カウンセリングを語る(上) (講談社+α文庫)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (360ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062563871

感想・レビュー・書評

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  • 本書は、四天王寺人生相談所が開催していた年一度のカウンセリング研修講座に、著者が講師として招かれ、実施した講演の記録をもとに編集されたものである。その研修の受講者は、学校の先生などの教育者であったり、学校カウンセラーもいたかもしれないし、これからカウンセラーになろうとしていた人かもしれない。

    著者は「別にカウンセラーになろうとする人でなくとも、教育、福祉、医療などの領域で、何らかの意味で対人援助の仕事をしている人々にとって、本書はどこかお役に立つところがある、と思っている」と述べている。

    上下巻あるうちの上巻である。

    章のタイトルを見れば、講演に対する興味が膨らむ。
    第一章 家庭・学校で問題が生じたとき
    第二章 心を聴く
    第三章 カウンセラーという人間
    第四章 「治る」とき
    第五章 限界があることを前提に
    第六章 役に立つ反面の危険性

    本書の内容のすべてと言っても過言ではない内容が、第三章に記されている。読者の期待に対するズバリの回答である。カウンセラーの三つの条件である。

    たった3つの条件を満たすことができれば、特に勉強などしなくても誰でも一流のカウンセラーになれるという。

    ①カウンセラーは、クライエント(カウンセリングを受けにきた人というような意味)に、まったく無条件に積極的に関心を払っていく(無条件な積極的関心、積極的尊重)。

    ②共感するということ(クライエントの悩み、苦しみ、悲しみ、あるいは喜びをともに感じていく)

    ③自己一致(カウンセラーがその時に言っていることと、感じていること・思っていることがぴったり一致していること)

    河合先生は、プロの商売道具のエッセンスをいとも簡単に開示されたが、これは簡単なようで、実は非常に難しく、素人には到底できない、トレーニングをつんでもなかなかクリアできない条件だからである。

    本書の内容のすべてはこの3条件の実施に関する話であって、そのニュアンスをとらえるには、全体の講義を聞く(読む)しかない。ただし、読んだからといって、すぐに実践できるものでもない。だけども、これを知っているか、知らないかで、問題をかかえる人と正しく向き合えるか、全く誤った対応をしてしまうかという大きな差を生じさせてしまう。

    現代社会はとくに、自分の周りを見回しても、このようなコミュニケーションを求められる場面が非常に多いように感じる。カウンセリングとまでいかなくとも、人の話をきちんと聞かねばならない場面は多い。

    その時に、この意識をもって接するのと、そうでないのとでは人間関係に全く正反対の結果をもたらすように思える。話の聞き手として、コミュニケータとして、誤った対応をしないために、この知識は非常に有効であると思う。

    もちろん深刻な内容での本来のカウンセリングを要する場面では、プロのカウンセラーによるカウンセリングで対応せねばならない。本書の中でも、著者が「カウンセリングは命がけである」という趣旨のことを述べているように、中途半端なカウンセリングは危険である。

    そして、もう一つ重要な事実が本書で明かされている。
    それは、カウンセラーがクライエントを治療するのではないということである。カウンセリングにより、クライエントが自らの力で治癒していくのだそうである。つまりクライエントの自己治癒力をアシストするのが、上記の三条件の遂行ということだ。

    身近にメンタルの病と闘っている人がいるならば、少なくとも三条件を誤らないことが、本人の自己治癒を阻害しないためにも重要だなと感じた。

    この三条件の裏返しは、①無関心、②共感できていない、共感しようとしない ③自己一致していない(言ってること、やってることと、心で思ってることが一致していない)だ。・・・確かに、これはよくなさそうだ。

    河合先生の本は、いろいろと考えさせてくださる。下巻のほうも楽しみである。

  • 学校の先生向け?の講演をまとめたもの。
    カウンセリングとは、どういう姿勢でのぞむものなのかが、非常に分かりやすく、時に面白く語られている。

    これを読むと、カウンセリングなんてただ聴くだけのものだ、とも一概に言えないし、絶対に効果が出るものだ、とも言えないのだなと思う。
    当たり前だけど、ひと一人と向き合うには、覚悟が必要で、限界もあるんだと。
    まずは、自分の知る世界を増やしていくこと、知識も知恵も広がりを持たせることを大切にしなさいとある。

    自分がコントロール出来るんじゃないか、解決出来るんじゃないか、と自惚れると、相手は来なくなったりする。
    その人との関わりは、そのひと時から次に会う時までずっと生きていて、続いている。
    こうしたことを読んでいると、なんとなく自分の中に落ちるものがあって、ホッとする。

  • 共感ってそんなに難しいことだったのか。
    これを読まなかったら自分は傲慢なままだった。

  • ホント

  • 河合先生祭り中の私はまだ積読があるのに河合先生の本を
    次から次へとゲット・・・
    この本もその中の1冊(㊦もあります・・・)
    結構な厚さの本で、チョビチョビ味わって読んでたら時間がかかってしまった(笑)
    例によって付箋だらけです(笑)全部は紹介できないの抜粋しますねぇ~


    ・これはだめだとか、これはいいことだというふうにきめてしまわない(p47)

    ・カウンセリングの場面で絶対によいということはめったにないのではないでしょうか(p96)

    ・カウンセリングは、極端に言うと手術するのに似ているんじゃないかと思います(p100)

