野球の国のアリス (ミステリーランド)

著者 :
  • 講談社
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本棚登録 : 401
感想 : 98
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  • Amazon.co.jp ・本 (300ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062705844

感想・レビュー・書評

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  • 本への愛情が溢れ出るような、美しい本です!

    写真ではわかりませんが、カバーをとった表紙の
    絵と右端に配された水色のコントラストが夢のように綺麗で
    水色部分に銀の英字で刻まれたタイトルも、中の挿絵もほんとうに素敵。
    しかも、なんと中の頁の角が、全部まあるくカットしてあるのです♪

    もちろん装幀だけではなく、物語のほうも

    長い髪をなびかせて豪速球を投げる美少女アリス
    アリスを鏡の向こうの世界に誘う新聞記者の宇佐木(ウサギ)さん
    左右だけが見事に逆転している、鏡の向こうの世界
    「首を切れっ」が口癖の、宇佐木さんの新聞社の女社長「女王様」

    などなど、『鏡の国のアリス』のモチーフと、現実世界への静かな皮肉を散りばめながら
    北村さんらしい美しい文章で、楽しく綴られます。

    少年野球ではアリスの宿命のライバルだった天才的バッターで
    中学では野球を続けられないアリスの気持ちを誰よりも理解してくれる五堂くん、
    ずっとキャッチャーとしてアリスの女房役を務め、
    アリスの手から投げられる球以外は受けたくないからと、
    野球部ではなく柔道部に入る決意をする兵頭くんなど、
    アリスを取り巻く男の子たちも、爽やかでとても魅力的。

    この、「かつて子どもだったあなたと少年少女のための」と銘打たれた
    講談社のミステリーランドシリーズ、
    漢字には全部ルビが振ってあるし、北村さん始め、執筆陣は豪華だし、
    本を読む喜びに目覚めた小学生に
    リボンをかけてプレゼントしたくなること請け合いですが

    幼いころ、時間を忘れてジュブナイル小説を読み耽った大人のみなさんにも
    懐かしい気持ちでぜひ手に取っていただきたいです♪

  • まだ文庫化されていない北村薫の新刊である。とはいっても、2008年刊行ではあるが。図書館で借りた。

    題名から分かるように、「不思議の国のアリス」のパロディである。数多(あまた)あるパロディの中でも、成功している部類だろうと思う。アリスは現代日本の小学六年生。少年野球チームのエースでした。ところが、中学生になれば野球はできない。がっかりしていたときに、「大変だ」と急ぐ記者の宇佐木さんを見つける。彼はなんと鏡の中に吸い込まれていった。アリスも続けてはいると、そこは鏡の国、新聞の文字も総て逆転、野球の一塁も左にあるという国であった。でもあとはおんなじ。いや、びみょーに違っているところがいくつか。中学校全国野球大会では、裏の大会があって最後まで負け続けた学校を決める大会が盛り上がっていた。そこでは、なぜか中学一年になっていたアリスの学校が一番の負けチームに。一念発起したアリスは、救援に出向くのでありました。

    講談社ミステリーランドというのは、子供も読めるし、大人も読める小説をめざしたシリーズらしくて、所謂日本の推理小説家とファンタジー作家が一堂に会している。全巻書き下ろし、文字も大きいし、これから借りまくろうっと。あ、内容でした。

    この鏡の国、文字が反転してどうしてこんな国で人間は生きていけるのか。どうやら、人間はそんな環境に慣れるらしい。アリスのお父さんが、そうとは知らずに解説してくれる。我々は本来ものを逆さに見ているらしい(目のレンズの構造)。
    「そのままじゃ生活しにくいだろう。だから脳の中に変換装置があるわけだ。本来、上下逆に映っている画像を、またひっくり返して読み込む」
    「すごいね、人間」
    「すごいぞ、人間」
    ……この話は示唆的だ。この国はほんの少し、おかしいけれども、外から来たアリスには、とってもおかしく見える。まだ慣れていないのである。だから、宇佐木さんの力も借りて大胆なこともできるのである。最初は、負けたままの学校を残すなんて、教育上よろしくない、ということで始まったこの野球大会、最近では負け続け一番を決める「最終戦」には全国放送のテレビもやってきて、真面目にへまをする試合を見ては、全国的な注目を浴びるようになった。教育とは離れていっている高校野球のパロディである。こんなこと許せない、アリスは一番負け続けた学校と、夏の大会での優勝校が練習試合をして「いい試合」をすれば、これを止めさせることができると考える。元の世界でバッテリーを組んでいた兵頭君と天才スラッガーの五堂君を呼ぶ。さあ、試合の結果はいかに……。

