僕はパパを殺すことに決めた 奈良エリート少年自宅放火事件の真実

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  • / ISBN・EAN: 9784062139175

感想・レビュー・書評

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  • (2015.10.07読了)(2015.10.01借入)
    副題「奈良エリート少年自宅放火事件の真実」
    衝撃的な内容の本でした。
    図書館で神戸児童連続殺傷事件(酒鬼薔薇事件)関連の本を探していて見つけた本です。「少年A矯正2500日全記録」と同じ著者だったので、借りてきました。
    事件は、2006年6月20日、午前5時15分に奈良県田原本町で起きました。
    家が火災で焼けて、焼け跡から三人の遺体が見つかりました。この家には、以下の五人の家族が住んでいました。
    父親47歳 三重県伊賀市の総合病院勤務(医師)
    母親38歳、民香さん、老人保健施設勤務(医師)
    長男、16歳、東大寺学園高校の一年生
    次男7歳、田原本小学校の二年生
    長女5歳、保育園
    遺体は、母親と次男、長女のものでした。父親は、同僚医師の送別会のため自宅にはいませんでした。長男は行方不明でしたが、6月22日午前8時ごろ京都市左京区の路上で保護されました。
    少年は、6月22日夕方、現住建造物放火、殺人の容疑で、奈良県警に緊急逮捕されました。
    少年は、高校一年の一学期の中間テストで、英語1の点数が平均点を20点も下回り、このままでは父親に怒られると思いとりあえず、父親には嘘をついてごまかしていたけれど、6月20日に行われる保護者会で嘘がばれたら父親に殺されてしまうと考えて、殺される前に父親を殺して、家出をしようと考えての犯行でした。
    期限の20日までに何度か犯行を試みたのですが、父親に気づかれたりしてうまくいかず、期限ぎりぎりになって、父親不在であることが分かっていながら、犯行に及んでしまった、というものです。母親や弟・妹に特にうらみがあったわけではありません。
    少年は、父親に追い詰められたうえでの犯行ということになります。
    何とも、痛ましい事件と言えます。少年は、広汎性発達障害と診断されました。

    【目次】
    はじめに
    序章 逮捕/焼け落ちた絆
    第一章 計画/殺害カレンダー
    第二章 離婚/学歴コンプレックス
    第三章 神童/飛び級と算数オリンピック
    第四章 家出/継母が打ち明けた苦悩
    第五章 破綻/カンニング
    第六章 決行/6月20日、保護者会当日
    第七章 逃亡/ひたすら北へ
    第八章 葛藤/娘を殺した「孫」との面会
    第九章 鑑定/少年が抱えていた「障害」
    終章 慕情/裁判所で流した涙
    あとがき

    ●長男の幼いころ(70頁)
    元夫は、息子には常に一番になって欲しい、という思いがあったようです。
    幼い息子に絵の書いたカード等を見せては、これ何、と言ってテストしたりし、息子の能力を毎日チェックしていました。
    そしてこのチェックに息子が合格しないと、元夫は私に、なんでこんなんもできへんねん、お前の教え方が悪いからや、と言っては殴る蹴るの暴力を振るうのです。
    元夫は息子の教育には熱心でしたが、自分で何かを教えるということはなく、私に指示して、自分はその出来具合をチェックするといった毎日でした。
    ●虐待(102頁)
    わが子に虐待をくり返す親の中には、「これは躾だ」、「自分は愛情をもって叩いている」と主張し、それゆえに他者の忠告に耳を貸さない人がいる。
    ●塾での体罰(110頁)
    塾というのは勉強を教えるところであって体罰を与える場所ではない、授業が分からない生徒がいるのなら、理解できるよう指導するのが塾の使命ではないのかとの思いから、すぐに市田塾まで赴き責任者に文句を言いました。
    ●中1の冬休み明け課題テスト(125頁)
    僕の成績は、全科目平均点以下でした。
    僕はこの成績表を見て、パパが知ったら厳しく怒ると思いました。そこで僕はパパに怒られないための方法として、成績表の改ざんを考えついたのです。
    僕は、パパが最も重要だと思っている数学、英語、理科の教科の点数を改ざんすることにしました。
    ●お祖母ちゃん(158頁)
    僕はよくパパ側のお祖母ちゃんから、顔を見るたびに、頑張って勉強しいや、親戚は医者や薬剤師が多いんやと言われてきました。
    ●決定要旨の結論(222頁)
    少年は、高校入学後の最初の定期試験で平均点を大幅に下回る点数しか取れなかったという、少年にとって誠に危機的な状況に陥ったことから、遂に不快な感情を抑えつけることができなくなり、実父に叱られずに済む方法として、「実父を殺害して家出をする」ことを決意した。
    そして、それを実行する場面では、広汎性発達障害という少年の生来の特質による影響が強く現れ、放火という殺害手段を選択したり、殺害する相手がいないという現実に合わせて計画を変更できなかったり、継母らの生命の危険に十分注意が及ばなかったり、放火が犯罪であるということに全く注意を向けなかったり、その後場当たり的に占有離脱物横領などの行為を重ねたりしてしまったものである。
    ●広汎性発達障害(223頁)
    広汎性発達障害の基本的な特徴は、「対人相互的反応性の障害」と「強迫的傾向(固執、こだわり、反復)」とに要約できる。
    平易な言葉にするならば、対人関係において相手の感情をうまく読み取れないというハンディキャップと、一つの事物に集中すると他のことに注意が向かない傾向、となる。
    ●字義通り性(225頁)
    広汎性発達障害の特徴として、「冗談」や「悪ふざけ」、「たとえ話」をそのままの意味に受け取ってしまい、コミュニケーションに混乱を生じることが挙げられる。
    父親に「出てゆけ」と言われ、少年は本当に出て行ってしまった。

