楊貴妃伝 (講談社文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062748414

感想・レビュー・書評

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  • 玄宗皇帝治世の混乱とその悲劇的な最期のためか、稀代の悪女として描かれることの多い楊貴妃ですが、この作品の楊貴妃は決して悪女ではありません。どちらかというと、数奇な運命に翻弄されるしかできなかった女性の儚い夢物語という感じです。

    奪われて入った後宮で、孤独に苛まれる老権力者を「自分の運命」そのものとし、肉体と言葉で癒し、時に傷つけながら心を奪う天性の巧みさ持ちながらも、苛烈な権力争いの中で誰かを利用し利用される日々を重ね、自らも嫉妬と恐怖に憑かれてゆく女性の心理が、井上靖らしい静謐な文体がで見事に描かれています。

    安史の乱によりその地位を追われて殺される瞬間の楊貴妃の、それまでとは打って変わったき然とした振る舞いと無償の愛、そして、彼女を手をかける瞬間の玄宗の側近・高力士の描写がとても好きで何度も読み返している作品です。

  • 唐の玄宗皇帝の晩年、後宮に召し出された楊玉環。玄宗の寵愛を得ると共に宦者高力士の助言を得て貴妃となり、後宮の権力をものにするが、安禄山の乱によって皇帝以下都落ちを余儀なくされ、楊貴妃はその途中で誅されてしまう。
    本書は、絶対権力者玄宗とそれを取り巻く佞臣達の権力闘争を、楊貴妃の視点で淡々と語っていて、結構面白く読めた。著者の歴史物にしては読みやすかったし。
    独裁者の治める国って何れもこんな感じなんだろうなぁ。

  • 井上靖作品を読むのは「額田女王」以来2作目ですが、時の権力者に愛された女性を描いた作品という点では同様でありながら、この楊貴妃伝はかなり趣の違う作品だと感じました。解説でも触れられていますが、心理描写が少なく、淡白すぎるくらいに淡々と話が進められていきます。一見欠点のようですが、これがフィクションでありながら歴史を見るかのような感覚にする効果を生んでいると思います。さらに比較すると、額田女王は自分の役目に誇りを持った女性の物語で、楊貴妃伝は自分に与えられた役割に覚悟を決めた女性の物語。という気がします。

  • 唐、玄宗の時代。
    楊貴妃の時代。
    安史の乱のはじまりまでの時代。
    これらの時代が好きな人、よく知っている人は楽しめる。

    客観的な文章で、教科書的にも読めるし、物語としても読める。

  • 美人で強烈な人に惚れたら、上手く掌の上で踊らせられるってのは、いつな世も変わらないな

  • 読了 楊貴妃の悪女のイメージが拭われた。

  • 世界3大美女の楊貴妃。
    それ以上の事は知りませんでした。
    どういう人なのか知りたくて読んでみました。

    いろいろな楊貴妃の見方があるみたいですが、井上靖氏の見方として楊貴妃の数奇な生涯として紹介されています。

    傾国の美女の一人として数えられていますが、皇帝玄宗が楊貴妃に夢中になり、政治が疎かになったのか?
    又は楊貴妃が政治に口出しして、国を傾けさせたのか?

    これを想像して物語にするのが、小説の面白さ!浪漫ですね〜。

    時代背景やら登場人物を調べて読むと
    中国の歴史の勉強にもなりますよ。




  •  貴妃の感情表現がひどく抑えられていて,それがまた貴妃の長安での人生そのものが夢のようにはかないものであるように感じさせる。

     長恨歌と比べながら読むと,井上靖独特の解釈でさらに長恨歌が面白い。

  • 少なくとも楊貴妃について最後まで悪女の描写はなかった。メインの登場人物は玄宗皇帝・高力士・安禄山、サブキャラは梅妃・楊国忠・李林甫(影は薄い)といったところか。ちょう巨大な権力からの召集に逆らえば殺される、権力者の望むままに流されるしか選択肢のない中で女性らしく自分らしい愛を見つけていった、一種のラブロマンスといえなくもない。

  • 玄宗皇帝の近づき、楊貴妃にしか分からない距離の感知と変化。権力の恐ろしさと儚さ。権力を維持するために、脅かすものの排除。淡々とした描写。

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著者プロフィール

井上 靖 (1907~1991)
北海道旭川生まれ。京都帝国大学を卒業後、大阪毎日新聞社に入社。1949(昭和24)年、小説『闘牛』で第22回芥川賞受賞、文壇へは1950(昭和25)年43歳デビュー。1951年に退社して以降、「天平の甍」で芸術選奨(1957年)、「おろしや国酔夢譚」で日本文学大賞(1969年)、「孔子」で野間文芸賞(1989年)など受賞作多数。1976年文化勲章を受章。現代小説、歴史小説、随筆、紀行、詩集など、創作は多岐に及び、次々と名作を産み出す。1971(昭和46)年から、約1年間にわたり、朝日新聞紙面上で連載された『星と祭』の舞台となった滋賀県湖北地域には、連載終了後も度々訪れ、仏像を守る人たちと交流を深めた。長浜市立高月図書館には「井上靖記念室」が設けられ、今も多くの人が訪れている。

「2019年 『星と祭』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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