    ところで、鏡の国で裏の大会が始まった頃、参加を拒否して家出して逃げた子がいた。親は世間の糾弾を浴びた。子供は行方不明のまま。じつはその子が宇佐木さんだった。
    「母が言っていました。《世の中の流れは大きすぎるから、動き出したら、一人でどうにかするのは難しい》って。黙って参加していれば、試合だって終わる。あとはのんきな日が送れたのにねえ」
    「その子が宇佐木さん?」
    「《走るウサギ》の姿があの人に重なったんです。ウサギは弱いから、逃げなきゃオオカミに食べられちゃう。必死になって逃げて、必死になってどこかに向う。自分のことじやない人には、ただもう、おかしくて変な奴に見えるウサギさん。」
    ……世の中の流れ、それはときに人を押し潰すだろう。どうにかしようとしたならば、闘うしかない。けれどもそれもできない人も多い。そのときはひたすら逃げるしかないのだ。2008年の刊行だけど、北村薫には既に「貧困問題」の本質が見えていたのかもしれない。

  • 2008.11
    不思議の国のアリスをベースに野球好きの少女を描く

  • さわやか青春野球小説。
    すごい、嫌なやつが全然出てこない…(いや、初対面で嫌なやつっていうのはいるんだけどそいつが嫌なままで終わらない)
    そんでもって徹頭徹尾、最後まで五堂がかわいいやつだったな。

    一塁三塁の逆走は、されてみるまで全然考えもしてなかったのでアリスと一緒に恥ずかしくなってしまった。そうかあー!!そりゃそうだ!!

    アリスはもしかしたらもう野球をしないのかもしれないし、もしかしたらまた野球する日が来るのかもしれない。でもどちらにせよ、アリスと兵藤くんと五堂と、鏡の世界の安西くんで必死の野球をした思い出は消えることはないんだなあ。

  • 大好きな北村 薫さんの新刊。
    ミステリーってよりは、青春小説。

    ワクワク、次へ次へとページをめくっちゃいます。
    でも、北村さんらしく、ちゃんと相手のことを考えるセリフがちりばめられているんですよね。

    桜って、日本人にとって特別です。
    時って、人にとって特別です。

  • 宇佐木さんを追いかけて鏡の国にやってきた少女アリス。野球の中学生大会。一番負けたチームと一番強いチームとの対戦。安西君、兵頭君、五堂君との関係。

    船橋図書館
     2010年7月3日読了

  • この言葉は悲しいよね。
    「女だから」

    私が女の姿をやめた理由の一つです。
    そうみられるのが苦痛だったから。
    それに後悔は一切ないけどね。

    そのために野球をし続けることを
    あきらめなければならなかった少女が
    ふとしたきっかけで再び野球のマウンドに
    立つお話です。

    だけれども別の世界はあべこべな野球が
    はびこっていました。
    『こんなの野球じゃない』

    そのためにアリスは動き出すのでした。

    そして最後に彼女の仲間である
    メンバーがやってくるのです。
    そして…

    何だろう、なんかよいよね。

  • 不思議の国、鏡の国のアリスを下敷きに、捻りが効いていて、巧くできた話。
    そこに、小学から中学に上がる、男女間の体力や気持ちの変化、ちょっとしたわだかまりのような感情をさらっと加えて、それを爽やかに解消してくれる。
    楽しかった。

  • 131:アリスが中学校では野球を諦めざるをえないこと、変化球を打つ練習を重ねる五堂、兵頭君の寡黙な包容力などなど、造形の上手さと、キャラクター同士の距離感はさすが。児童文学ぽい感じなので、ストーリーは単純なのだけど、思春期ー! というさりげない甘酸っぱさがたまりません。その匙加減も、ええ按配です。

  • 少年少女向けのミステリーシリーズ。

    小説家の私が、桜の花が取り囲むように咲いている校庭で、アリスから聞いた話とは。

    題名の通り、野球に関係する話です。
    著者はどういうつもりで、本編の前に序章にあたる「はじめに」の章を設けたのだろう。
    多分、小中学生の頃の私だったら、素直に話を読み始めるだろう。
    就職したての私だったら、反感を持って読み始めるだろう。
    どっちにしろ、引き込まれてあっという間に読んじゃうんだけど。
    キャッチボールって、どんなものか、分かる人には分かるよね。

    余計なお節介ですが、本編のあと、もう一回「はじめに」を読んでみて。そして、各自自由に謎解きしましょう。

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著者プロフィール

1949年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。大学時代はミステリ・クラブに所属。母校埼玉県立春日部高校で国語を教えるかたわら、89年、「覆面作家」として『空飛ぶ馬』でデビュー。91年『夜の蝉』で日本推理作家協会賞を受賞。著作に『ニッポン硬貨の謎』(本格ミステリ大賞評論・研究部門受賞)『鷺と雪』(直木三十五賞受賞)などがある。読書家として知られ、評論やエッセイ、アンソロジーなど幅広い分野で活躍を続けている。2016年日本ミステリー文学大賞受賞。

「2021年 『盤上の敵 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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