新編在日の思想 (講談社文芸文庫 きD 2)

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  • Amazon.co.jp ・本 (331ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061982567

作品紹介・あらすじ

済州島の武装蜂起を描く大長篇小説『火山島』の小説家が、文学、ことば、変化する戦後日本で生きる原点の思想と国籍の問題や民族統一の課題等を論ずる20篇のエッセイ。

感想・レビュー・書評

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  • 朝鮮の近現代史を、私はほとんど知らないのだなあと思った。学校の「教科書」でも記述は多くない。とりわけ、解放後の朝鮮がどういうことになったのかということは、教科書には「朝鮮戦争」と「大韓民国」ができたことと「日韓基本条約」が載ってるくらいだ。

    著者の金石範さんは、「済州島四・三事件」をモチーフに小説をいくつも書いている人だという。

    ▼在日朝鮮人の大部分は1945年以前に渡日した一世とその子孫の二、三世たちだが、その他に戦後南朝鮮から入国した人たちがいる。(p.69、「在日」とはなにか、初出1979)

    この「戦後南朝鮮から入国した人たちがいる」ということも、私は知らずにいた。朝鮮の解放後、ほんの3、4年間に集中的に起こった現象──独立したばかりの祖国から日本への密入国、いったん帰国した者たちの再入国の現象がかたるものは何か。

    ▼彼らが日本へ渡ってきた原因は、一言でいうと、解放直後38度線で分断された南朝鮮を占領して軍政を布いたアメリカの政策が、当時の日本では想像のできないくらい苛酷だったということにある。それは敗戦国日本を占領した米軍の政策とは比較にならぬひどいもので、右翼ファシスト李承晩を前面に押し立ててのテロ弾圧統治だった。…1948年4月、アメリカの強行による南朝鮮だけの単独選挙、単独政府樹立に反対して立ち上った済州島4・3武装蜂起一つ取って見ても、それがアメリカ帝国主義の占領政策に基因するものであることはいうまでもない。(pp.71-72、「在日」とはなにか、初出1979)

    ▼朝鮮の統一にクサビを打ち込み分断の固定化を進めるような形で、韓国を朝鮮半島における唯一の合法政府として日本が承認する「韓日条約」の調印があったのは1965年だった。

     ところで「大韓民国」ができたのは1948年8月である。それは一般にもかなり知られているように、1948年5月10日に強行された南朝鮮だけの単独選挙の結果、李承晩(イスンマン)を大統領に据えて作りあげられた、根本から虚構的なものだった。…当時、南朝鮮の人民がどれだけこのアメリカの力によって強行された「5・10単選」に反対して、血みどろのたたかいを続けたものか。どれだけの愛国者が、そして若い青年たちが単独選挙を強行するアメリカを後ろ盾にした李承晩軍隊や警察、テロ団に殺されたことか。これらの弾圧の後にはアメリカ軍が出動するが、たとえば済州島(チェジュド)だけで1年余りのあいだに虐殺された者は7万名にのぼる。(pp.25-26、「在日」の思想、初出1981)

    ▼ほとんどの年輩の在日朝鮮人がそうであるように、私自身解放後なお今日に至るまで「在日」の生活を続けるとは想像できなかった。そしてかなり長いあいだ、腰掛けの端に尻を乗っけたような臨時の仮住まいの心情から自由ではなかったのである。(p.29、「在日」の思想、初出1981)

    ▼支配者のことばを使ってそこから自由になるというのは、どういうことなのか。(p.133、私にとってのことば、初出1973)

    この本には「日本語で「朝鮮」が書けるか」(初出1976)も収められている。金さんが書いていることは、徐京植さんが「ことばの檻」と書いたものと同じだと思った。

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著者プロフィール

1925年生まれ。小説家。「鴉の死」(1957)以来、済州島四・三事件を書きつづけ、1万1000枚の大長編『火山島』(1976~97)を完成。小説集に、『鴉の死』(新装版1971)、『万徳幽霊奇譚』(1971)、『1945年夏』(1974)、『遺された記憶』(1977)、『幽冥の肖像』(1982)、『夢、草深し』(1995)、『海の底から、地の底から』(2000)、『満月』(2001)、『死者は地上に』(2010)、『過去からの行進』(2012)など。『火山島』の続編『地底の太陽』(2006)に続き、2019年に続々編「海の底から」の連載(岩波書店『世界』)を完結。その他に『満月の下の赤い海』、『新編 鴉の死』(共にクオン 2022)。評論集には、『ことばの呪縛――「在日朝鮮人文学」と日本語』(1972)、『民族・ことば・文学』(1976)、『「在日」の思想』(1981)、『故国行』(1990)、『転向と親日派』(1993)などがある。

「2023年 『金石範評論集Ⅱ 思想・歴史論』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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