何でも見てやろう』に続き、旅の本で現実逃避です… 「村上春樹」の作品は2年半前に読んだ紀行『雨天炎天 ―ギリシャ・トルコ辺境紀行―』以来なので久しぶりですね。

    -----story-------------
    ある朝目が覚めて、ふと耳を澄ませると、何処か遠くから太鼓の音が聞こえてきた。
    その音を聞いているうちに、僕はどうしても長い旅に出たくなったのだ――。
    40歳になろうとしていた著者は、ある思いに駆られて日本を後にし、ギリシャ・イタリアへ長い旅に出る。
    『ノルウェイの森』と『ダンス・ダンス・ダンス』を書き上げ、作家としての転換期となった、三年間の異国生活のスケッチブック。
    1986年秋から1989年秋まで3年間をつづる新しいかたちの旅行記。
    -----------------------

    「村上春樹」が1986年(昭和61年)から1989年(平成元年)にかけて、ギリシャ・イタリアを中心をしたヨーロッパへ長い旅に出た内容をスケッチブックを描くように綴った作品、、、

    既読の作品ですが、もう一度読みたくなったんですよね… この時代に名作『ノルウェイの森』や『ダンス・ダンス・ダンス』が執筆されたそうです。

     ■遠い太鼓──はじめに
     ■ローマ
     ■アテネ
     ■スペッツェス島
     ■ミコノス
     ■シシリーからローマに
     ■ローマ
     ■春のギリシャへ
     ■1987年、夏から秋
     ■ローマの冬
     ■1988年、空白の年
     ■1989年、回復の年
     ■イタリアの幾つかの顔
     ■オーストリア紀行
     ■最後に──旅の終わり
     ■文庫本のためのあとがき

    「村上春樹」作品って、小説の方はなかなか理解できず感情移入がムズカシイ面があるのですが、、、

    紀行やエッセイは大好きです… その場の空気感や匂い、周囲の人の感情等等、目に見えないけど感じる部分が伝わってきて、その場に居るような気がしてきて、著者の目線に共感できるんですよね。

    本書を読んで、一度も訪れたことのないイタリアやギリシア、イギリス、フィンランド、オーストリア等に、まるで行ってきたかのような感覚が残りました、、、

    そして、感じたのは、物質的な豊かさは、心の豊かさには比例しないってことかな… そもそも、物質的な豊かさって、一人ひとり物差しがバラバラだし、統一的な基準はなく、環境や文化、習慣に依存することなので、比較は難しいんですけどね。

    七輪で魚を焼き、タコを食すギリシアには好感を持ち、
    郵便がキチンと届くことが期待できず、泥棒が多くて(特にローマ)、責任をバケツリレーして受け取らないイタリアのイメージが悪くなり、
    『サウンド・オブ・ミュージック』で観て抱いていた好天が続く爽やかな青空と森の緑のイメージを、雨が多いオーストリアの実情に崩され… と、新しい発見のあった一冊だったなぁ、、、

    そして、「村上春樹」が長い旅に出た理由… その「ある日突然、僕はどうしても長い旅に出たくなったのだ。」というシンプルで説得力を持った理由にも共感しましたね… 600ページ近いボリュームで、分厚くて重たい文庫本でしたが、愉しく読めたので長く感じませんでした。

    「村上春樹」が37歳~40歳で経験した長い旅、、、

    私は、その年齢は随分と超えてしまいましたが… これから「ある日突然、どうしても長い旅に出たくなる。」ことがあるかもしれないなぁ。

    その時は、どこに行こうかな… 想像すると、ちょっと愉しみです。




    以下、旅の軌跡です。

    【イタリア】  ローマ
    【ギリシャ】 アテネ、スペッツェス島、ミコノス島
    【イタリア】  ローマ、パレルモ、ローマ、メータ村、ブリンディシ
    【ギリシャ】  パトラス、アテネ、ミコノス、クレタ島
    【日本】
    【フィンランド】  ヘルシンキ
    【イタリア】  ローマ、アテネ、テサロニキ
    【ギリシャ】  レスボス島
    【イタリア】  ローマ、ボローニャ、ローマ
    【イギリス】  ロンドン、バース
    【イタリア】  ローマ
    【ギリシャ】 ロードス島、ハルキ島、ロードス島、カルパトス島
    【イタリア】  キャンティ地方
    【オーストリア】  ザルツブルク、ロイッテ

