山梔 (講談社文芸文庫)

著者 :
  • 講談社
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感想 : 19
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  • Amazon.co.jp ・本 (464ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061976993

作品紹介・あらすじ

山梔のような無垢な魂を持ち、明治時代の厳格な職業軍人の家に生まれ育った阿字子の多感な少女期を書く自伝的小説。著者の野溝七生子は、明治30年生まれ、東洋大学在学中の大正13年、特異な育ちを描いた処女作の「山梔」で新聞懸賞小説に入選、島崎藤村らの好評を博す。歌人と同棲、後大学で文学を講じ、晩年はホテルに一人暮す。孤高の芸術精神が時代に先駆した女性の幻の名篇の甦り。

感想・レビュー・書評

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  • これまた色んな意味ですごいのを読んでしまった。
    とりあえず文体が何しろレトロなので、これだけでハードルが一気に上がってしまう。文体もさることながら、この漢字使いときたら。山梔って絶対読めんだろ、これ。希臘とか歔欷とか、もう、このインテリやろうが!と言わずにはいられないのだが、それはきっとこの時代に小説なんて読むのはインテリだし、書くのもインテリだったんだろうからしょうがない。知らんけど。
    でもってこのインテリがとりあえず勉強したけど卒業しても家でダラダラするだけだし、頭の中ではなかなかに偉そうなことを考えてもキョドって何も言えないというニートっぷり。でもそれって子どもの頃から虐待されて育ったという家庭環境に依存するという、なんかこれ現代小説のテーマとまんま変わらなくないか?
    とかなんとか偉そうに考察しつつ、だんだんとドロドロした方向に向かっていく展開は思いのほか楽しめたのだった。

  • 18歳くらいに出会いました。その後、江国さんの「きらきらひかる」に出会うまで、人生ベストワン書籍の座に。乙女であることの残酷さ・純粋・我侭など、ロリィタ心を満たしてくれた本。あの時に出会えて本当に良かった。

  • 久世光彦が同じ著者の「眉輪」(発行されていない)を絶賛する文章を書いていて、入手可能な本書を手にした。
    1923年(大正12年)の作品だが、瑞々しい文章は全く時代を感じさせない。

    無垢な詩人の心を持った少女の過酷な運命を、自在な語りで物語っていく。
    梔子(くちなし)の花のように匂い立つ少女の怖さが際立つ。
    梔子は少女の純粋な魂の象徴だ。
    著者の少女時代と思しき主人公阿字子は、「嵐が丘」のキャサリンだ。
    そして、本書も<嵐が丘>も、共に少女文学だと言える。

    著者は東洋大学教授として比較文学の研究者だが、26歳で書いたこの作品一作で、その才能を開花させている。

  • 刺さりすぎて苦しかった。阿字子=著者はいわば家父長制に縛り付けられて逃げるしかなくなった子。今でも家父長制の呪いは残ってるし、システムや世の中、政治に違和感を感じて抗ってると、気が狂ってる扱いされる(今なら変な奴くらいまでかもしれないけど、フェミニズム絡みの発言とか意見を表明すると苛烈なバックラッシュにあうこともある)状況はある。
    私個人も、現政権に怒り続けてるけど、たしかに変なこともあるかもしれないけどなんでそんな怒ってんの?みたいな空気を感じて自分がおかしいのかと絶望するときがある。
    復刊されてほしい 。

  • 明治時代の厳格な職業軍人の家に生まれ育った阿字子の多感な少女期を描く自伝的小説。主人公の阿字子は人一倍、感じやすく、聡明であったために、彼女を取り巻く人々と衝突を繰り返し、ぼろぼろに傷付いていく様は読んでいて酷く痛ましかったです。阿字子を理解しようとしない、或いは理解しようとしても果たせない悲しさ。阿字子が嫂の京子から暗に家族の厄介者であると投げ付けられる部分では自分自身と重なって見ることもあって後半の展開は辛いものでした。脚色はあれど、この作品に描かれる世俗はそれ程遠い昔でもなく、また女性への差別や抑圧は形を変えて未だにあることを気付かされます。

  • 2018.09.10

  • きりきりひりひりと痛んだ。作品のなかにて積み上げられてきたことば、作品を通して主人公を通してこちらのこころに重なり積もったものが、そのまま、主人公の「運命」の結果であるむごさの前に対照されてあらわれでて怯む。かのじょは純粋であり、けれども男性が描く男性の純粋のごとくには身勝手ではなかったように、私には思える。かのじょを映す他のもののこころが、鏡としてかのじょの像を捻じ曲げた。そしてその後、かのじょが暮らす現実も、願っているさいわいも、すべて、「かく生きなければならない」という時代の要請に捻じ曲げられた。「らしく」が強制されない世に暮らしたいけれど、いまの世でさえ、やはり、身勝手かつ享楽的に誤魔化して生きるほかないのかもしれないと思うとつらく苦しい。

  • 聡明で繊細で純潔無垢な娘・阿字子。家父長制に縛られ傷ついていく様子は痛々しくて堪らなかった。反面すぐに自殺を仄めかしたり、当てつけのような行為を振る舞うといったペシミズムに苛々もした。阿字子に感情移入し切るには私は相当に年をとり過ぎてしまったようだ。しかし野溝七生子の気高く穢れない文章は純度の高い宝石のように貴い煌めきを放ち、永遠の少女が持つ魔に魅入られてしまったことは否めない。少女期に受けた傷は、ふとした切っ掛けで突然甦る。忘れていた痛みがじくじくと、嘗ての少女には少し煩わしく少し懐かしい。

  • おおおお…!!なんて面白いんでしょう!!この面白さはもう少し探求したい。あまりにも圧倒的な母と娘、女と女のは話。

  • 百合のいい香りに包まれた

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著者プロフィール

野溝 七生子(のみぞ・なおこ):1897年、兵庫県生まれ。本作『山梔』は、懸賞小説として応募され入選し、新聞連載後、1926年に春秋社より刊行された。さらに北原白秋主宰「近代風景」や長谷川時雨主宰「女人藝術」などに作品を発表。また東洋大学で教鞭をとり、森?外に関する論考などを執筆した。他の著作に『女獣心理』(講談社文芸文庫)、『南天屋敷』(角川書店)、『月影』(青磁社)、『ヌマ叔母さん』(深夜叢書社)、『野溝七生子作品集』(立風書房)、『暖炉 野溝七生子短篇全集』『アルスのノート』『眉輪』(展望社)などがある。1987年没。

「2023年 『山梔』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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