トレイシー 日本兵捕虜秘密尋問所

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (386ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062161572

作品紹介・あらすじ

零戦の性能、大和の構造、軍需工場の内部、暗号の詳細…アメリカ軍はどのようにして重大機密を獲得したか?長らく米側で秘匿されていた「日本必敗」の構図。最強の日本兵は、かくも容易に口を開いた。

感想・レビュー・書評

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  •  フォート・トレイシーやフォート・ハントの元になった英軍が捕虜にしたドイツ軍の将軍や将校の会話を盗聴する為に盗聴器を仕掛けた尋問用の収容所の記録を元にして書いたゼンゲ・ナイツェルの「兵士というもの」を訳したり「有益な助言」をしたり担当編集者の人だったりが読まなかった本。なので訳者は訳者あとがきで分かるように「アメリカ軍の捕虜になった日本兵について調べる物好きはいない」とでも思ったのか、呆れるようなデタラメを書き飛ばしたレーマー様とかいう「研究者様」の「御研究」を依拠したらしい。
     「兵士というもの」はドイツ語の会話を英軍の関係者が英訳したものをナイツェルがドイツ語に戻したものを日本語に訳した本なので意味合いが変わっている可能性があるが、この「トレイシー」の場合は日本語やドイツ語の会話をアメリカ軍の関係者が英語に訳したものを日本語に戻した(ドイツ語の会話は英語から日本語に訳した事になる)ので同じような可能性がありそうだ。
     復刻版が出ている「生ける屍の記」を依拠していた章があったり、NHKの先輩が取材したウルリヒ・ケスラー将軍の取材内容を依拠したりした点は気になる。ケスラーは技術士官ではなく偶然、副官が英軍の捕虜になったので「兵士というもの」に掲載された写真で分かるように前線部隊の指揮官であり、戦功騎士十字章ではなく騎士十字章を佩用して日本に向かっていた。本当に7月20日事件の関係者だったかどうかは知らない。
     「アメリカ軍の捕虜になった海兵卒の大谷誠中尉」が誰かなのかは、こういう本を読む読者にとって自明の事なので隠す必要がないし、文庫版のあとがきで分かるように知っていながら書かない理由が分からない。
     秦郁彦の「日本人捕虜」にはフォート・トレイシーは「実施された過酷な尋問で、発狂者を出した例も」ある「「赤煉瓦」の代名詞で捕虜たちから怖れられた」とあるが、この本には出て来ない。肉体的に痛みつけなくても心理的に追い詰めるような「過酷な尋問」をしていたのだろうか?
     ともあれレーマー様の粗雑な「御研究」とそれを鵜呑みにした人々(特に「有益な助言」をした大木毅)とは全然違う事を調べて書いたものだ。日本軍が捕虜になった時の心得を教育しないので「一宿一飯の恩義」で情報がダダ漏れした面があるにしろ、ここまで情報が漏れたものだ。
     ディートリヒ・フォン・コルティッツ将軍が第22歩兵師団の聯隊長時代にウクライナでユダヤ人の虐殺という「最悪の仕事」を実行したと語ったのは盗聴器の前なので、ひょっとしたら日本軍将兵も戦争犯罪について語っていたかもしれない。

  • 20代の頃に読んだルースベネディクトの『菊と刀』を読んで以来の衝撃。

    日本兵捕虜から、いかに正確な日本の情報を聞き出すか。
    戦に勝つには、己を知れ。敵を知れ。
    太平洋戦争時に、アメリカがここまで敵国日本の調査を行っていたなんて。
    日本が負けるはずだよ。