  • 村上春樹作品。37歳から40歳になるまでの約4年間(ノルウェイの森やダンス・ダンス・ダンスを描いていた頃)、イタリアやギリシャなどヨーロッパ各地に住みながら、小説を書いたり翻訳をしたりしつつ、各地を旅した旅行記のような一冊。いつものような春樹節は少なく、独特な旅行記として楽しく読める。所々で紹介される奥さんとのエピソードや美味しい料理、コンサートのコメントなどが楽しい。村上春樹の小説はどれを読んでも僕には難解で距離を置いていたが、この本はとてもシンプル。こうくるとかえって物足りなくなる。人ってないものを欲しがるものだ。たとえそれが不自由であってもね。やれやれ。

  • 数十年前に発売。その当時はこの本が旅行記とは知らずに買ってしまい最初のほうを読んでつまらなくてそのまま放置していた。先日何の気無しに手に取って読み始めてみるととても面白かった。若い頃は旅行記なんて退屈だと思っていたのに歳を取るとこんなにも興味深いものになるとは。
    クラシックやワインのくだりは自分にはわからないのでちょっとウンチク的に受け取ってしまったけれど(笑)
    村上春樹さんの旅行記は他にもあるようなので旅に出たくなったら読んでみようと思った。

  •  エーゲ海の島特有の白すぎるほど白い塀の上で、小さな黒猫が思いっきり反りかえって背のびをしている。突き上げられたお尻の先の黒い尻尾がまたかわいい。家に無料で届く『アゴラ』というJALの広報誌でのことだ。村上春樹が「ギリシアの二つの島」という短文を載せていて、それに添えられた写真がまず私の目を引いた。
     25年ぶりに訪れたスペッソス島で村上春樹が猫の背を撫でている。島中に猫が溢れる島で、彼は猫好きを自称している。『ノルウェーの森』を書いていた四半世紀前、初めて来た時と比べ、わずかには観光化が進みはしたもの、あいかわらず程良く寂れ人の気持ちも変わりないことにほっとする彼だが、唯一、「しかし昔に比べると、猫がみんな小奇麗になっているように思えた。かつては傷だらけの、耳が半分ちぎれたような汚い野良猫があちこちうろうろしていたんだけど、今はそういう猫はほとんどみかけない。驚くほど毛並みの良い、美しい猫たちが通りをすらりすらりと歩いていた」という。
     当時「若手作家」だった彼は、「ある理由」があって日本を離れヨーロッパを転々としながら書いていた。「ある理由」とは何なんだったのか、多くは語らない彼が、傷ついてみじめな野良猫だった自分を、世界的ベストセラーライターとなった今振り返っているかのようなこの短文は、私にとって「発見」であった。その発見を深め、「ある理由」とはなにかをしっかり掴みたいとおもって読み始めたのが、当時の事情を記した『遠い太鼓』であった。

     発見や発掘は好きだが追従は好きではない。だから私は村上春樹の作品はほとんど読まない。『ノルウェーの森』も『1Q84』も、気がつくと既に書店に山積みにされ、高い評価がすでに定まっていた。こういうものに対して偏屈な私の触手は全然のびない。
     今回はどうして違ったのだろう。
     無料の広報誌みたいな、文芸誌や単行本とは違うどこか正式ではない冊子の中に見出した短文だったから、かもしれない。
     近頃私は、こういう冊子の類に一目置いている。というのは、須賀敦子に嵌りまくっている私は、彼女の書いたものは何から何までとことん読み尽くそうと試みているのだが、「これは」と思える名文の初出が食品問屋の店頭配布冊子だったり、観光バスの車内備え付け冊子であったりすることに小さな感動を覚えているからだ。
     戦後まもなく、同居する芦屋の家の庭にひっそりアスパラガスを植えていた保という叔父と、ミラノでいつも収穫したアスパラガスを届けてくれた義理の従妹のアドリアーナの思い出を細やかな心遣いの籠った端正な日本語で綴った「アスパラガスの記憶」は、明治屋の店頭配布冊子『嗜好』に寄せられた一文だった。欧州産の野菜の缶詰も扱うこの店の求めに応じ、しかし手抜きがないばかりか珠玉といってよい名文を寄せた須賀敦子とは、万事がそういう人だったのかも知れない。その彼女自身が「一番好き」と語った「霧の向こうに住みたい」は注文住宅メーカーの広報誌の連載であった。私が秘かに須賀文学の精髄が込められていると信じる「隣町の山車のように」は観光バスの車内誌が初出であった。
     JALの『アゴラ』が届いたとき、たまたま家人が留守で一人だったこともあり珍しくじっくり目を通したことも、写真が目を引いたことも、きっかけ、であったかもしれない。

