すべての雲は銀の… Silver Lining〈下〉(講談社文庫)
- 講談社 (2004年4月15日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062747547
作品紹介・あらすじ
あなた、この世でいちばん重たい荷物って何だと思う?
傷ついたすべての心にやさしく降り積もる物語。
宿を整え、厨房を手伝い、動物の世話をする。訪れるのは不登校の少女や寂しい老人、夢を追う花屋の娘たち……。人々との出会い、自然と格闘する日々が、少しずつ祐介を変えていく。一方、瞳子は夫の消息を追ってエジプトへ。もう一度誰かを愛せる日は来るのだろうか――。壊れかけた心にやさしく降りつもる物語。
本書は失恋の痛手をかかえた大学三年生の祐介が、信州の宿にアルバイトでやってきて、そこで再生していく物語である。そう言ってしまうと、いや、それだけではこの小説の魅力のほとんどがこぼれ落ちる。(中略)村山由佳はのちに『星々の舟』で直木賞を受賞するが、それもこの作品のときから約束されていたといっていい。実に鮮やかな青春小説である。――<北上次郎解説より>
感想・レビュー・書評
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17のころ、この本を読んで、他の誰でもなく桜ちゃんに自分を重ねた。15の私と、同じだったからだ。
子供にとって、親というのは世界そのもので。世界に逆らうのは、ただ、ただ、苦しい。空気が読めてしまうばかりに、顔色から読み取る術が上手くなったばかりに。大人びている、と評されるのは時として褒め言葉ではないし、ただ、大人が望んだ姿を具現化しただけで、考えれば子供にだってそれぐらいのことはわかる。皮肉を承知でいうと、そんな子供のほうが本当は大人なのかもしれない。
親であろうと他人だ。例え子供であろうと、そこに個としての意識がある。
この本では何も起こらない。大恋愛でもないし、大冒険でもない。ただそんな別々の人間が、それぞれのしあわせと、それぞれの痛みに向き合っていることが、どうしようもなく私にとって救いだったんだなあ、と。ありきたりで、ありきたりじゃない、そんな登場人物の誰も彼もが、読む誰かの近いところにいる。
私を不幸にするのは、いつだって私自身。
幸せにできるのも、結局私自身。
私が幸せかどうかは、私だけが知っていればいいこと。
タイトルのEvery clouds has...が、そんな瞳子さんの言葉にかかってくるのも、素敵。 -
それぞれスタートラインについたところで、今後のことは読者の想像に任せるといった感じの終わり方でした。
登場人物それぞれ、いいことを言っているのだけど、爽やかさを出したかったのか、全体的に浅い感じ。
兄貴と由美子のカップルには最後まで「ふざけんな」と思い、もやっとしたままだった。
祐介の口調が、園主と瞳子さんが注意したように「スカスカ」耳障り(目障り?)だったので、上巻と同じように☆3個で。 -
それぞれの傷を負い、出口のない自分の居場所を失った人々が、信州菅平のペンション「かむなび」に引き寄せられ、徐々にそれぞれの出口を見つけ歩き始めるというストーリー。ハッピーエンドでもなく、その逆でもなく、人生はまだまだ続くし、その一歩一歩の途中であるという終わり方は嫌いじゃない。
作中の、個性についての園主の言葉や、瞳子さんの逆の発想にはっとさせられたり。
「個性」とは、「人と違うもの」ではなく、「どれだけ沢山の人に共感してもらえるか」なるほどその通りだと思った。 -
下巻は一気に読みきりました。上巻のエピソードを丁寧にふまえて進んでいくのがとてもよかった。
上巻で悩んでいたこと(桜ちゃんは学校に行けないことや母との関係、花綾ちゃんは平凡な自分がお花を続けることに悩むし、瞳子さんはまだ秘密の話を抱えてるし、兄と由美子にとらわれすぎて男としての自信さえ失った祐介…etc)について、下巻は各々が自分で決めて1歩踏み出す。
恋愛要素も、濃くなってきてページをめくるのが速くなる。
登場人物みんなそれぞれに敵わない相手がいる。これがすごく好きだったなぁ。
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村山由佳の心情の描写に何度もすごいと思わされる一冊。
人生のどん底みたいな気分を味わっても、それが永遠に続く訳じゃない。
そして立ち直るきっかけを与えてくれるのは、たいていの場合、周りにいる人なんだな~、と。 -
由美子と兄貴視点からも読みたいなぁ。
覚悟がないならそういうことすんなよ、と思う。
祐介は振られて、はじめて由美子の嫌なところに気付いて、兄貴は嫌なところを知りながらも付き合ってる。…つまりそういうこと? -
BANANAFISHのあとがきで、自分自身も「再生」をテーマにしてるという話を読んだことがあります。なるほどな、確かに村山さんの書く作品はそういう面が強いかもしれないと思った。
実は上巻の時から主人公が好きじゃなくてね!
こいつうっとおしいわ~と思いながら読んでたんだけど、最終的にそんなに嫌いではなくなった。
私は基本的に主人公にカッコよさを求めてしまうので、その辺を諦めてしまえばなんてことはないのかも。
話のテーマ自体はすごく好きな種類ですし、素敵な考え方、言葉が沢山詰まっているように思えました。
題名は「Every cloud has a silver lining」「どんな不幸にもいい面はある」と言う意味らしいです。能天気な格言、私も好きです。 -
上巻のゆったり展開していく感じと後半のスピード感は主人公の心の整理(安定感?)が出来てきたことで物事がスムーズに進んでいくからでしょうか?
