日本の深海 (ブルーバックス)

著者 :
  • 講談社
3.29
  • (1)
  • (7)
  • (10)
  • (3)
  • (0)
本棚登録 : 112
感想 : 19
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062578240

作品紹介・あらすじ

東京湾のすぐ近くの相模湾の水深は1600メートル。さらに隣の駿河湾は水深2500メートルという深さ。どのくらいの深さを深海と呼ぶのかは厳密には決まっていないが、海洋生物学では水深200メートルより深い海と定義することが多い。地質学では水深2000メートルより深い海が目安となっている。どちらにせよ、日本の海はほとんどが深海である。
日本は小さな島国で、領土面積は世界61位にすぎない。しかし領海と排他的経済水域を合計した面積では世界6位である。水深5000メートルより深い海域の堆積では世界1位というデータもある。つまり、日本は「深海大国」なのである。
身近にありながら、海面の下を見通すことができないために、深海は永く未知の世界であった。しかし、調査船などの進歩もあり、いま、深海は少しずつその真の姿を私たちの前に現している。
深海大国・日本。ようやくわかりはじめてきた、その豊かで変化に富んだ海の姿を紹介する。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 2013年、博物館で深海展があったりテレビでダイオウイカのドキュメントがあったりと、一部で深海ブームがあった。本書もこの流れに乗った本かと思ったが、かなり違う。タイトルからすると、生物学系の本のようだが、地学、地震学、鉱物学、気象学など様々な面を含んでいて、海洋・深海研究の現状を分かりやすく解説してくれる。
    個人的には、日本近辺の各プレートの移動で形成される深海底の形状についての解説が一番面白かった。地図と断面図が豊富で、とても分かりやすい。
    メタンハイドレートやレアアースなど深海に眠る資源については、その豊富さを強調して人々の関心を惹きたくなるところを筆を抑えて、費用、環境への影響を含めて回収可能性を冷静に判断すべしと、冷静な態度を貫いているところが良心的。
    生物や地球温暖化と深海との関係も、最新の知見が詰まっている。
    というわけで、宇宙空間に次ぐフロンティアと言われる深海について詳しくなれ、興味を掻き立てられる一冊。分かりやすくて、とても面白い。

    ちなみに、海底地形やプレートテクトニクスに関する本書の記述について、その理論や更なる詳細を知りたくなったら、「図解・プレートテクトニクス入門」木村学、大木勇人著(ブルーバックス)がお勧め。

  • 陸上生物の人間は基本的に陸の上しか考えられないけど、海の底にも世界があって、海で見えないだけでエベレスト級の山々もあったりほんとすごい。日本は陸上資源には乏しいけど、保有してる海が多いから、海底資源に希望が見いだされているらしい。金、銀、銅、亜鉛、鉛など。


    瀧澤美奈子
    東京理科大学理工学部物理学科卒、お茶の水女子大学理学研究科物理学専攻修了、修士。科学ジャーナリスト。日本科学技術ジャーナリスト会議理事、慶応義塾大学大学院非常勤講師。文部科学省科学技術・学術審議会臨時委員、内閣府独立行政法人評価委員会委員


     なぜ伊豆半島には固有種が多いのだろうか。その事情を知ることは、日本列島を取り囲む海の構造を理解することになる。

     固有種が生まれるにはいろいろな原因があるが、隔離されやすい環境ほど固有種ができやすい。その場所にしか存在しないということは、その種がその場所で独自の進化を経たか、他の場所の種が絶滅してしまいその場所でだけ残ったか、あるいは生殖的な機能の劇的な変異で隔離された、などが理由として考えられる。いずれにせよ、隔離というのが重要なポイントです。

     伊豆半島はかつて、南の海に浮かぶ島だったのだ。いくつかの火山がつながって一つの島になり、海に浮かんでいた。これを「伊豆火山島」と呼ぶ。  伊豆火山島は、年に三センチメートル程度の速さで北上し、いまから約一五〇万年前に日本列島に衝突、合体し、「伊豆半島」になった。

     日本列島は、列島の名のとおり、千島列島、北海道、本州、四国、九州、南西諸島という複数の島が、大陸から弓形に張り出した形で連なっている。こういう弓状の島の連なりを「島弧」や「弧状列島」と呼ぶ。島が弓状に連なる島弧を、花を編みこんだ綱、 花 綵 に見立てて、「 花綵列島」という優雅な呼称もある。  島弧は、日本列島以外にも地球上にいくつか見られる。アリューシャン列島、マリアナ諸島、ソロモン諸島、カリブ海のアンティル諸島などである。伊豆・小笠原諸島も島弧だ。そして、島弧のほとんどが西太平洋に集中している。  これら島弧には、ある共通点がある。  それは、すべての島弧が、プレート収束境界(沈み込み帯)に位置しているということだ。  このことは偶然ではない。島弧というものが、海洋プレートが他のプレートの下に沈み込むことによって火山をともなって形成されるからです。