  • 2010年刊行。近年公開が進むアメリカの極秘資料に対日捕虜尋問の実態を記したものが存した。これを分析し、戦中の米国の広範な情報収集の実態、クロスリファレンスの実像、さらには、捕虜尋問所での隠蔽事件を戦後に追跡した日米元軍人の行動や旧厚生省の応待について叙述。判りやすい文章で一気読み可能。「貴公を敵に廻したくはないものだ。勝てるはずがないからな」とは、とある小説の一シーンだが、本書の印象がまさにそれ。こんなに「正確」かつ「多量」の情報収集に貪欲な相手に勝てるはずがない。日本政府の情報開示への消極姿勢も判る。
    さらには、情報士官の教育・指導の日米差異、適材適所に関する日米の考え方の違いも、示唆的。あるいは、多様な想定(平たく言えば、戦陣訓が定められても不可抗力で捕虜になることは想定すべき。)がなされていないのは、正直理解に苦しむ。あるいは、大島駐独大使らが米国に護送?されている際、パンツ(褌)内に米ドルを隠し持ち、さらに持っていないと申告していた事実は、なんともはやである。

  • 本編のほとんどが、太平洋戦争時のアメリカがどれほど『情報』に価値をおいていたのかを、まざまざと思い知らされる内容となっています。
    本のタイトルとなっている『トレイシー』という戦争捕虜から情報を取得する施設においての諜報活動内容が詳細に綴られています。
    日本の暗号は、全て暴かれていて、日本は終戦までそれを知らなかったと言われています。
    良く言えば『正直者で良い人』の日本人が、外交面で足りない点なのだと思います。
    最近のアメリカが世界を騒がした諜報活動にあるように歴史を見ると国民・民族性がわかります。
    アメリカという国は良きにつけ悪しきにつけ、世界を振り回す事が多いですが、アメリカの良心が最後の砦として機能するのだなと。
    最後には靖国神社が残された謎も少し書かれており、戦争とは何かを問う内容となっています。
    最初は単調さを感じますが、最後は納得の良書だと思いました。

  • トレーシーとは第二次大戦のアメリカにおける捕虜秘密尋問所のコードネーム。日清・日露では紳士的な捕虜政策を執りえた日本も、第二次大戦ではそうは行かなくなった。一方、紳士的な米国の捕虜政策もジュネーブ条約に反しての盗聴施設を持つトレーシーの存在は、情報開示法による期限を待つよりほかなかった。本書は開示された膨大な尋問記録と縦糸に、そして史実を横糸にしてアメリカの諜報戦略を解き明かしたドキュメント。「生きて虜囚の辱めを受けず」とともに、一方での現実的な捕虜となった場合の対処法もあってしかるべきかだったのではと思うのは、未来から過去を評価するおろかなことか。そして当時は厳しい戦いの中で、戦後に希望を託して、目先の利敵行為に良心を痛めながらも日本再建の第一歩として茨の道を歩んだ先人もいたという事実を知ることに、新しい視点をみる気がした。

  • コロラド州ボルダー 海軍日本語学校がおかれた およそ1000人の語学将校 海軍や海兵隊の日本語通の士官 エドワートサインステッカーやドナルド・キーン 

    尋問センター ジュネーブ条約では盗聴が許されないが、それをしていた そのため秘密にされていた

    生き残ったものは、喉の渇きを癒すため、自分の小便を飲んだ

    沖野大佐 生きる屍の記(東方出版)

    戦後スガムプリズンでも戦犯たちの会話を盗聴していた

  • 昨今のアメリカが絡む戦争において尋問所という存在が表沙汰になっているが、この本を読むまでWW2においてこのような尋問所が有ること事態知らなかった。また秘密尋問所というだけあって様々な手段を行使し尋問を行ったという事と、この施設と行為において結果的に大空襲や原爆投下と終戦に大きく影響したことと、そこへ捕虜となった日本人の当時の教育とそこにおける心境の紆余曲折が理解出来た。にしても複雑だわ。何時の世もこーゆーのって嫌だな。

  • 太平洋戦争に際して米国が行った日本の機密に関する情報収集の徹底ぶりを読むにつけ、よくこんな国と戦争なんて出来たものだと思う。また、本書と対照的ともいえる、非合理、泥縄、精神主義がなお跳梁跋扈する日本の政治・行政の状況を見るにつけ、暗澹たる気分にさせられる。

