カソウスキの行方

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (154ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062145374

感想・レビュー・書評

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  • 先日、アンソロジーにて津村さんを知り、今回始めて一冊読んでみた。面白かった。妙にリアルで、まるですぐ隣のひとの心の中や生活を覗き見ているかのような感覚になった。3篇とも面白かったが、いちばんニヤリとしたのは「花婿のハンムラビ法典」だった。表題作「カソウスキの行方」は、共感というより、この感覚を知っているなあ、とソワソワした。
    2013.07.31

  • 「カソウスキ」は「(仮想)好き」のことでした。
    そんなの考えたことないけど、面白いかもしれない。

    短編3つとも、あっさりしてて読みやすいがハマる人はハマる、という感じ。

    表題作をまず読んで、よかったけど他にも積読あるし後回し。
    図書館返却前に少し時間ができたので残りを読んだ。
    読まずに返さなくてよかった。
    2つめの「Everyday I Write A Book」がいちばんすきかな。

  • 津村記久子が面白くて最近続けて読んでるけど、これは一番ストレートで、読んだあとでほのぼの明るい気持ちになれた。
    芥川賞候補、というのがいまいち触手が伸びなかったんだけど、表題作もほかの2編もすごく好きでした。

    「カソウスキ」は同僚を好きになったことにして日常にハリを出そうとする主人公。この同僚の子がさえないけどいい人で、友情にも似た不思議な人間関係が生まれてる。

    「Everyday I Write A Book」はちょっと好きになった人の結婚相手のブログを読んでイラっとする話。
    この結婚相手のキャラがキラキラしてて、絶妙にいやーな感じ。でも「あの子嫌い」って表明しちゃうと、自分が相手のかわいさやしあわせに嫉妬してるみたいで、こっちが性格悪い人とみなされそうで言えない、って感じ。誰かに「あんなのただのアホな勘違い女だよ」と言ってもらいたい、みたいな、微妙な感情がすごいうまく描かれてます。

    「花婿のハムラビ法典」も読後感がすごいよくて、さわやかでよかったです。花嫁、いい子じゃん。

  • 津村さんの本に出てくるちょっとした苛立ち感がもうわかるわかる…。面白かったなぁ。

  • ミュージック・ブレス・ユーを読んで以来手をつけなかった津村氏の本。一日で読了。とても読みやすくて、言葉の選び方も遊びがあって、主人公たちの日常が書いてあるだけなのに引き込まれてしまいました。なんでもないようでいて、それぞれ抱えている悔しい気持ちなんかが丁寧に書かれていてさらりとした読後感でした。

  • 高校生の頃によく詩のようなものを書いていた。それは最初、付き合っていた女の子を喜ばせる為に始めたものだったような気もするが、その子に詩を読ませることがなくなってからもずっと頭の体操のように言葉遊びは続けていた。その頃、自分の吐き出す言葉は女々しいという表現が適切な類のもので、それどころか女性の側に立ったようなものが多かった。単純な男の心理と違い、女の子の心理、特に負の側にいつまでも留まっていたいというような願望の見え隠れする心持を支える言葉の使われ方に、思いが巡っていたのかも知れない、と後知恵としては想い出して考えたりもする。「こんなにずばりと言い当てられると困る」という彼女の一言が自分の言葉遊びの原点だったのかも知れない。

    どうもその頃から自分は女性の痛みと単純化して表現されるようなものに、共感を覚え易かったようだ。そのことをふつふつと、津村記久子を読んでいると想い出してくる。気恥ずかしさが衝動的に湧き上がるのを押さえ込んでいる自分の心の動きを感じながらも、淡い思いも併せて想い出してしまう。そして唐突に思うのだが、ジェンダー化された痛みを感じるのは必ず同じジェンダーに属するものでなければならないののだろうか。

