野 (講談社文芸文庫)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (318ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061960763

作品紹介・あらすじ

著者の故郷を舞台にそこに住む人々とその暮しを描く。厳しい自然と対峙する強靭な生命力のしたたかさ。優しく哀しくユーモア滲む短篇の名手・三浦哲郎の瑞々しき豊饒の世界。「金色の朝」「がたくり馬車」「沈丁花」ほかの匂い染み込む作品群十六篇。新境地を拓いた著者ならではの短篇集。

感想・レビュー・書評

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  • 野山で生きる人々の生老病死を瑞々しい風景描写と、細やかな心理描写で写し取った短編集。
    著者が自分の著作の中で最も好きな作品というだけあって、どの作品も伸び伸びとした筆さばきで書かれているように思える。
    特に「楕円形の故郷」は、東京が舞台にも関わらず、盆栽という意外な装置を使って都会と故郷の「野」を曲芸的に繋いだ、かなり意欲的な作品に思えた。
    平易な言葉を使いながら、目を洗われるような美しい情景描写が連続する「泉」は、主人公の妊婦の所作が、著者の出生時に母親が死産を願って取った行動と対称を成しており、ただ綺麗な物語というだけでなく、深くも読めてしまう。

    けれど本書で一番衝撃的だったのは、私がこの著者に特別に惹かれる理由を、解説者の秋山駿氏がすっきりと説明してくれたこと。
    処女作『忍ぶ川』の題名通り、三浦哲郎氏は忍び通した作家人生を歩んだという。
    敗戦に伴い、大江健三郎に代表される新時代の作家たちは、戦前の日本が持っていた文化や思想を否定し、戦後日本に流入した新思想や新理論に基づいた文章表現を採用した。
    一方で本著者は、日本人のあらゆる局面を描くためには、敗戦以前の私小説家の文章で事足りるとし、それを実践する。
    それが、万葉から脈々と受け継がれてきた日本の言語の血統を守ることになっている。
    日本を信じ、日本に随(つ)いた、その姿勢に惹かれざるを得ないのだろうな、と。

  • どの短編も駄作がなく安定の出来。
    記憶に残っているのは「ひとさらい」「ボールペン」「沈丁花」。

  • 耐え忍ぶ人々のお話。

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著者プロフィール

三浦哲郎

一九三一(昭和六)年、青森県八戸市生まれ。早稲田大学文学部仏文科を卒業。在学中より井伏鱒二に師事した。五五年「十五歳の周囲」で新潮同人雑誌賞、六一年「忍ぶ川」で芥川賞、七六年『拳銃と十五の短篇』で野間文芸賞、八三年『少年讃歌』で日本文学大賞、八五年『白夜を旅する人々』で大佛次郎賞、九一年『みちづれ』で伊藤整文学賞を受賞。短篇小説の名手として知られ、優れた短篇作品に贈られる川端康成文学賞を、九〇年に「じねんじょ」、九五年に「みのむし」で二度にわたり受賞。他の著作に『ユタとふしぎな仲間たち』『おろおろ草紙』『三浦哲郎自選全集』(全十三巻)などがある。二〇一〇(平成二十二)年死去。

「2020年 『盆土産と十七の短篇』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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