失恋から環境を変えたくなる、という気持ちはよく分かるし、逃げ込んだ先にはちょっと後ろめたいような思いを抱えている前半部と少しずつ自主的に動いていく後半部までの心境の変化がすごく共感できる部分かなと思いました。当たり前のことかもしれないけど、主人公の、年相応の大学生のメンタリティをリアルに感じれたような気がします。登場人物たちそれぞれの思いやら心情の変化やら、違和感なく読めたということで改めて筆者の凄さを感じました。 -
物語のテンポが悪いと感じたのですが、これがおそらく著者の狙いなのでしょう。よく気のまわるタカハシや元気な美里ちゃんに物語の展開を引っ張っていく役割を割り振っていたら、ずっと軽快な物語になっていたのでしょうが、じっさいにこの物語の展開をみちびいているのは瞳子さんです。ときにうっとうしいくらい祐介に弱みをさらし、ときに祐介の心にずかずか踏み込んでくる彼女を見ていると、他人に甘えることと、心の強さ、たくましさとは、別のことではないという気がしてきます。彼女のカウンター・パートに配置されているのが、他人に甘えることも甘えられることもできない、登校拒否になった桜ちゃんのお母さんの智津子さんでしょうか。そして、その智津子さんのこわばった心を溶かしたのが花綾ちゃんだったというところに、彼女の「強さ」が感じられます。
本書のタイトルは、この本の終章で瞳子さんが述べる、"Every cloud has a silver lining."(すべての雲は銀の裏地を持っている)という、英語のことわざから来ている。瞳子さんは「幸福とか不幸って、あくまで個人的な問題だ」といい、「私が幸せかどうかは、私だけが知っていればいいこと」だといいます。だからこそ、「まるで隠れ家みたいな時間を誰かと共有できる機会」を愛しく思うことができるとも。たぶん、自分自身が打ちひしがれるような重い雲の下にいても、けっして見ることはできないけれどもその雲の裏には銀の世界が広がっている、と思うことのできるような心の強さをもったひとが、自分にはうかがい知ることのできない幸福と不幸をもっている他者と時間を共有することができる、というのが、この作品のテーマだったのではないでしょうか。
ただ、それがかなり重いテーマであることは事実で、恋人を兄にうばわれたという不幸に陥っていた主人公が、そのことを受け止めるだけの心の余裕をもつようになったというストーリーのなかであつかうのは、ちょっと苦しいような気がします。それこそ「幸福とか不幸って、あくまで個人的な問題」なのかもしれませんが。 -
ちょっと刺激的なところもあるけど、まぁ、良かったな。5年後の話とか期待しちゃう
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瞳子さんのさばさばした性格、いいな。
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下巻にて。
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とにかく瞳子に尽きる話だと思った。こういう再生の物語は嫌いじゃない。村山由佳は失った想いについてをよくモチーフにするんだな。ラストで瞳子とセックスするのは、最初から予感があったけど、どうもノルウェイの森のレイコと重なった。
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これは下巻。不登校の少女、淋しいおじいちゃん、花屋に夢をかける娘、そして夫をおってエジプトへいった瞳子。色んな人の悩み葛藤しながら前に進んでいく姿が見えます。
兄貴が登場してきたのはなんだ納得がいきませんでした。勝手か! -
面白さとしては上巻のが面白いですが、ぐだぐたの祐介が方向性をなんとなく決めれたみたいなので、成長したんだろうなと思いました。瞳子さんとのアレコレもさっぱりしてて性的な感じがしないのが2人らしかったなと思います。色気は皆無でしたね…。
でもやっぱり由美子のことが好きになれないのがちょっと辛かったです。彼女は兄貴にも祐介にも甘え過ぎです。全ての元凶は由美子なわけだし、典型的なかまってちゃんだなと思うのです。無意識のうちにやってるんだろうけど、祐介の言う“悲劇のヒロイン”ぶってるのはあながち間違いでもない気がします。祐介のいろんな感情的なものを抜きにしても、そりゃないよ兄貴…と言いたくなりました。
それでもこの後のホテルの仕事とか、花綾ちゃんや瞳子さんとの関係とか、桜ちゃんのその後とか、いろいろ読んでみたいなぁと思いました。間違いなく好きな村山作品のひとつです。 -
よい読後感。今更ながら、おいしいコーヒーシリーズ書きながら傍らで本作執筆はさすが。主人公が勝利に雰囲気が近く。雰囲気を感じられる小説ってよい。
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不器用だけどやさしく真に強さを持った人たちの物語。
人はいろんな葛藤があって生きている。
誰かを傷つけながら、自分も傷つきながら生きている。
どうやって相手を許すことができるかを考えなさいと言われた気がする。
まだまだ未熟なので私には無理だけど(笑)
たまにはこんな優しく、心が安らぐ小説もよいもんだな。 -
瞳子さんが園主さん好きになったのが分かるなぁ。