     いづれにしても、私ははじめて、私だけの村上春樹を「発見」した気でいる。

  • 旅行記、旅の随筆。1986年から89年まで、村上春樹は主にギリシア、イタリアに滞在。同地で暮らしながら、長編小説や翻訳小説を書いたという。その頃書かれたのが「ノルウェイの森」と「ダンス・ダンス・ダンス」なそうだ。

    「ゾルバ系ギリシャ人」「死に犬現象」「エーゲ海の法則」などの造語と考察も面白いのであった。

    長期でもあり、現地で家を借り、自ら食材を買い出しに行き、自信で料理を作る。そんな日常も書かれており、興味深い。ていねいに食事をつくり、ちゃんとしたものをしっかり食べる、それが村上氏の基本的な生き方のようだ。
    また、読んでいる本について、随所で語られる。「モンテクリスト伯」、「感情教育」、「薔薇の名前」、「マルタの鷹」などなど。そして「その男ゾルバ」。ちなみにディッケンズについての言及もしばしば。村上氏は、ディッケンズもお好きのようである。

    村上氏独特の形容表現、というのがある。
    こういう氏独特の形容表現は、小説では、倒置法のような言い回しが多いように思う。例えば…。

    「詩人はどこからか灰皿を持ってきて、それをテーブルの上に優雅にとんと置いた。あたかも妥当な場所に気のきいた装飾句を挿入するかのように。」(『ダンス・ダンス・ダンス』29章)

    こうした形容表現は、この私的な随筆でも味わうことが出来る。だが、随筆では、小説の言い回しと逆のかたちが多いように思った。例えば…

    「そのうちに誰かが船に乗って良いしらせを持ってきてくれるはずだとでもいわんばかりに、いつも海の彼方を睨みつけている。それがキオスクのタカハシさんである」127P(「スペッツェス島における小説家の一日」)

    どうでもよいような小さな発見だが。

    冬のギリシアは、雨模様の日が多く、冷たい北風もふき、陰鬱な気候なのだという。紺碧のエーゲ海…という観光のイメージ、絵葉書のようなイメージしか抱いていなかったので、そんなオフシーズンの実像が興味深かった。知らなかった。

  • 旅行気分というか、ヨーロッパ長期滞在気分を味わえた。声に出して笑った!楽しい!

  • あまり村上春樹の本を読んだことがないのですが、旅行記ということで読んでみました。
    イタリア、ギリシャを中心に国として、地域の特徴を上げつつ、様々な個性豊かな人物が登場します。

    時折文中の主語が国となり、いささか大げさに聞こえるものの、1つの国でも様々な人物が出てくるので結局国で判断はできないということを暗に示しているように感じました。

    とりあえず、ワインやホットブランデーを飲みたくなります。

著者プロフィール

1949年京都府生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。79年『風の歌を聴け』で「群像新人文学賞」を受賞し、デビュー。82年『羊をめぐる冒険』で、「野間文芸新人賞」受賞する。87年に刊行した『ノルウェイの森』が、累計1000万部超えのベストセラーとなる。海外でも高く評価され、06年「フランツ・カフカ賞」、09年「エルサレム賞」、11年「カタルーニャ国際賞」等を受賞する。その他長編作に、『ねじまき鳥クロニクル』『海辺のカフカ』『1Q84』『騎士団長殺し』『街とその不確かな壁』、短編小説集に、『神の子どもたちはみな踊る』『東京奇譚集』『一人称単数』、訳書に、『キャッチャー・イン・ザ・ライ』『フラニーとズーイ』『ティファニーで朝食を』『バット・ビューティフル』等がある。

村上春樹の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×