- Amazon.co.jp ・本 (210ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062179829
作品紹介・あらすじ
二度と還らない友情のきらめき、そして痛み。純粋さゆえに傷つけあう少女の日々を描く、珠玉の物語。
感想・レビュー・書評
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これは、良かった!
表題作「七緒のために」と短編の「水の花火」もどちらも良かったです。
エンタメ小説ではなく、純文学寄りの作品ですが、私的にはとても好みの作品でした。
「七緒のために」は、最初は島本版「TUGUMI」かと思いました。
ですが、痛々しくて、でも繊細で、他者と馴染めない思春期の少女の複雑な心情が描かれていて、今までこんなの読んだことないし、もし自分が作家でも絶対にこんなの書けない、というくらいすごい作品でした。
もっとも、小説に共感を求める読者には、好まれない作品だと思います。
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作者のあとがきより。
求めるばかりで、自分の傷には敏感なのに、
他者のことは無自覚に傷つけ、いつもなにかに飢えていた。私にとって、十四歳というのは、そういう年齢でした。 -
中学生の時期は危うくて難しい。
親からの愛を与えられなかった七緒は、誰かに必要とされたかったのだろう。
先日の成人式で中学校の同級生たちに会った。
卒業して以来初めて会う人がほとんどで懐かしかった。
しかし私の思う同窓会ではなかった。
どこの大学に行ったとか、今なにしてるなんて話はひとつもしなかった。
ほぼ毎日のように同じ教室であんなに一緒に練習していた吹奏楽部の友だちさえ、久しぶり〜と言って写真を撮るだけ。
あ、こんなものなのかと寂しくなった。
多くの時間と思い出を共有したはずなのに。
女子のヒエラルキーが怖かった。
かわいくて活発な女の子が人気者になり、その周りに多くの人が集まる。
そんな子たちに対してどこか羨ましい、その中に入りたいという気持ちがあった。
しかし、私は大人しくて真面目だと自分で思い、そんな子たちを避けていた。
なんて思われているのだろうとびくびくしていた。
今でも根っこにはこんな考えが残ってしまって、相手に壁を作りがちになっているのだなぁと思う20歳の春。
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七緒のために
七緒と雪子の深い友情のような、そうでないような…話。
水の花火
仲の良い友達が好きだった男の子を、自分を通して見る。
村田沙耶香さんが「わたしが食べた本」で紹介していたので、
読んでみましたー!!
「七緒のために」は、中学2年。
「水の花火」は、高校3年。
それぞれ、大人になろうとしてるけど、なりきれてない、
そんなその時期特有の考えが纏わりついていたよー。
「七緒のために」では、雪子が嘘をついているであろう
七緒に対して、信用したいと思いつつ、
どこまで彼女のことを信用していいのか、思い悩む感じが、
絶妙に表現されてるなぁーって感じたよ!!
でも、でも、すっごくどうでもいいことかもしれないけど、
内科検診を冬の寒い時期にやるってどういうこと?
スキー教室の前の臨時健康診断ってこと?
だとしたら、めちゃめちゃ丁寧に検診させてる学校って
ことだなぁーって思ったよ。
職業上、このシーンだけが引っ掛かってしまいました…。 -
表題の「七緒のために」
女子中学生の揺れ動く心理描写が切ないです。
多感な時期の虚言癖や妄想、現実逃避は誰にでも思いつく部分はあるんじゃないでしょうか。
大の大人でも承認欲求のために嘘をついたりしますが、少なからず幼少期の家庭の問題が関係してるのかなと思わされました。 -
水風船のように張り詰めているのに脆い胸の、おっかなさ。やわらかな肌の下におびただしい内蔵を抱いていることなど忘れてしまったかのように装い、なにかの代償のように触れ合う。
(P.13)
それなら嘘の世界で生きることが喜びなんじゃなくて、本当のことはなにひとつ言えないから嘘の中で生き続けるしかないというのだろうか。
(P.125) -
島本さんの筆から紡がれる情景は、色・音・匂い・湿り気、もちろん季節の移ろいも含めて、直ぐ傍らで私が居るような感覚。それも人の心の描写を際立たせる筆致で、浮き立つ寂しさが私はたまらなく好き。誰か大切な大人が傍に居なかったという根底的な欠落感を私自身も重ねているのだと思う。
男女、或いは親子関係の島本さん作品を読んできたが、今回は女子同士。嗚呼、私苦手なんだ、こういう雰囲気。分からない、或いは掴めない人間性や関係性に大きな不安を感じるので、私はこういうタイプの人たちから勝手に逃避してきたなあと、感じた作品2作。
自分を丸ごと理解してほしいと、相手に求めるが故、相手との相違や優劣を認めたくない。同質の人間関係性のみを至上の充足と必死に勘違いする感覚は特に若い頃の女子にありがち。だから、私は1人でいる方が楽ちんで選んできたのかもしれない。
とは、いうものの正直になると、私の分かって欲しいという気持ち、まだあるけどね。めんどくさいなあ、ということで島本さん作品にしては星3つです。 -
虚言癖の七緒やカウンセラーとの中二美術部員の表題作とクラスの男子と姉とその元家庭教師の夫と姪と行く水族館等の高校生の「水の花火」。繊細で文学的な魅力がありそうなのに読解力がなくて上手く受け取れない。前者の少女達の陰りある秘密めいた雰囲気と後者の明るい雨のような瑞々しさが静かに寄り添うようで心地好い。
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境界性人格障害なんて言葉で語るのは大げさで、興醒めだけど…そういう少女達の物語。
多島斗志之『症例A』、サラ ウォーターズの『半身』を思い出した。
彼女のような女の子は同じ空洞を抱えた女の子を見逃さない。だって、求めていた理想のオーディエンスだから。そして次第に狂気は感染していく。互いに同じ周波数で共振し、嘘をついついるのはどちらか、狂っているのはどちらなのか、わからなくなってくる。どちらにしても、一人称の小説のなかの「嘘」は注意してかからないと。 -
表題作は完全に愛着障害の物語。
終わり方がとてもリアル。どうしたらいいかなんて真っ最中には難しい。
『水の花火』はタイトルすごいなあ。
島本の作品、親の居るんだけど居ない感じは変わらない。いまの世の中、いっぱい居るんだろうな~そういう子。島本もわたしも含めて。