みずから我が涙をぬぐいたまう日 (講談社文芸文庫)

著者 :
  • 講談社
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本棚登録 : 155
感想 : 6
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  • Amazon.co.jp ・本 (300ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061961142

作品紹介・あらすじ

天皇に殉じて割腹、自死を遂げた作家の死に衝撃を受けた、同じ主題を共有するもう一人の作家が魂の奥底までを支配するの枷をうち破って想像力駆使して放つ"狂気を孕む同時代史"の表題作。宇宙船基地よりの逃走男が日本の現人神による救済を夢見る「月の男」。-全く異なる二つの文体により、現代人の危機を深刻、ユーモラスに描く中篇小説二篇。

感想・レビュー・書評

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  • 1文が10行にわたることもあり、さらに側から見れば発狂した者の口述記録でもあるため、完全に排他的な文体となっており、私も数ヶ月前に一度読み始め、途中で断念することとなった。
    今回また読み始めたのは、大江の晩年の作品『水死』を読むことを目指すにあたって避けては通れない作品だからである。

    「純粋天皇」というセンシティヴかつ荘厳なテーマを、なかば発狂した者の口述を通したユーモラスな文体を採用したおかげで、また小説という“フィクション”が保険として働いてくれるおかげで、重々しくなり過ぎずに扱えている。

    この本を読んで、自分は大江作品の中でも神秘主義に重きを置いた作品の方が好きだと気づいた。もちろん、この本でも神秘主義を利用して「純粋天皇」の神格化を有効に表せているのだが。

    大江の「父と天皇制」というテーマは、歴史や政治に疎い私にはまだ尚早なのかもしれない。
    とりあえず今は『懐かしい年への手紙』『燃えあがる緑の木』に共に通底する命題である「魂のこと」に触れた地続きの作品である、『宙返り』を読みたい。

  • 大江健三郎「みずから我が涙をぬぐいたまう日」

    なぜ今までこの作品を未読だったのか非常に悔やまれる!
    やはりこの時期の大江作品は神憑っている。
    物語の進行上かなり重大な新事実を、
    さも当たり前の事ででもあるかのように
    関係詞節内にさらっと入れる手法は、
    明らかにフォークナー、マルケスからの影響だろう

    2012-09-20 00:42:55 Twitterより

  • 表題作に自然から受け取る圧力を感じた

  • ここ一年ぐらい封印していた「大江氏を読むこと」を、ついにやぶってしまった。

    相変わらず、ずるずると引きずり込まれる、この人の世界に。

    「みずから我が涙をぬぐいたまう」という不思議なタイトルについて、読み進めていって、なるほど、とわかった。

    また、「懐かしい年への手紙」などと通じるモチーフが随所に登場するあたりも楽しめる。

  • ミシマの自決に直接的に揺り動かされて、オオエの終生のテーマである天皇制に取り組んだ中篇2作。人生の三分の二、意識のレベルでいうとそれ以上の比重で平成に暮らしてきた個人としては、テーマ自体に共感を持つことはできない。ただ、それ故にかフラットに小説として読むことはでき、この時期のオオエの様々な発想は面白く読める。狂気をその強大な想像力をしてねじ伏せるように世界を構築していくオオエの姿は大変勇ましく、頼もしいのだ。
    また、これを読んでおくと「水死」がさらに面白くなること請け合い(読まなくても面白いよ)

  • 「みずから我が涙をぬぐいたまう日」と「月の男(ムーン・マン)」という、狂気をユーモラスにかつ哀切をこめて描いた二つの中篇からなる本。

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著者プロフィール

大江健三郎(おおえけんざぶろう)
1935年1月、愛媛県喜多郡内子町(旧大瀬村)に生まれる。東京大学フランス文学科在学中の1957年に「奇妙な仕事」で東大五月祭賞を受賞する。さらに在学中の58年、当時最年少の23歳で「飼育」にて芥川賞、64年『個人的な体験』で新潮文学賞、67年『万延元年のフットボール』で谷崎賞、73年『洪水はわが魂におよび』で野間文芸賞、83年『「雨の木」(レイン・ツリー)を聴く女たち』で読売文学賞、『新しい人よ眼ざめよ』で大佛賞、84年「河馬に噛まれる」で川端賞、90年『人生の親戚』で伊藤整文学賞をそれぞれ受賞。94年には、「詩的な力によって想像的な世界を創りだした。そこでは人生と神話が渾然一体となり、現代の人間の窮状を描いて読者の心をかき乱すような情景が形作られている」という理由でノーベル文学賞を受賞した。

「2019年 『大江健三郎全小説 第13巻』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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