- Amazon.co.jp ・本 (576ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062734943
作品紹介・あらすじ
「現在、本艦の全ミサイルの照準は東京首都圏内に設定されている。その弾頭は通常に非(あら)ず」 ついに始まった戦後日本最大の悪夢。戦争を忘れた国家がなす術もなく立ちつくす時、運命の男たちが立ち上がる。自らの誇りと信念を守るために――。すべての日本人に覚醒を促す魂の航路、圧倒的クライマックスへ! (講談社文庫)
圧倒的筆力と熱量で描き出す強い魂の叫び!海上自衛隊護衛艦「いそかぜ」、艦長宮津の怒りは東京都民を人質に壮大なテロへと発展する。防衛庁情報局は破壊へのカウント・ダウンを阻止することができるか。
感想・レビュー・書評
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ああ、これは……
かなり衝撃を受けた。
と、いうのも原作を知らずして、映画『亡国のイージス』を観た場合、相当な割合で解釈違いや理解が追いつかないことが起こっただろうなと確信してしまったから。
現に、わたしも原作を読み終えて、映画での数々の場面を思い返しては、なんでそうなってしまったんだと落ち着かない気持ちになった。
ただ少し調べてみると、そうせざるを得なかったことが見えてくる。〈Wikipedia〉から抜粋させてもらって簡単にまとめてみた。
「本作品は当初2000年に映画化する予定だったが、企画を持っていった1999年当時の防衛庁(現:防衛省)側は「現職の海上自衛隊護衛艦艦長が叛乱を起し、最新鋭護衛艦を乗っ取り、日本政府に対して脅迫をするなどという内容の映画には、一切協力はできない」と強く拒否。
2度目の協力要請の時、同庁広報は再度拒否するつもりだったが、同作品の読者であった石破茂長官(当時)が再考を促し、原作者や映画制作関係者が映画の内容修正を行ったこともあって、防衛庁側の協力が実現した。」
という経緯があったらしい。
だからだろうが、宮津艦長の役職変更や、毒ガス兵器である『GUSOH』を巡る展開、北朝鮮工作員のホ・ヨンファとチェ・ジョンヒの関係、両者の如月行に対する激情など、原作での重大な局面や丁寧な心理描写などを生かすことが出来てなかったように思う。
映画での主役は護衛艦《いそかぜ》先任伍長の仙石だったけれど、原作はある任務を背負って《いそかぜ》に乗艦した如月行だったと、わたしは思う。
「戦う理由は、他人から与えられたり押しつけられたりするものじゃない。自分で見つけて、自分でつかみとるなにか……。自分にしか触れられないなにかのため……甲斐を守るために戦うんだ」
この行の言葉が、彼を取り巻くどれだけの大人に響いただろうか。
一度は行を信じきれずに彼から離れてしまった仙石は、彼の元へ戻り絶対に死ぬなと命令する。事を起こしたものの虚しさに襲われる宮津は、行に亡くなった息子を重ねる。異様なほど行を殺すことに執着するホ・ヨンファ。そして行の力に惹かれるチェ・ジョンヒ。さらには行を見捨てるしかない国家の意志。
行は彼らの情や思惑を背に受けながら、生きるとはどういうことか、自分にとっての生き甲斐とはなにかを模索しながら戦ったのだ。
なんのために戦うのか、何を求めて突き進むのか。彼らの矜持が絡みあいながら、日本という「戦争を忘れた国家」をまえに闘争が激しさを増していく。
それぞれが描く正義のために、多くの血が流れても仕方がないというならば、正義とは一体なんなのか、わたしはそんな思いを強くする。正義という名の復讐は新たな怨念を生んでゆくだけだ。どうしてわからないのか。いや、わかっていても、それを止められないのが人間の弱さなのだろう。
だとしても、正義なんて言葉ではなくて、愛や信頼、勇気、そして人間の弱さを認められる心によって、人は最後に救われるんじゃないかと思うし、甘いと言われてもそう信じたい。
