下流志向──学ばない子どもたち、働かない若者たち

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062138277

感想・レビュー・書評

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  • 何でもかんでも意味を求めたり、すぐ役に立つかどうかを基準にしがちなのは現代が消費社会だからか。うー、まだ咀嚼しきれていない部分がある。

  •  目から鱗という感じで、自分では思いつきもしなかったような発想を、久しぶりにたくさん1冊の本からいただきました。なかなか面白いお薦めの本です。

     なぜ子どもたちは勉強しなくなったのか。なぜ若者は働こうとしないのか。筆者は一つの見方を提示しています。それは、日本に消費社会が浸透してしまい、何もかも経済的な損得で物事を判断することが、横行しすぎているのではないか。
     別の言い方をすると、それは即時性と等価性となるようです。つまり、今すぐに、自分の支払う代償と全く同じくらいの報酬が受け取れないとやらないよ、とそういう意味になります。

     勉強も、ある意味苦役を強いられます。それがこちらの支払う代償です。では、報酬はあるのか。たくさんの知識が身につく…と思ってくれればいいのですが、そうは考えないので、や~めたとなる。こんなこと覚えても意味ねえ、というわけです。

     仕事も労働がこちらの支払う代償です。これも、苦役を強いられると言っていいでしょう。賃金という報酬をもらえるではないかと思うのですが、少なすぎると思うので、やっぱりや~めたとなる。年功序列的に賃金が増えていくのでは遅すぎる、というわけです。

     そういう発想なので、誰もがアーティストやIT長者のような若者を志向します。イメージとして、彼らは簡単に膨大な報酬を得ているように見えるからです。「なんかクリエーティブな仕事がして~」などという口癖は、こういう思考から来ているというわけです。

     もう一つ、なるほどなと思ったのは、格差社会についてです。一言で言えば、弱者ほどリスク社会の荒波にもまれているということです。自己決定、自己責任は正論のように聞こえますが、それで負けた人たちを、最後に面倒を見るのは、結局政府であり、周りの人間のコストになるという発想が欠けていると指摘しています。そして、強者はしっかりリスクヘッジのできる生き方をしていると。

     もちろん、この本に書いてあることを100%信じるつまりはありません。また、じゃあこうすればいい、というような解決策が明確に提示されているわけでもありません。でも、面白いのです。新しいものの見方をたくさん見せられます。なるほど、とうならせられるページがたくさんあります。

     ぜひ、読んでみてください。久々、お薦めの1冊です。

  • 知性と無知の解釈を、時間の観点から説いた点が最も印象に残った。近代以降の時間と空間の定量化に対する、例のあの人(A.Giddens)の話を思い出させてくれた。

  • あんまり明るいことは書いてないんだろうけれど、
    この作者さん、何かでも紹介されていたし、気になる。
    まだまだ読んでみたいものばかりで、読んでないもの
    ばかりだなぁ~。

  • 「学び」と「労働」とは本質的に等価交換ではない。「学び」に対する対価はすぐには得られないし、「労働」に対する対価は常に過小である。だから経済的合理性がないと判断する子どもは「学び」と「労働」から逃走する。にゃるほど〜。

    (以下引用)
    学びとは、学ぶ前には知られていなかった度量衡によって、学びの意味が事後的に考量される、そのようなダイナミックなプロセスのことです。学び始めたときと、学んでいる途中と、学び終わったときでは学びの主体そのものが別の人間である、というのが学びのプロセスに身を投じた人間の宿命である。(P.65)

    「自分探しの旅」の本当の目的は「出会う」ことにはなく、むしろ私についてのこれまでの外部評価をリセットすることにある(P.71)

    社会上層の子どもたちは下層家庭の子どもたちより学力が高いように思われる。その理由は、普通は裕福な家庭の子どもには潤沢な教育投資を行うことができるからと説明されますが、もう1つもっと深い理由をも落とすわけにはいきません。それは上層家庭の子どもは「勉強して高い学歴を得た場合には、そうでない場合よりも多くの利益を回収できる」ということを信じていられるが、下層家庭の子どもは学歴の効用を信じることができなくなっているということです。(P.83)

  • ゆとり世代とか、そんな簡単な言葉では解決出来ない「学び」と「労働」の価値観の変化。「これ、何のために勉強するの?」と言っていた自分の潜在的な価値観がわかった気がしてゾッとした。これ読ませたい人が複数いる(笑)

  • 期待以上に面白かった。

    なぜこの勉強するのか?というのは子供の素朴な疑問であり、等価交換の質問とは言い切れないはず。
    これに答えないのは当たり前だというのは、答えられない言い訳だと思う。
    経験を通して一緒に考えてあげるべきでは?