    ☆関連図書(既読)
    「彩花へ―「生きる力」をありがとう」山下京子著、河出書房新社、1998.01.02
    「彩花へ、ふたたび―あなたがいてくれるから」山下京子著、河出書房新社、1998.12.25
    「彩花がおしえてくれた幸福」山下京子著、ポプラ社、2003.11.09
    「淳」土師守著、新潮文庫、2002.06.01
    「校長は見た!酒鬼薔薇事件の「深層」」岩田信義著、五月書房、2001.05.28
    「「少年A」この子を生んで……」「少年A]の父母著、文芸春秋、1999.04.10
    「少年A矯正2500日全記録」草薙厚子著、 文芸春秋、2004.04.10
    「犯罪被害者の声が聞こえますか」東大作著、新潮文庫、2008.04.01
    「なぜ君は絶望と闘えたのか」門田隆将著、新潮文庫、2010.09.01
    「天国からのラブレター」本村洋・本村弥生著、新潮文庫、2007.01.01
    (2015年10月14日・記)
    (「BOOK」データベースより)amazon
    英語1の点数が20点足りない。ただそれだけの理由だった。2週間後の保護者会までに、すべてを消し去らなければ―。3000枚の捜査資料に綴られた哀しき少年の肉声を公開!少年法のタブーを破る衝撃ノンフィクション。過熱する受験戦争へ警告の書。

  • この事件を書籍化する事に賛否両論あるとはおもうけど
    私は賛成です。
    ニュースでは一部分しか報道されていないが、この事件を深く知れて良かった。
    少年の身近に一人でも悩みを打ち明けられる人がいれば回避出来たように思う。
    子どもにとって親は正しいと思いがち。違う視線から見たり時が経ってから思い返せば間違いとわかる時もあるが、当時は恐怖が先にあり冷静な判断が出来なかった。
    暴力や暴言を避ける事で頭がいっぱいになっていたんだと思う。
    少年も被害者であると思った。

  • 虐待といって過言ではない”教育”を父親から受け続けた少年は、定期テストの出来がわるかったことが父親にバレる前に殺すことを決意し、実行する。父親のいない家に火を放ち、継母と弟と妹を殺した少年は家を出る。

    ----------------------------

    著者が入手した捜査資料が多くを占める本で、内容は大変興味深かった。
    絶対に表舞台には出てこない情報を原文のままに見ることができるとはすごいことだ。事実、この本を出したあとに著者は検察から強制捜査を受け、情報を提供した医師は逮捕された。

    少年が自宅に火を放ち、家族三人の命を奪ったのは許されないことだが、その罪は少年の父親にある。この本を読めば多くのひとはそう思うはずだ。
    息子を医者にするという自分のエゴを少年に押し付け、暴力と監視で虐待し続けた父親の罪は大きい。