それはとても中途半端で、感情的なものだけど、それこそが人間のみが持てるものであって、その先に本当の人の力が眠っているはずだ。
仙石も宮津もそして行も、そこへ踏み込んだからこそ大事な「なくし物」が手元に戻ってきたに違いないのだから。
ヒリヒリした戦いのあとには穏やかな日常が訪れる。これは真摯に人間を描いた作者だからこその終わりかただろう。きれいな桜を愛おしく思える、そんな感情をわたしたちは忘れちゃいけないのだ。 -
登場人物の過去から始まる
海と船のことは全く知らなかったけど、名称は調べながら読んだ
壮大だった
映画になりそうと思ったら、映画になってるみたい
長かったけど面白かった -
上巻の途中から一気に進んだ物語は、
下巻もすごい勢いで進みます。
ただ展開の速さで暗いという印象はないのだけど、
なかなか重く、リアルを想像するとかなり凄惨です。
登場人物それぞれのキャラクターがしっかりしてて、
それが魅力的ではあるのですが、
少し格好良すぎな感じがしないこともないかな・・・。
最後の最後まで目が話せない展開が続き、
上下巻通して本当に読み応えがあります。
最後はまぁこうしないと仕方ないかって
終り方でしたが、まぁ悪くはないでしょう。
悪くはないでしょうと言いながら、
最後のページはむしろ好きだったりしてね(笑)
がっつり読みたい人向けです。
挫折する人もいるかもなーって感じの本ですが、
私は読んでよかった。
おもしろかったです♪ -
福井晴敏さん「亡国のイージス」下巻、読了。反乱抑止の隠密作戦「アドミラルティ」を経て、ついに東京を射程範囲に捉えた「いそかぜ」と日本政府の攻防が描かれる。非常事態に責任逃れと利権を守ろうとする政府の面々。混乱の最中、自らの誇りと信念を守るため、運命の男たちが立ち上がる。。下巻は「いそかぜ」内部の攻防をハラハラしながら読み、男性心をくすぐるマニアックな用語も雰囲気を高めてくれました。読んで面白いだけではなく「日本人としてどうあるべきか」「耐え難いほどの出来事への対処」など、考えさせられる内容も含まれてます。なかなかのボリュームですが次々に起こる出来事に引き込まれ一気読み。ラストも納得の展開でとても満足。戦闘ものは苦手という人にもオススメしたい一冊♪
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2020.11.23
仙石さんが想像を遥かに超える男!!
かっちぇー!!
2人が幸せになれますように。
日本のシステムどうなんだ… -
後半も期待通りの面白さ。次から次へと事件が起こり、一気に読み進めてしまう。本当に上質のエンターテインメントだった。
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「現在、本艦の全ミサイルの照準は東京首都圏内に設定されている。その弾頭は通常に非ず」ついに始まった戦後日本最大の悪夢。戦争を忘れた国家がなす術もなく立ちつくす時、運命の男たちが立ち上がる。自らの誇りと信念を守るためにー。
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守るべき国の形とは、個人の幸せの延長線上にある具体的でそれぞれの心の中にあるものなのですね。人によって守るべき国の形は違う。国体とは、抽象的な議論、自分の外側にあるではなく、自分の生き様、「生き甲斐」の中にある。と、この本を読んで痛切に思いました。
素晴らしい本です。
「ありがとう、お父さん。あなたは、子が誇れる父でした」ああそうか、この言葉が聞きたかったのか。。
この場面が良かったなー。 -
ヨンファに荷担する宮津らによって、自衛隊指揮下を離れた護衛艦いそかぜ。
艦内に戻った仙石は、とらえられた如月を助け出し、いそかぜ奪還に奮闘する。
2005年観た直後の私の感想です。原作はかなり違うということは知っていましたが、そういう事情とは知りませんでした...
