- Amazon.co.jp ・本 (402ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062203524
作品紹介・あらすじ
第2回城山三郎賞受賞作家にして最高裁中枢を知る元エリート裁判官が描く、本格的権力小説!
司法権力の中枢であり、日本の奥の院ともいわれる最高裁判所は、お堀端に、その要塞のような威容を誇っている。最高裁の司法行政部門である事務総局の一局、民事局で局付判事補を務めることになった笹原駿は、事務総局が、人事権を含むその絶大な権力を背景に、日本の裁判官たちをほしいままにコントロールしていることを知る。
最高裁に君臨する歴代最高の権力者にして超エリートである須田謙造最高裁長官は、意に沿わない裁判官を次々に左遷し、最高裁判決の方向さえ思うがままにあやつる。須田とその配下の思惑に翻弄される女性最高裁判事、怪物地家裁所長など自己承認と出世のラットレースの中で人生を翻弄されていく多数の司法エリートたち。彼らは、国民の権利と自由を守るべき「法の番人」としての誇りを失い、「法の支配」とは無縁の上命下服の思想統制に屈服していく。
しかし、須田を頂点とする民事系裁判官支配を覆そうともくろむ刑事系エリート裁判官たちは政権中枢に働きかけ、原発訴訟で電力会社に有利な判決を出すよう須田に圧力をかけさせる。須田は、この危機を乗り切るために、みずから積極的に動く。
絶対的な権力者である須田の変幻自在、縦横無尽の活動に、民事局、行政局の局課長と局付たちは右往左往し、原発訴訟の方向性を決める裁判官協議会の実務を取り仕切る主人公笹原も、否応なく巻き込まれていく。そのころ、笹原の親友であり福島地裁で原発訴訟に打ち込む如月光一判事補は、初の原発稼働差止め判決を出す準備を進めていた。原発訴訟に対する須田の強い意向を知る笹原は、如月に警告するが、如月は耳を貸そうとしない。
全国裁判官の原発訴訟協議会に向けて、電力会社に有利な判決をゴリ押しする上司たちと原発の安全性に疑問を持つ笹原ら民事局若手局付たちの対立も、先鋭化していく。笹原たちは、須田や上司たちの圧力と戦うことができるのだろうか?
如月は、みずからの信念に従った判決を下すことができるのだろうか? 全国紙の司法担当デスクや女性遊軍記者、如月の妹であり両親を逃れて主人公笹原宅に同居する謎の多い美少女如月アイら個性豊かな人物が錯綜しながら、物語は、クライマックスに向かってなだれ込んでいく。
感想・レビュー・書評
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全体に面白かった。
アイとの会話は村上春樹を思わせる。文体が裁判官っぽいが、プロットの良さで読ませている。
エピローグは絶対に要らない。食後にとてもまずいデザートを食べた気分だ。
あとは、非業界人にどこまで受けるのか?ってところが判断しかねる。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
日経夕刊で、オッさんがピンクフロイドのレコードを後生大事に抱えているタイアップ広告があるが、あれを煎じつめたみたいな80年代小説。
試験勉強ばっちりの秀才たちによって構成される最高裁の中の陰湿な人間関係描写は元インサイダーならでは。妬みややっかみを仕事のドライバーにしている人間の行動パターンを知ることができるのは有益。中盤の原発訴訟をテーマとした話の展開も興味深い。
エピローグはセンチメンタル過ぎてウザい。 -
最高裁判所、特にその事務総局内での魑魅魍魎とした権力争い、出世競争等、人間の暗部を描いたフィクション。
著者は、事務総局を「ソ連の強制収容所のような」とまで、弾劾する。
経験から紡ぎだされた小説かもしれないが、著者自身のバイアスがかかっているだろうし、実際の現場が小説のままだとは思いたくないが・・・
これでもかとばかりに、元の職場を指弾する筆致に、けっして読後感が良いとは言えない。あくまで小説と割り切って読むべきか。
裁判官を主人公とした、黒木亮著『法服の王国 小説裁判官』がある。法曹関係に興味のある人は、同ジャンルの小説として併読してみるのもいいかも。 -
前半の組織のヒエラルキーについての描写は長すぎる。
原発訴訟の裁判官協議会に対する最高裁事務総局内の主人公らと体制維持派の議論の描写はスピード感があるが、結局ガス抜きのアリバイに利用される結論は見え見えで尻すぼみだった。
また人事権を利用したリベラル派のせん滅はリアル感があった。
ただ本作がフィクションとしてパラレルワールドとして主人公が退避する展開はスムーズ感がなく唐突感強い。
黒木亮の法服の王国に似ている展開で、味付けは村上春樹?という印象。
主人公の親友が左遷されて自殺する件はちょっとナイーブすぎるかな。 -
最高裁歴代最高の権力者、須田謙造最高裁長官。
権力のためなら手段を選ばない彼は、原発訴訟で電力会社に有利な判決を出すように、裁判官を操ります。
須田の強引な人事統制には誰一人さからえません。
しかし民事局付の笹原駿は、須田と対峙する道を選ぶことになります。
最高裁で起こる、どこまでがリアルなのか分かりませんが、ありそうなことだとも思いました。 -
最高裁判所の権力闘争や人事などのごたごた。
小説としては、展開の面白さ(先が見えそうで見えず、見えたら予想に反するといった)に欠ける上、文体が固く読みにくい。さすが、元弁護士とでもいうべきか。。。 -
消化不良感が残る作品だった。著者の履歴からフィクションと雖も、裁判所の事務機構や業態がリアル感をもって把握できる。登場人物像の設定も創出だろうが、こうした組織ではあり得そうな人々で、最高裁の事務総局という特殊な環境のもとで展開される物語の中に引き込まれていき、前半から中盤にかけ不条理感が募り、後半への結末に期待が高まるが、駆け足のように過ぎ現実離れした描写が入り、力が入った分肩透かしを食う。
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最高裁の中の官僚機構の仕組みが分かり面白い。小説として面白おかしく誇大表現しているのだと信じたいが、かなり実態に近い部分もあるのではとも思わせる。
行政官僚もそうだが、司法官僚についても中立的機関の人事評価システムが必要だと感じる。いかにして中立性を保つのかが難しいだろうけれども。
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さすが元裁判官。全く文章が面白くない。小説としてよく刊行できたなあというレベル。ではなぜ評価3かというと、最後の主人公と最高裁長官との対話がかなり面白かったから。それだけです。そこだけ読めば後は流し読みで十分です。
事実は小説より奇なり、ちゃんとした裁判ものや検察特捜もののノンフィクションを読みましょう。 -
現実がこうではないことを切に願う。