    少年が障害をもっていたという診断結果も興味深い。言われた言葉をそのまま受け取ってしまう、という障害があるとは知らなかった。捜査資料恐るべしである。

    三人の命を奪った少年、彼がかわいそうで仕方がない、というのが感想。父親の病的な暴力と監視で少年が追い詰められたのは(この本を読む限り)明らかだ。

    出来事をみるときに一方だけの視点だけでみると、偏ってしまうことが多い。この事件もそうだ。
    父親を徹底的に批判する内容で、それを鵜呑みにするのは危うさを孕んでいる。しかし、捜査資料をみる限り、父親が原因だということは間違いないように思う。
    暴力は暴力しか生まない。誰かが少年を愛し、守ってやれたなら、こんな事件は起こらなかった。

  • 期待を懸ける側、受ける側それぞれの立場に誰しもが置かれるわけだが、この異例なケースが決して他人事と言い切れない恐ろしさ。懸ける側の執拗さ過剰さは、たとえ愛情を根源としていても受ける側を追い込んでしまう。適度な期待であれば子供にとって大いなる励みになるだけに難しい。ここに載せられた供述調書は、著者が相当な覚悟を擁して世の親に問うたに違いない。そして、自分が厳しく問われる立場であることを恥ずかしくも受け入れなければならない。

  • とても悲しい気持ちになりました。父親の過剰な考えから、色々逃げ出したかったんだな...父親も愛情がないわけではないけれど、息子の気持ちを考えてあげるべきだったと思う。家族に死ねとか、絶対に言うべきではないな。

  • 随分前に予約していた本です。事件が報道された当時は、とてもショッキングで、息子を持つ私にはとても他人事ではなく、疑問ばかりが残りました。


    でも少年犯罪となるとテレビでも長いこと報道されることは少ないので、少年が捕まるとあっという間にテレビで話題にもならず、私も忘れかけていました。


    そんな時にこの本のことで再び話題になり、是非とも読んでみたいと思い予約したのです。





    読んでいくと父親が1番悪いんだろうと思います。でも少なからず私にも通じる面もあり、私の子育ても振り返ることになりました。


    私はちゃんと息子のことを見ているのかなと不安にもなりました。一緒に居る時間は多いけれど、だからと言って息子の気持ちを全て理解しているとは言えません。大きくなってくるにつれて、良くも悪くも知恵をつけ、多少の嘘をつくこともあります。もちろん私が分かる程度の嘘なのでたいしたことではありませんが、そういう時には怒りよりもハッとすることの方が多くて、嘘をつかないといけない状況にしたのは私なんだよなーと反省します。


    今は怒らないようにを肝に銘じながら息子を育てています。それでも何も怒らない日なんてないですけどね。





    この本を読んでいると、確かに誰の意見にも耳を貸さず、出されていた我が子からのサインにも気付かずにいた父親がこの事件を起こす原因だったと思うのですが、でもこの父親は息子のことをちゃんと愛していたんじゃないかとも思います。


    自分の見栄や意地だけで息子を教育していたわけじゃないんじゃないかと。


    自分の子供の評価はそのまま育てている親の評価でもあると私は感じることがあります。息子が何か悪いことをすれば親も悪いし、息子が誉められれば自分も誉められたような喜びを感じます。こんな風に感じる親ばかりではないかもしれませんし、こんな風に感じる私の方がおかしいのかもしれませんが。





    ただ少し歪んでいたとは思いますけどね。あんなに近くに居たのに分かってあげられないことはおかしいと感じる気持ちもあるけれど、近くに居すぎて見えなくなっていたのかもしれないのです。そして自分は間違っていないと信じ続ける気持ちも強かったのだと思います。





    私自身も息子を育てる上で忘れてはいけない教訓をたくさん学ぶことが出来ました。





    少年が無事更生されることを心から願っています。

  • 報道よりリアルで、恐らく事実に忠実なんだと思う。
    是非読んでいただきたい一冊であるが、確か差し止めになっていると思います。
    私はかろうじて図書館で借りて読めました。
    購入したい一冊です。

  • 2008.4.29

  • 実際の事件のルポ。供述書が内容の大半を占めているので、物凄く信憑性のあるもので、話題になった本。<br>
    話題になっただけあって、一気に読み進めてしまった。

  • 現在、取材方法が問題視されている作品ですが、

    もうね…

    この少年が、可哀想で・・・、可哀想で・・・

著者プロフィール

ジャーナリスト・ノンフィクション作家。日本発達障害システム学会員。地方局アナウンサーからブルームバーグL.P.でファイナンシャル・ニュース・デスクを務め、独立。著書『少年A矯正2500日全記録』(文春文庫)など。

「2018年 『となりの少年少女A 理不尽な殺意の真相』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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