     ホットスポットで特に有名なのは、ハワイ群島から天皇海山列まで続く、一連の海山の列である(図1─2─9)。北にいくほど古い年代を示す海山であることが、放射性元素や化石をつかったさまざまな年代測定によってわかっています。

     南鳥島は関東から見ると、南東方向に一八〇〇キロメートルも離れている。住所は「東京都小笠原村」。れっきとした東京の一部だが、都庁からの距離は沖縄本島より遠いです。

     伊豆・小笠原海溝には、日本一深い場所がある。伊豆・小笠原海溝のなかの小笠原諸島の父島より二〇〇キロメートルほど北上したところに存在し、九七八〇メートルとされている(図1─2─ 11)。ちなみに、世界一の最大水深はマリアナ海溝のチャレンジャー 海淵(海淵とは海溝のなかでとりわけ深い部分)で一万九一一メートルであるから、伊豆・小笠原海溝もなかなかたいした深さです。

     伊豆・小笠原弧から伊豆・小笠原海溝を前方に見て、島弧より後ろ側が背弧である。プレートの沈み込みにともなって、背弧には「背弧海盆」という、海洋性の地殻でできた窪地が作られることがあると前に述べたが、四国海盆は伊豆・小笠原弧の背弧海盆です。

     かつてマルコポーロによって、日本は「黄金の国」と形容された。しかし、現実には日本はきわめて資源の少ない国である。それが、ひょっとしたらひっくり返るのではないか、と指摘する人が増えてきた。理由は、海底資源である。  日本の国土の広さは世界第六一位だが、海を含めた面積ならば、世界でも指折りの広さとなる。排他的経済水域、いわゆるEEZと領海をあわせた「管轄海域」の面積は世界第六位に数えられる(図2─1─1、表2─1─1)。そしてその海底には、有望な海底資源が相当量眠っています。

     ところが、地球の深部に落ちていく寸前のところで、レアメタルや金、銀、銅、亜鉛、鉛などの非鉄金属成分だけを 漉しとる役割を果たすものがある。それが背弧拡大系の熱水噴出孔です。

     以上のような理由で、日本周辺の背弧拡大系の熱水噴出孔には豊富な鉱物資源が期待できる。これが、黄金の国ジパングのゆえんです。

     こうして見てみると、海底資源を利用することが、現実としてはそれほど簡単なことでないことが明らかになってくる。もちろん、頭から否定するのではなく、コツコツとリスクを明らかにし、それを小さくする努力をして可能性を探ることは大切だ。しかし、過剰な期待を抱くのは禁物です。

     また、「森は海の恋人」というように、本来、豊かな海は豊かな森から作られる。そこで、陸と海を一緒に管理する「海陸統合」の考え方の重要性がたびたび指摘されてきた。いま、これらの考え方を取り入れ、海洋科学を使って三陸沖をさらに良い漁場にするための情報を海洋科学者が提案しようとしています。

  • ブルーバックスにしてはあまり深くない感じ(深海なのに)、さらっと知識を掬いたい一人向け。

  • 専門的な話が多いけれど、解りやすくてよみやすかったです。深海と聞くと真っ先に深海生物が頭に出てくるけど、他にも海流やプレート、資源などなくてはならないものがたくさんあることを知りました

  • ブルーバックスの本にしては珍しく浅く広くといった感じ。
    深海について触りを知りたい場合は良いが、個人的にはもう少し深く知りたかった。

  • 地球最後のフロンティアである深海について、その成り立ち、地形的特徴、鉱物資源、豊富な生物、そして海洋(特に深海)と気候との関連について読みやすくまとめられている。深海底の資源は埋蔵量はともかく、経済的に採掘するのはやはりハードルが高そうで残念である。
    おまけ シロウリガイ食べたのかw

  • ☆海山と海底資源

  • 地形、資源、生物、気候、そして震災。

    新書サイズのブルーバックスにしては欲張りすぎ。当然ながら全方位に渡って浅い紹介にとどまっており、眺める分には悪くはないのだが、印象に残る要素がない。

    あえて言えば、日本近海の地形部分は他に比べてやや分量があるので、初学としては物足りないが、時間をかけずに読み切ることができる。

    あったら読んでもいいが、あえて探されるようなこともないだろう一冊。

全19件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

◆科学ジャーナリスト。
社会の未来と関係の深いさまざまな科学について、著作活動等を行なう。
2005 年4 月、有人潜水調査船「しんかい6500」に乗船。
◆著作に『深海の科学』(ベレ出版)、『日本の深海』(講談社ブルーバックス)、『地球温暖化後の社会』(文春新書)、『アストロバイオロジーとは何か』(ソフトバンク)、『身近な疑問がスッキリわかる理系の知識』(青春出版社)など。
◆内閣府審議会委員。文部科学省科学技術学術審議会臨時委員。慶應義塾大学大学院非常勤講師。日本科学技術ジャーナリスト会議副会長。

「2019年 『150年前の科学誌『NATURE』には何が書かれていたのか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

瀧澤美奈子の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×