2005年観た直後の私の感想です。原作はかなり違うということは知っていましたが、そういう事情とは知りませんでした。でも、原作を読むかというと、読みたい本があまりにも多くてわかりませんが、頭の隅に置きたいと思います。
途中、ネタバレ的な話になると思うので、未見の人は読まないように。
まず、私は原作は読んでいないし、これからも読む気がないことを断っておく。だからこの評論は原作から離れて純粋にこの映画について語るつもりだ。
イージスとはギリシャ神話に登場する「ゼウスが娘のアテナにあたえた防具アイギス(イージス)」が語源らしい。つまり最強の盾なのである。事実イージス艦の防御能力のすごさはこの映画の中で何度も言及される。そして米軍より盗んだ核兵器級の爆弾を抱えて東京湾に現れ、政府を脅すわけだ。某国のテロリストの煽動に乗った自衛官の幹部が協力するわけであるが、彼らは最強の武器を持ちながら、「専守防衛」の原則が気に食わないというわけである。「日本は平和ボケしている。亡国のイージスだ。」というわけだ。
原作の意図はどうなのかは知らないが、この映画では監督は「専守防衛、是か非か」という論点は微妙にずらしてつくっている。(如月)「撃たれる前に撃つ。それが鉄則だ。」(千石)「じゃあどうして俺のときには撃たなかったんだ。」ぐっと詰まる如月情報員。防衛論議を個人の話にすりかえて誤魔化してしまった。
そうやって千石伍長を主人公にすえて、話を作ったのは阪本順治らしい。監督はがんばった。さすがに俳優人たちもよくがんばっている。退屈だけはしなかった。しかし、と私は思う。それではなぜ今この時期にイージス艦なのか。話を誤魔化してしまった以上、結局印象に残るのは、ドラマではなく、イージス艦という「本物の兵器」だけなのだ。製作者や監督の意図はどうであれ、これは到底反戦映画にはなりえない。結局、「これだけ優秀な武器を持ちながら宝の持ち腐れだよなあ。」と観た人が思っても決して不思議ではない、という映画になっている。だから改憲へ、とは単純には結びつかないだろうが、それを後押しする映画にはなると思う。結局、設定自体は現状に振り回される映画なのだ。結果好戦映画になっている。防衛庁の勝利だろう。
「いまの日本は危機管理がなっていない。そのことを指摘した映画だ。」と誰かは言うかもしれない。しかし、本当の危機管理はテロリストをおびき寄せない政策だろうと私は思う。ことの発端はあるはずのない最悪の米軍製化学兵器を某国(北朝鮮であることはあまりにも明らか)テロリストが盗んだことにある。しかも、それを消すためにはやはり米国製の強力焼夷弾が必要だという。今回の「危機」の原因は日米安保条約にあることは明らかだ。テロリストをおびき寄せない政策というのは同時に戦争をもおびき寄せない政策でもある。だからヨンファが「見ろ!日本。これが戦争だ。」なんて言わなくてもいいのである。
かって考古学者の佐原真は「人類の歴史300万年を仮に3mとすると、日本の場合最後の3mmで武器や戦争を持った。殺しあうことが人間の本能ではない。戦争は人間がつい最近作り出したものだから必ず捨てることが出来る」といった。人間が盾を持って、たかだか3000年に過ぎない。必ず捨てることが出来る。そういう雄大な映画を、誰か撮ってもらえないかなあ。
kuma0504さんの映画のレビュー、何回も読ませていただきました(*^^*)
ありがとうござい...
kuma0504さんの映画のレビュー、何回も読ませていただきました(*^^*)
ありがとうございます。
わたしが今回、原作を読んでいちばん強く思ったのは、作者は登場人物たちを通して、人としてのあり方を問うているのだなあということでした。
戦争をまえにして、あるいは自らの正義や憎しみをまえにして、そしてついに引き返せないところまで来てしまったときでさえ、なお揺らいでしまう感情というもの。
のたうち回りながらも逃げずに生きることを選んだ苦難。
何を求めて彼らは戦いの場へと向かったのか。
そういうもの描いたことによって、人、ひいては日本人としてのあり方を問うているのだと思いました。
だからこそ、かなりのページ数を使っての登場人物たちの生い立ちや、人生など過去についての丁寧な描写も必然だったんだなぁと。
うまく言えないのですが、反戦とか好戦とか改憲とか、そういうものが伝えたいメインではなかったと思います。
ちょっと答えになってませんね。
すみません、うまく書けません(^o^;
そうそう、映画では仙石が毒ガス兵器『GUSOH』を確保して一件落着だったと思いますが、実は全く違う真実が原作にはあり、そこは本当に驚きました。
またチェ・ジョンヒが海中で如月行にキスしたシーンも、けっこう強烈な印象で覚えていたのですが、その意味も原作を読んだからこそ「ああ、わかる……」と納得することができました。
うーん、この映画の場合は、原作を読んでよかったなと思いました。