    津村記久子の小説に登場する女性の主人公は誰しも多分に中性的だ。実は中性的な女性にはほぼ無条件で惹かれてしまうので直ぐに感情移入しがちなのだが、主人公が最後にやっぱり自分は女だったんだなあ、と感慨に耽るのを見ても妙に共感するのである。それがジェンダーレスな共感なのかどうか、自分でもあいまいなのだ。

    主人公は自己分析する。それ自体が珍しいとは思わないのだが、この自己分析がニュートラルなまま進行するという点が、津村記久子の小説に惹かれる原因かもしれない。その中間的な態度の保留が実に素直に気持ちよく響いてくる。そしてそのニュートラルさが、中性的な魅力というようなものに移り変わっていく。ああだから自分はこの主人公に共感してしまうのだなと思う。

    結局ジェンダーレスなのでは、とこじつけて見るのだが、そのもやもやをストレートな男として自分が悩んでいることと同じようなもやもやをひょっとして女性である作家も抱え込んでいるのだろうか。あるいは松井冬子の絵のように痛みを「痛い」と大きな声で表現すること、津村記久子がそんな表現を始めたら、自分はやっぱりそのジェンダー化された痛みに共感できなくなるのだろうか。今暫く、この作家を好きでいたいと思うのだが。

  • めちゃめちゃおもしろかった。表題作はヒマつぶしで「あの人が好き」と思い込む「仮想好き」女子の日常物語。私もそれ、やったやった!“ブログを書いていたら読むだろうけれど、付き合いたいかというとそれは謎だ。”なんて文章のおかしさと「それわかる!」感覚がたまらないっす。同時収録の2編も最高におかしすぎ。そして、いい話でもあるのです。

  • 3作とも恋の話。ちょっと表現があけすけなところがあって少し苦手。
    津村さんの話は色恋が絡まない方が好きかもしれない。

    2作目のeveryday I Wright a Bookが良かった。とはいえ主人公が読んでいる茉莉のブログは、キラキラしさが見ていてツラい。そんなの読むのやめときなよ、と主人公に言いたくなった。

  • 郊外へと左遷されたイリエは、一時的なものなら一緒に住もうと誘ってくれた友人の結婚に伴う引越しで、薄ら寒い一人暮らしを始めることとなった。
    仕事でもプライベートでもやり切れない毎日に、同僚の森川のことが好きだと仮定して過ごしてみることにしたのだが━━

    こういう日常を切り取ったお話って好きだなあ。
    世界的には取るに足らないなんてことないけれど、人生の主人公たる自分にとっては大事件なんだよね。

  • カソウスキ=仮想好き。
    左遷先の倉庫で、同僚の独身男性を好き(仮)ということにして仕事を頑張ろうとする主人公。なんと健気な。

    仮想の好きだけど、相手と良い人間関係を築けたようで、ラストは嬉しい気持ちになった。
    津村さんの本に出てくる人たちは、大抵めんどくさい人なんだけど、他人を巻き込む嫌なめんどくささじゃなくて、自己完結型の人たち。
    だからすごく愛しい。

    津村さんのエッセイによれば、津村さんはショッピングセンターが大好きだそうだ。
    ショッピングセンターって、どこも似ている。
    この話に出てくるショッピングセンターも、きっと読む人の記憶の中にあるショッピングセンターに脳内変換されていることだろう。

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著者プロフィール

1978年大阪市生まれ。2005年「マンイーター」(のちに『君は永遠にそいつらより若い』に改題)で第21回太宰治賞。2009年「ポトスライムの舟」で第140回芥川賞、2016年『この世にたやすい仕事はない』で芸術選奨新人賞、2019年『ディス・イズ・ザ・デイ』でサッカー本大賞など。他著作に『ミュージック・ブレス・ユー!!』『ワーカーズ・ダイジェスト』『サキの忘れ物』『つまらない住宅地のすべての家』『現代生活独習ノート』『やりなおし世界文学』『水車小屋のネネ』などがある。

「2023年 『うどん陣営の受難』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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