  • (欲しい!)文庫化→講談社文庫

  • ●:引用 →:感想

    ●<彼を知り己を知れば百戦危からず>とは、孫子の兵法である。敵国を知るためにアメリカという国家が費やした厖大なエネルギーとすさまじい執念。それにひきかえ、日本人はいかに敵を知らないまま、国家存亡の大事を決行していたことか。
    ●戦争中の日本軍の諜報文書といえば、情報の質の点からも概して粗末なものであった。極めて大切な問題についても調査が不十分で、連合国の重要な秘密情報はほとんど報告されていない。情報の信憑性の確認という点でも、戦時中を通じて再三にわたり報告書が不正確なことを、アメリカは明らかにしている。日本軍の諜報体制は、情報の不完全な評価とスパイの報告書を過大に評価する傾向があった。そのために連合軍の偽装だけでなく、偽情報を売る民間人にもだまされることがあった。
    ●太平洋戦争中、「作戦」を優先し「情報」を軽視した軍部の組織体質は歴然としていた。さらには、陸軍と海軍、および政府との組織の不統一によって重要情報が共有されることはほとんどなかった。情報軽視の体質は、国民に誤った情報を流しても恬として恥じることがなかった大本営発表の例が象徴的である。その結果、太平洋戦争の全体をとおして情報不足から生まれる「戦略」の失敗を「戦術」で補うのは至難の業となった。
    ●特殊活動課は通常、暗号名「OP-16-Z」でよばれた。→「昭和史を動かしたアメリカ情報機関」参照。
    ●米軍にとってサイパン戦は、神経戦という新しい戦術の実験の場になった。そのため初めて心理作戦部隊を誕生させたのである。(略)サイパン島の占領後、多数の捕虜を尋問したときにこの効果が明らかになった。頑強な精神力を誇ってきたはずの日本人が、心理戦によって心境に変化が起きたことが感じられた。それまでアメリカ人が抱いてきた日本人への固定観念、<日本人は、国家による精神的支配と主義主張への教化が完璧になされている>。それゆえ心理的な影響を受けにくい国民性だとアメリカでは信じられてきた日本人観が、サイパン「玉砕」を機に一挙に瓦解をはじめたのである。
    ●「トレーシー」の捕虜たちから入手した日本本土や朝鮮、満州の爆撃関連の重要情報は「A-airシリーズ」と名称がつけられた。極秘スケッチナンバー809番の「皇居」や841番の「三菱重工業名古屋発動機製作所」の詳細な絵図がその一例である。(中略)皇居の絵図を描いたのは、(中略)近衛兵と推定される。→保阪正康も同様のことを述べている。
    ●戦域で絶対的に不足している日本語要員を今後どう確保していくか、さらに敵軍の攻撃から彼らの安全をどう守ってゆくか、日本語要員の保護の問題である。→「栄光なき凱旋」参照
    ●第六章「ブロッサム」第一節サイパン・ブラックラジオ→「昭和史を動かしたアメリカ情報機関」参照。

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著者プロフィール

ノンフィクション作家。
1941年熊本県生まれ。66年九州大学卒業後、NHK入局。おもに現代史を中心にドキュメンタリー番組を手がける。『戒厳指令「交信ヲ傍受セヨ」二・二六事件秘録』で、日本新聞協会賞・文化庁芸術祭優秀賞などを受賞。大正大学教授を経て、執筆に専念。『満州国皇帝の秘録―ラストエンペラーと「厳秘会見録」の謎』で、毎日出版文化賞・吉田茂賞を、『トレイシー―日本兵捕虜秘密尋問所』で、講談社ノンフィクション賞を受賞。他の著書『盗聴二・二六事件』『最後の戦犯死刑囚』などがある

「2013年 『四月七日の桜 戦艦「大和」と伊藤整一の最期』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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