歴史的名著.まずは読もう.原著を読み込み見事な和訳を仕上げた翻訳者の解説からでも良いので目を通そう.
読み込み読み込み.各章ごとに素晴らしい知見を知ることができる.以下は自分用の要約なのでほぼほぼネタバレ
第1章:マタイ効果「富む者はさらに富み,貧しき者はさらに貧しく」
「選別」「能力別クラス編成」「特別な体験」のフィードバックによる持つ者・持たざる者,成功者・非成功者に誘導される社会システム.カナダのアイスホッケー選抜,一般的な教育(小学校・中学校のクラス分け)を例にしている.なおデンマークのみが国策で10歳になるまで能力別のクラス分けを禁じているとのこと.クラス分けでマタイ効果を生み出さないためには年別で学年を決め月別でクラスを分けてはどうかと提案している.
第2章:1万時間の法則「世界レベルの技巧を極めるために必要なすべてのことを脳が取り組むには少なくとも1万時間かかるようだ」
「学ぶ才能」は必要だろう,「学ぶ意欲」も必要だろう,だが専門家になるには何よりも「学ぶ好機」が与えられないといけない.1万時間に満たないプロはおらず1万時間を超えるアマチュアもいない.音楽家・起業家・コンピューター・エンジニア,何の時代・異なる業種でも,ある特定の好機に古いパラダイム・慣習に縛られずかつ若すぎない(その好機を最大限に生かせる成熟度合い)の人が世界的レベルのOutliersになれるのだ.
第3章:天才の問題点その1「知性には基準点がある.基準点を超えていればそれ以上の知性は必ずしも成功に結びつくものでは無い」
IQ130と180の科学者がノーベル賞を受賞する可能性は同じくらい.IQはバスケに例えると身長のようなもの.活躍するにはある程度の身長(180-182cm)は必要だ,しかしそれ以上は身長は大きな問題ではなくなる.背の高さが十分であればスピード・コートセンス・敏捷性・ボール捌き・シュートのうまさといった別の能力が重要となる.では「知能」における「別の能力」とはなんだろうか?一つにDivergence testと呼ばれるテストがある.レンガと毛布の使い道を思いつく限りかけ,のように一つの正解はなく数とユニークさをみる創造性を図る,といった類のテストだ.一つの答えを求めるConvergence testと同じくらい難しいが,図るべき能力は全く別物である.
第4章:天才の問題点その2「百万人に一人の頭脳を持てども,たった一人で成功した者はいない」
学ぶ才能がある学ぶ意欲もある.だが学ぶ好機を「手繰り寄せる」「引きつける」「勝ち取る」など機知ともいえる能力が現代の社会的成功を得るには必要なようだ.これはR. Sternbergが提唱する「実践的知能」に属する能力で,それが身につくと考えられる場所は「家庭」.親業の哲学は「裕福な家庭」と「貧しい家庭」の2種に集約され,「共同」か「自然」のどちらかの環境で「育成」されたかが重要となる.多様的な環境で「肯定的な意味での権利意識」を身につけ,自身の最大の目的のために周囲の状況を自分の欲求に応じて「カスタマイズ」出来るか否かだ.成功者とそこに至れなかった二人の天才,原爆の父「ロバート・オッペンハイマー」と孤独な思索者「クリス・ランガン」の人生の対比は非常に痛ましい.二人とも天才的頭脳をもつ神童としての幼少期を経て,大学で自身の経歴が危機に瀕した.二人の人生の明暗を分けたものは,その危機を捌く為の実践的知能を幼少期に獲得出来ていたか否か.実践的知能を育成する環境を「与えられた」か「与えられなかった」か.ただただそれだけなのだ.
第5章:ジョー・フロムの3つの教訓「文化・世代・家系」
「長年あるスキルを磨き上げていたところ,突然とてつもなく重要になった」「大恐慌やWW2に絡む人口の谷間世代に生まれ,医療・教育・就職などで格別の利益を得られた」「家庭環境においてクリエイティブな仕事の教訓と成功を体験できた」.文化と世代と家系それにたっぷりの独創性と積極性が加わり成功へと至った.
第2部:文化という名の「遺産」
第1部では何時何処で生まれたか,両親の仕事,生育環境により蓄積される優位点から成功は生まれると述べている.第2部では受け継がれた伝統や態度が優位点と同じ役割を果たすのかについて探る.
第6章:ケンタッキー州ハーラン「名誉の文化」
世界で最も厳しく醸成された家畜を飼う土地の文化.人間の面子というものが暮らしや自尊心の中心を占めている世界.その文化に属する人間の態度・気質はその土地の方言のように「社会」によって引き継がれると考えられる.