    ・カウンセリングの根本は、結局はクライエントが治っていくということです。
     クライエントがクライエントの力で治っていくのです(p118)

    ・ぼくらはいくらやったって天狗になれないというか、いつも相手に対して謙虚な気持ちを
     持っていないと仕事ができない(p123)

    ・おさまらないものをひとりで持つことによって、私の心は動き続けるんです(p126)

    ・カウンセラーの訓練の一つというのは、何回やっても初心忘るべからずと言うことができるような
     人間になるように、自分を訓練しなければならないというふうにも言えます(p147)

    ・われわれは死にもの狂いになって自分のものにする努力をしなかったら、カウンセラーには
     なれないということです。(p156)

    ・カウンセラーというのは、ひたすら共感する訓練をしているんじゃないか、とさえ私は思います(p158)

    ・カウンセリングをやると言ってる自分は、どの程度、ほんとにカウンセリングのできる人間なんだろうか
     あるいは、カウンセラーであるための努力、あるいは、あろうとするための努力ということを、どの程度
     しているんだろうという反省ですね、これが非常に大切だと思います(p204)

    ・自分をどれだけの豊かな器として持てるかという反省ですね、これが非常に大切になってくると思うんです(p206)

    ・カウンセラーになろうと思う限りは、非常に貪欲に勉強して欲しい(p221)

    ・共感する主体としての自分をうんと広くするように、うんと豊かにするように、あらゆる機会をつかまえて
     われわれはがんばっていかねばならない(p222)

    ・何もせず、ひたすら時を待つ商売だと私は思っています(p289)

    ・その問題児と言われている子供と格闘することによって、われわれが成長していくわけです(p298)

    ・われわれは欠点があるから楽しく生きているんです。人間の欠点というのはみんな長所と裏腹に
     なっているんですね(p338)

  • 学校の先生向けの?カウンセリング講義をまとめたものです。
    よって、先生向けです。

    対人援助職としての基本的な心構えの参考になりました。

    他職種との関わりにおいても、ともすれば、
    こっちの知識で言いくるめてやろうなんて、思うこともあるんですが、
    そういう気持ちを改めたくなった一冊です。

  • 300237203  B146.8-カワ-1

  • 以前「心の処方箋」で河合隼雄さんの本を初めて読んだ。ゆるやかな物腰で、はっとさせられることが時々ある。本書はさらっと書いてあるので、箇条書きしてまとめにくい。
    良いと言われることを全く断言することがないこと、要するに人や自分の見方・感じ方に絶対はないし、いいところもあれば悪いところもあるし、絶対的な答えや本にあてはまることもない、ということが本を通して学べました。
    子育ての時に読むのも良さそう。
    子どものことで悩んだら、本書を読んで、上から目線で子どもを扱おうとしてないかチェックしたい。
    文中の「限界を嫌う日本人、心得る西洋人」には妙に納得しました。商品開発、物欲や人生観などの場面でそう思っていたからです。限界を設定しないことで、いくらでも高みにいけるところもあれば、しんどいこともあると思います。筆者が言うところの一長一短かも。

    ・本を読む時は、自分の事例に短絡的に結び付けない。本から得たことを、自分の事例にどのように生かせるかと考える。
    ・学者ロジャーズは、カウンセラーになるには、クライアントの話へ無条件の積極的関心を持つこと、共感すること、思うことと言うことを一致させることの3つのみと言った。
    ・昆虫の標本を作るのではなく、飛んでる蝶々をそのまま見るのがカウンセリング
    ・子どものことを放っている人ほど、子どもにものを買ってあげたくなる。

  • 河合隼雄先生のカウンセリング講座をまとめた本です。人と人が関わりあう時の接し方が、体験に基づいて話されていて、とても興味深いです。いつも謙虚な河合先生のスタンスは尊敬します。

  • 講演を元にした河合氏のカウンセリング論。
    すでに他書で重複する部分も多いが、繰り返し述べられていることの重要性は痛感した。

    以下、感銘した内容
    ・自分で考えて他人の役に立つと思ってすることが、かえって有害であることも多い。勝手に「分かった」と思っても、それは真の理解からほど遠いことが多い。

    ・弱いものの勘は冴えてくる(クライエントがカウンセラーや医師に対抗できるのは勘しかないから相手を見る眼が肥える)

    ・中学生、高校生のカウンセリングは顔を見たときに決まる。「このおっさん、ましや」と思ってくれるかどうかです。彼らはそういうことを非常によく知っている。

    ・カウンセラーが「おまえの気持ちは分かる」ということを拡大して、「おまえのやっていることはいいことなんだ」というのはダメ。

    ・役者の人が役作りにあれだけの苦労を重ねるように、ぼくらはクライエントの人生を共感しようと思ったら、どれだけたいへんなことか。

    ・教師、大人に問題をくれるのが問題児。こちらがそれを解かなければいけない。

    ・へたをすると理論とか技術の方にぼくらが縛られていきますと、人間味が薄れてしまう。

    ・自分の欠点を全部無くしたいという人が来たら、非常に慎重に対応しなければいけない。そのときにホイホイと催眠でなくしてあげましょうなんていうのは大間違い。だいたい人間の欠点をなくしたほうがいいと思っているだけで、カウンセラー失格です。

    ・早くから秘密を守れずに、自分の秘密をどんどんしゃべるような人は危ない、ということを忘れないでください。

    ・だいたい弱い人というのは過剰サービスをする傾向があります。

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