- Amazon.co.jp ・本 (248ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062585316
作品紹介・あらすじ
関東大震災の三年後に始まった戦前昭和とは、審災復興=国家再建の歴史だった。社会主義、議会主義、農本主義、国家社会主義という四つの国家構想が、勃興しては次の構想に移っていく展開の過程として、戦前昭和を再構成する。
感想・レビュー・書評
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東2法経図・6F指定:311.2A/I57s/Inoue
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この手の本でいつも居心地が悪いのが「農本主義」である。丸山真男が全体主義の手先の擬似インテリと見なそうと、都市優位に対するアンチテーゼと再評価しようと、腑に落ちる感がない。軍だけでなく政治や経済や思想が全体主義化していくなかで、農本主義もその求心力により活動を激化したのだろうか。
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社会主義は大衆の期待に応えることができない上に内部対立と当局の締め付け。議会主義は二大政党の対立により大衆の信用を失う。農本主義は農村の困窮から統制、ファッショ支持に近づく。最後の国家社会主義の過程で興味深いのは、立憲主義の堅持を主張する矢部貞治やファシズム反対の蠟山政道が加わった昭和研究会が新体制運動、大政翼賛会につながったことであり、当事者たちに取ってはそれまでの二大政党による議会政治とは異なる形での「民主主義」だったのかもしれない。
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共産党に関連する「社会主義」の内容は既知のものが多かったが、「農本主義」は新しい観点から記載されていると感じた.犬養毅内閣以降、政党の力量が不十分で軍人が首相になっていた第二次大戦前の政治状況は、現代の政治家もよく学ぶ必要があろう.
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戦前昭和といえば、議会政治の崩壊から軍事独裁へという「イメージ」が定着している。しかしことはそう単純でもない。議会政治という意味では最後の近衛内閣まで維持されている。その多様な歩みから戦前昭和を再構成する一冊。
情熱とその挫折からなにを学ぶべきか。非常に現代的意義からも広くよまれてほしい一冊。 -
昭和初期から太平洋戦争勃発まで、時代を彩った4つの思想(議会主義、社会主義、農本主義、国家社会主義)を概観する。そして、4思想が目指す理想的な国家構想がどのような経路で挫折し、戦時体制一色となったかも。
思想を体現する主要人物と、転機となった出来事を振り返りながら、それぞれの思想の持つ特徴を解説。
筆者の意図もあろうが、不況や格差問題、関東大震災など、現代とおそろしいほど酷似した世界が展開されている。 -
戦前昭和の社会主義、議会主義、農本主義、国家社会主義が語られている。その中で、特に興味を抱いたのは、農本主義が満蒙開拓の移民熱を煽り、また橘孝三郎の国家改造プランは、ナショナリズムによって結びつき、そして五・一五事件へと展開していくことであった。しかしながら、これらの主義に基づく国家構想はすべて挫折した。これらが再び息を吹き返すのは、大戦によって国家が破綻した後である。
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井上教授の著作を読むのは初めてだった。とても分かりやすく、納得できる。ということは、細部をやや無視して、モデル的に叙述しているのではないか、と疑ってしまうのだ。それはこの程度のページ数でまとめる為には必要なことなので批判するつもりはないのだが、個人的にはもっと多角的な視点から勉強する必要があると、改めて反省する。
それはともかく、著者も意図して書いているのだろうが、現代の日本との類似状況があまりにも可笑しい、いや、懸念されるというべきか。多くの方に一読していただいて、少し真剣に今の日本政治の在り方を考えていただきたいと思うのだが。