    中学時代の自分を考えて耳が痛くなる部分や、若者の仕事に関する観点は納得できる部分もある。

    労働が当たり前の世界で、労働を放棄したニートを保護するロジック、、、ニートが本当の弱者とは思えない。
    なんと言われても私には納得できない・・・。

  • おもしろかった!
    学ぶことを拒否すること、働くことを忌避することは、つまり「消費主体」だからという。それと対になっているのが、「労働主体」。
    私はどっちなんだろうと真剣に悩んだ。どっちにしろ、お手伝いしててよかった・・・!って思ったよ。

    経済合理性とか、等価交換の無時間性とか、コミュニケーション「おせっかい」とか。なるほどと思えることがたくさんあった。
    たくさん印象に残るものはあったけど、“どう生きるか”の壁が目の前にあるわたしにとっては、「理論を語っても仕方がない」(p206)かな。
    実際に、示していかなきゃはじまらない。

    (※2010年手帳より)

  • 相変わらずの"内田節"で「ホントかな~」「例証は?」と思ってしまうところもありましたが、現在の子供達が「消費主体」となっているという指摘にはそそられるものがありました。大学関係者(特にFD関係!)の方もご覧あれ!

    【鹿児島大学】ペンネーム:あいがも
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    鹿大図書館に所蔵がある本です。
    〔所蔵情報〕⇒ http://kusv2.lib.kagoshima-u.ac.jp/cgi-bin/opc/opaclinki.cgi?fword=11109021175
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  • 自ら下流を選択する若者達を理解する助けとなる本


    感想

    アカデミックな書籍を引用する一方で、
    スターウォーズを具体例として挙げるなど
    著者の緩急剛柔な語り口で、
    現代の日本社会の問題を噛み砕いて解説しています。

    本書を読んで痛感したのは、
    現代日本では消費者主権、自己責任の考え方が主流になっていて、
    消費者となるための条件である「お金」が絶対の尺度であり
    「お金」を基準にした損得勘定を
    自己責任で行うことが当たり前の社会である、
    ということです。

    しかし、世の中に普遍的に必要とされるのは、
    世のため人のため、という尺度であり、
    人の喜びを自分の喜びとする価値観によって、
    経済合理性を越えた、
    真に合理的な社会ができるのではないかと感じました。


    私的「メモっ得」ポイント

    ・子どもたちは就学以前に消費主体として自己を確立している
     
    ・お金と財やサービスとの等価交換においては、
     買う主体の属人的性質は問われない

    ・労働主体は他社からの承認を得るまで自らの主体性を確証できないが、
    消費主体はお金を手にした時点で主体性を確保し終えている

    ・消費行動は本質的に無時間的な行為だが、
    労働は入力から出力を得るのに時間がかかる行為である

    ・リスク社会を生き延びることができるのは、
    生き残ることを集団的目標に掲げる、相互扶助的な集団に属する人々


    ★★★★ = 80点以上 = I like it.

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著者プロフィール

1950年東京生まれ。東京大学文学部仏文科卒業。神戸女学院大学を2011年3月に退官、同大学名誉教授。専門はフランス現代思想、武道論、教育論、映画論など。著書に、『街場の教育論』『増補版 街場の中国論』『街場の文体論』『街場の戦争論』『日本習合論』(以上、ミシマ社)、『私家版・ユダヤ文化論』『日本辺境論』など多数。現在、神戸市で武道と哲学のための学塾「凱風館」を主宰している。

「2023年 『日本宗教のクセ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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