田中角栄処世の奥義

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (218ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062132695

感想・レビュー・書評

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    物事、順風のときはいいが、ひとつ逆風、危機、壁にぶつかると、知恵のモーターがサビついているゆえに作動せず、行き場を失って崩壊するということである。3
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    公衆電話の都内、同地域内の一通話は三分間であった。二分間でも、四分間でもないのである。なぜ、三分間なのか。22
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    共通するのは、言葉の裏に部下を突き放した「命令」姿勢があることにほかならない。

    上司の言葉一つで、部下は"殺された"気持ちになる。31
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    「敵を味方にすることによって城を増やしていった、秀吉に、似ていた。あるいは、明治、大正、昭和を通じて国家主義者として大御所的存在だった頭山満にも似ていたね。頭山はコブシで牛を殺してしまう腕力があった一方、一匹の蚊に涙する人でもあった」60
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    悲しいかな、父・角栄の最も大事なDNA(遺伝子)を欠落させている。いざというとき、中間地帯あるいは周囲への目配り、気配りがまったくできないのである。75
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    「政治家は人に会うのが商売だが、私もここまではできなかった」78
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    田中は知人が亡くなると、まず霊前に花を届けさせた。これは多くの人がやり、多くはそれで事終われりである。ところが、この花は一週間もすれば枯れる。田中の場合、そのあたりを見定めてもう一度、新しい花を届けさせるのである。91
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    手土産に酒の一本ではあまりに芸がない。この際、「奥さんに目を向けよ」である。

    キミが帰った後、上司の奥さんはこう言うに違いない。「あの人、若いのになかなか気が利いているワ」カミさんが喜んでくれて、不愉快な亭主はいない。同じ一万円を投じても、三万円くらいの効果が出る。102
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    人間とは不思議なもので、フルネームで呼ばれただけで妙な親近感、信頼感もまた覚えるものである。108
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    「身銭を切ると自分が額に汗したカネだから、人との話も真剣勝負になる。他人のカネやおごってもらった場合は、そのへんにユルみが出る」119

    苦労して手にした印税、額に汗した身銭である。自分のカネだからこそ、遊びも真剣勝負ゆえ、彼らの素顔をのぞいてやろうという気持ちも強くなる。裏表に目がいく。121
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  • 「本当に困った相手には敵味方関係なく助けていた。こうして敵を味方にすることによって城を増やしていった」

    これは田中角栄の逸話によく出る話である。
    日本人は結構そういうのに弱い。敵だと思っていたのに、政治生命が断たれるような絶体絶命の危機に襲われているときに、救い上げてもらう。特に普段から親しくしていた人たちが全く助けてくれず、見捨てられ、藁にもすがる思いで助けを求めているときだと、助けてくれた人物に非常に恩義を感じてしまう。また、その度量に惚れ込んでしまう。
    本書を読むと、田中角栄の人物としての大きさを感じてしまう。

    「戦争ではなく論争、意見対立にすぎないのなら、相手に余地を残してやる」

    というのもそうだ。
    もし、相手をこてんぱんに論破してしまったら、相手は悔しくて自分を恨むかも知れない。

    政治家は、党派の所属が変わることは良くあるから、禍根を残していると協力できなくなるかも知れない。
    また、政策でもどうしても通したい場合は、党内をまとめたり、議席の数次第では他党を説得しなければならない。そういうとき、恨みを買った人物に反対され挫折する場合もあるだろう。だから、その為に上記のように言う。

    しかし、私が思っていることを開陳するならば、これは日本の教育に関係しているのではないだろうか。

    日本人の中には、子供の頃から「和」を尊ぶ社会に生きていたからか、意見を批判されることに慣れていない者がいる。そういう人物は、批判を非難や人格否定と混同してしまう。だから、自分が否定された気分になり悔しくなったり、悲しくなる。
    が、西洋人は、子供の頃から批判は意見自体の批判として受け止めることが出来る人が多い。「なぜ、そうなるのか?」や「それは違うのではないか」と自分の意見を述べてくる。それが彼らの「誠意」なのだ。

    ということで、田中角栄の態度は、日本人には効果があるかも知れないが、外国人には一概に効果があるとは言えないだろう。

  • 狡賢い政治家が騙しあいの世界を生き抜くための処世術ではない。
    ITがない時代に、人と人が本音でぶつかり利害を超えて結びつくための方法について書かれている。
    処世=世渡りというイメージで本を手に取ったが、読み進むにつれスケールの大きな話に引き込まれる。
    安部官房長官や前原代表など政治家が小粒になった時代に生きる身には田中角栄のず太さが輝いてみえる。
    時間を守る。悪口をのみこむ。ひけらかさない。誠心誠意。稚気。今後この辺を意識してみようと思う。

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著者プロフィール

小林吉弥(こばやしきちや)
政治評論家。一九四一年、東京都に生まれる。早稲田大学第一商学部卒業。的確な政局・選挙情勢分析、歴代実力政治家のリーダーシップ論には定評がある。執筆、講演、テレビ出演などで活動する。著書に、『田中角栄 上司の心得』(幻冬舎)、『高度経済成長に挑んだ男たち』(ビジネス社)、『宰相と怪妻・猛妻・女傑の戦後史』(だいわ文庫)、『アホな総理、スゴい総理』(講談社+α文庫)、『21世紀リーダー候補の真贋』(読売新聞社)などがある。

「2023年 『田中角栄名言集 仕事と人生の極意』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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