日本の農業を破壊したのは誰か 「農業立国」に舵を切れ

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (258ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062185851

作品紹介・あらすじ

「原子力村」と同様に「農業村」も存在する。特定の利益が国の政策を歪めてきた点で、農業は電力の比ではない。「農業村」の主張が、「農業」の利益でない場合があまりに多いのだ。
農業就業者や農家戸数が大幅に減少するのに、なぜか増え続ける農協の組合員数。また、「日本の農業は競争力のない弱者」といった、農業村によって“作られた”常識・・・・・・。
JA農協を筆頭に、農林水産省、それに連なる農業経済学者などの農業専門家による妄説は、歪んだ農政を正当化し、“食料自給率の向上”など国民生活に欠かせない食料についての不安をあおり、TPP反対の論拠とされてきた。巧妙なプロパガンダによって、農業の発展は妨害され、国民への食料の安定供給の基盤も損なわれている。
しかし、これまで農業の発展を阻害してきた農業村と農政ををあらためれば、日本の農業はくびきから放たれ、発展していく。そのときこそ、真の農業立国の道が開かれるのだ。

感想・レビュー・書評

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  • 日本の農業を破壊したのは誰か? それは、農政とJAと兼業農家。とりわけ「農業問題はすなわち農協問題だ」というほど、JAには手厳しい。じゃあどうすればいいか? 農産物関税を撤廃し、農家に対する直接支払い(財政補填)を導入することと、高米価・減反政策や農地法などを廃止し、農業人口を減らし、農家の規模を大きくすること。この高米価・減反政策は、零細な兼業農家をコメ作に滞留させて、農地が主業農家に貸し出されることを妨げてきた。しかも、兼業農家が滞留したため、兼業収入も農地の転売収入もJAの口座に預金され、JAを脱農化させさらに発展させた。

    JAにとってはコメの兼業農家は重要で、JAバンクに預金してくれる兼業収入や年金収入はJA農協の存立基盤を支えている。ドル箱事業であるJAバンクやJA共済のために、兼業収入に依存する農業としては、主業農家は減っても、兼業農家は維持したい。農業所得より兼業収入の方がはるかに大きいからである。週末しか農業をしない兼業農家にとっても、資材の供給から農産物販売まで何でも面倒をみてくれるJAは便利な存在だった。JAと兼業農家はともに脱農化によって発展した。

    農業生産額に占めるコメの割合は、2割にすぎないし、コメの兼業農家の存在は、農業全体にとってはなんら重要ではない。農業にとっては、コメの兼業農家など無視しても構わない。むしろいなくなってくれた方が、主業農家の規模が拡大して、コメ農業は発展する。著者はさらに、小さい農家はコメ作をやめ、農地を主業農家に貸し出せと言う。農地を提供した兼業農家は、ビルの店子のように維持管理をすればいいとするが、全農家の八割を占める人たちの次の雇用は果たして大丈夫なのか?

    著者は、食料自給率向上を唱えながら、高米価・低麦価政策のような自給率を下げてもよい政策をとってきた日本を批判するため、減反政策を導入せず、作りたいだけ農家に作らせるEUとを比較しているが、その余剰分がアフリカなどの発展途上国に輸出され現地の農業をズタズタにしてることは紹介していない。また、食料安全保障を深刻に考える必要はなく、主要な穀物輸出国にとって輸出制限や禁輸など愚かしいことはしないはずだし、食料品価格高騰も日本のように所得の高い国では問題ないとするが、見通しが甘くないか?

    さらに著者の、農業に多面的機能があるのはわかるが、コストに見合わなければ保護する必要はないし、第一に海外産の方が安ければ、日本で生産することにこだわる必要がないという主張も違和感を覚える。「生産性向上に努力しない農業は保護に値しない」という経済界から目線だけで十分なのだろうか?

  • 都市の周縁部では、相当程度豊かな農家と、給与がある程度高い勤め人の家が混在している場合が多い。

    給与がある程度高い勤め人の多くは、生涯で最も高い買い物である土地を買い求め、周縁部で暮らす。
    その買い求めた土地はもともと誰のものだったのかといえば、多くは地元農家のもの。
    そして、地元農家の多くは、その土地を農地解放で、濡れ手に粟で、手に入れた。

    こんな不公平があっていいものだろうかと思う。
    孫正義なら「正義感がむくむくと胸の中で湧き上がる」と表現するのかもしれないが、多分、私の場合は嫉妬心が原因。

    日本の農業に興味を持つ理由はそんな下卑たものではあるが、この本を手に取った。

    JAに関する相当強烈な批判がなされている。JA側の反論があるのなら、それも読んでみたいと思う。

    あとがきに著者が書いていたが、データも充実しており説得力のある内容となっている。

  • ふむ

  • 農協・政治家・農林水産省と結託して鉄のトライアングルを形成してきたというよくある論。
    電力自由化のときは、電事連が総力戦で革新官僚を叩きつぶしたが、今回は農林水産省のその芽すら出なかったのがなんとも残念。

  • どの時代も、そして現代も、既得権益を持つ団体(や社会)を相手に立ち向かうのは本当に大変なことだと思う。筆者は文字通り筆という武器で農協と(当時の)自民党政権に孤高に挑み、そしてつい最近になってこの問題が大きく取り上げられるに至ったのは、一重に山下さんの功績と言って過言でないと思う。山下さんの調査力、筆力、正義感に感服する。

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著者プロフィール

キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。
1977 年東京大学法学部卒業。ミシガン大学行政学修士、同大学応用経済学修士。博士(農学)。農林水産省ガット室長、地域振興課長、農村振興局次長などを経て、2008年より独立行政法人経済産業研究所上席研究員、2010年よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹。
主な著書に、『国民と消費者重視の農政改革 ―― WTO・FTA時代を生き抜く農業戦略』(東洋経済新報社、2004年)、『食の安全と貿易 ―― WTO・SPS協定の法と経済分析』(編著、日本評論社、2008年)、『環境と貿易 ―― WTOと多国間環境協定の法と経済学』(日本評論社、2011年)、『日本農業は世界に勝てる』(日本経済新聞出版社、2015年)など。

「2016年 『経済政策論 日本と世界が直面する諸課題』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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