黄金の夢の歌 (100周年書き下ろし)

著者 :
  • 講談社
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本棚登録 : 59
感想 : 9
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  • Amazon.co.jp ・本 (434ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062166485

作品紹介・あらすじ

不思議な男の子の声に導かれ、中央アジアの草原をさまよう「あなた」。歴史の奥に秘められた、人間を励ます叙事詩の意味を探る最新長篇。

感想・レビュー・書評

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  • 素晴らしい。本文にも触れられているチャトウィンの『ソングライン』を髣髴とさせ、津島佑子オリジナルのソングラインが凌駕しているといっても過言ではない。キルギスから中国東北地方に伝わる口承文芸「夢の歌」は遥かマケドニア王アレクサンドロスまで鳴り響き、私達日本人の心のルーツにまで辿り着く。複雑な中央アジアの歴史を深く知らなくとも、著者の旅の道のりに相伴し、そっと耳を澄ませば「夢の歌」の中に長い時代の流れゆく民族の時の声が聞こえてくるだろう。この広がり繋がりゆく調べに身を委ねる至福、感慨無量の読後感に浸っている。

  • キルギスの英雄抒情詩「マナスの歌」に歌われるマナスは、元気で暴れん坊の男の子。アイヌの英雄ポイヤウンベにも似ている。津島さんはそう思いながら、マナスの歌を求めてキルギスを旅する。それは津島さんの失った男の子であり、永遠に生き続ける新しい男の子でもある。

    「だから、「夢の歌」をあなたは追いかけないわけにはいかない。忘れることだってできない。「夢の歌」の男の子たちこそが生き続け、あなたは一瞬一瞬死んでいく。」

    現実のキルギス、中央アジアを旅するドキュメントに、夢の歌の中で生き続ける子供たちを重ねながら、旅はすすむ。
    「私」そして「あなた」はその場に招かれるように旅をする。そこで出会う人たちが背負う歴史、暮らし、佇まいを肌で感じながら。

    北方民族の昔話に惹かれて読み始めたけれど、ドキュメンタリの部分がほとんどだった。文字を持たない彼らとアイヌの人々の繋がりも、現代の暮らしの中から見つけ出すことは津島さんでも難しかったようだ。ロシア語を話す人も多い。

    旅の終わりはイシククル湖だ。
    「私」は水の中に体を委ねようとする。するとたくさんの子供たちの声を聞く。彼らは「あなた」を待っている。待っていることは、歌うことなのだという。
    津島さんでなくては描けない世界の入口は、見つけにくくて彷徨うかもしれない。しかし、辛抱強く探して一度鍵を手にすれば、何度でも味わいたくなる。

  • 津島佑子さんの旅行記風小説。虚構というよりも旅行記テイストの方が目立つのかもしれない。しかし「私」目線で進む章があれば、どこかから「あなた」と呼びかけられるスタイルの章もあり、その多様さが、かちっとした文章になることを退けていて、やはり一つの文芸になっていると思う。

    前に『ナラ・レポート』を読んだ時に、霧が立ち込める静かな谷であちらこちらから音が響くような美しさを感じて、それ以来津島さんが作り出す世界に注目しているのだけれど、そのどこから来るかわからないような声があちらこちらから響くような雰囲気はこの『黄金の夢の歌』にも漂っているようだ。

    キルギスや中国の東北部が舞台になっている。「中央アジア」と呼んでもよいそれらの地域の歴史上の英雄や史実を、旅先で出会う人達と共にたどりながら、現在の政治情勢などにも触れていく。一方で、学生の頃に世界史で学んだような人名や国名も頻出して、歴史の教科書のような様相を呈する。冒頓単于とか果てにはアレクサンドロス大王まで出てきて、歴史好きな私からしたら楽しめた。特に東アジア史けっこう好きなので。

    津島さんはアイヌの口承文芸などの研究もしていることをこの本を読んで知った。『黄金の夢の歌』は、史書などには記されなかった、時代に埋もれていった声に耳を澄ませる意図があると思う。「歴史」として記録されなかった思いをすくい取る試みをとても好ましく終始読んだ本だった。

    馬が駆けるリズムに似ているマナスの歌の調子 「トット、トット、タン、ト」という響きが本のあちらこちらでこだまする。自身、中央アジアはいつか行ってみたい憧れの場所。もし行くことがかなえば、その響きを感じることができるだろうか。

  • トット、トット、タン、ト

    キルギスの遊牧民族に伝わる口承「夢の歌」のリズムに導かれるように津島佑子さんが旅する中央アジア。

    様々な人種が行き交い、争い、治めたその場所には様々な文化や宗教の足跡が残り、そしてそれは「夢の歌」の世界にも影響し、つながっていく。

    今持って国境や現代政治に翻弄されながらも、美しい草原で誇り高く日々を暮らす人々がここにもいます。

    嗚呼遥かなるやシルクロード。

  • かつてこの本に描かれている国に関わっていた身として、ひどく懐かしさにとらわれた。

  • ☆2.9
    馴染みのない固有名詞(キルギス・ボズウィ・カシズ・マナス・サンジェラ等)に慣れなくて、内容がなかなか頭の中に入っていかないというか...。
    叙事詩が中心で、その意味を探るため中央アジアの草原をさまよう「あなた」の物語。

  • 素材自体は面白いんだけど・・・。
    ずっと読み続けるのはツラかった。

  • 司馬遼の『草原の記』を思い出させる作品だった。一見紀行文なのだが、人称が「わたし」であったり「あなた」であったりと視点がコロコロ変わり混乱する。大国中国やロシアに翻弄され、近代化の波にさらされるかの地(キルギスや内蒙古)に今にも消えてなくなりそうな口承文化のかけらを追うのだが、スケールの大きさにこちらの小さな頭がついていかなくなってしまった。机の前にちゃんと座り、メモなどとりながらじっくり読んだら味わい深い作品なんだろうなあと思いつつ、チャラ読みですいません。

  • 何とも眠たくなる物語?小説といえるかどうか微妙。時空を超えて、マナスの「夢の歌」のルーツを探す、紀行文のような文化人類学のような日記のような、、、とにかく退屈な時間を過ごした。
    せめて写真があれば分かりやすかったと思う。

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著者プロフィール

津島 佑子(つしま・ゆうこ) 1947年、東京都生まれ。白百合女子大学卒業。78年「寵児」で第17回女流文学賞、83年「黙市」で第10回川端康成文学賞、87年『夜の光に追われて』で第38回読売文学賞、98年『火の山―山猿記』で第34回谷崎潤一郎賞、第51回野間文芸賞、2005年『ナラ・レポート』で第55回芸術選奨文部科学大臣賞、第15回紫式部文学賞、12年『黄金の夢の歌』で第53回毎日芸術賞を受賞。2016年2月18日、逝去。

「2018年 『笑いオオカミ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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