「奇跡」は準備されている

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  • Amazon.co.jp ・本 (226ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062186803

作品紹介・あらすじ

スポーツ界は、今や「コーチ」の時代。優れた選手には、必ずと言っていいほど優れたコーチが付いています。たとえば、水泳の北島康介選手には平井伯昌コーチ、陸上の末續慎吾選手には高野進コーチ、フィギュアスケートの浅田真央選手には佐藤信夫コーチ、レスリングの吉田沙保里選手には栄和人コーチ……。彼らは、かつてのコーチのような黒子的存在ではありません。単に選手の才能に磨きをかけるだけでなく、オリンピックでのメダル獲得といった目標に向けて周到なプランを練り上げるなど、プロデューサー的な役割も果たしています。
フェンシングの太田雄貴選手を育てたオレグ・マツェイチュクも、その一人。2003年に来日して代表チームのコーチに就任するや、フェンシング弱小国だった日本を、北京オリンピック(2008年)で太田選手の銀メダル、ロンドンオリンピック(2012年)で男子団体の銀メダルへと導き、一躍注目を浴びました。彼が特異なのは、外国人であること。そして就任時は31歳とまだ若く、コーチとしての実績がほとんどなかったことです。そんな彼が、言葉もわからず、国民性も生活習慣も全く異なる国で、なぜ、短期間のうちに選手との信頼関係を築き上げ、能力を引き出し、古い体質が色濃く残る協会を動かして輝かしい成果をあげることができたのか?
本書は、その答えをオレグ・コーチ自身が語るものです。選手として経験したソ連崩壊という歴史的事件、異国で、コーチとしての力量を疑われながら(実際、当初は太田選手に指導を拒否された)送る苦闘の日々、いかにして国際大会で実力を発揮させるか、メダル獲得への周到な戦略……。彼は言っています。「コーチは、まず人間関係からつくっていくことが重要であって、善人ではなく、公正な人であるべきだと思う」「コーチというのは満足できない人間であり、満足してはいけない人間である」。
「コーチング」とは、簡単に言えば「人の能力を最大限に引き出す」こと。それが求められているのはスポーツ界に限りません。研究やビジネスなど、あらゆる分野で必要とされています。そして、その実践者たるコーチ(リーダー、指導者)が国籍を問わないこともまた昨今の傾向です。私たちは、本書で述べられるグローバルな視点での「コーチング」を通して、日本人の新たな特性を知り、また国際社会を生き抜く知恵を学び取ることができるはずです

感想・レビュー・書評

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  • ウクライナ出身のオレグ。クロサワ映画に宮本武蔵と、ロシア圏から見た日本のイメージを追究し、日本選手たちに改めてそのエキスを見出し生かしていたのだから、能に映画の新時代を予感し、日本向けにも論文を出した100年近く前のエイゼンシュテインの行動とリンクするものがある…。人口の少ない国はコーチが育つと聞きますが、ウクライナもそういう土地なのかもしれません。個人の資質を尊重して伸ばしていく。代表に選出されなかった選手のケアを忘れない。言葉の選び方にもキレがあって、新書では出色の面白さだと思います。

  • フェンシング日本代表コーチである著者による、オリンピック銀メダル獲得までの道のりを描いた奮闘記。

    資金も設備も環境も実力も世間の知名度もない日本のフェンシング界を託されたウクライナ人の若者。しかし彼自身も選手としての実績も少なく、指導者としては無名。言葉も通じず当然選手からの信頼もモチベーションも無い。ないない尽くしの状況でそれでも彼の持つ熱意と真摯さが少しずつ選手たちの力を目覚めさせ始める…。

    そして彼らが成し遂げた「奇跡」が、どういう過程で準備されていったか。そこには我々の想像以上の苦難の日々があったに違いないが、読んでいてそうした重さや悲壮感を全く感じさせない爽やかな読後感がある。
    日本人好みの暑苦しい人間ドラマ性が薄く物足りない印象を感じるかもしれないが、個人対個人として尊重すべき領域を保ちつつ胸襟を開いて全力で人に接する。その語り口もとても明解だ。
    フェンシングを良く知らなくても、十分読んで楽しめること請け合いの一冊。

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著者プロフィール

1972年、ウクライナのキエフ生まれ。ウクライナ体育大学出身。10歳のときにフェンシングを始め、ソ連のジュニア・ナショナルチーム、ナショナルチームを経て、ソ連軍のスポーツクラブ「CSKA(チェスカ)モスクワ」に所属。ソ連崩壊後、ウクライナ代表となる。2001年に現役引退してコーチに転じ、03年に来日。日本ナショナルチーム男女フルーレの統括コーチに就任し、05年ユニバーシアードの男子団体優勝、07年世界選手権の女子団体銅メダル、08年北京オリンピックの太田雄貴選手銀メダルなど、輝かしい成果を収めた。その後、男子フルーレの指導に専念。09年ベネチアW杯グランプリ、11年パリW杯グランプリでともに団体優勝、12年ロンドンオリンピックで団体銀メダルと、強豪国としての地位を固めるに至り、その手腕は国際的にも注目されている。

「2014年 『「奇跡」は準備されている』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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