- Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062752022
作品紹介・あらすじ
没後十数年たっても愛され続ける作家・井上光晴。その生涯は多くの謎に包まれていた。旅順生まれ、炭鉱での労働経験、それらはすべて嘘だった。何事もドラマチックに仕立てなければならない、「全身小説家」井上光晴の素顔とは?そして、ガン闘病の真実。小説家・井上荒野が父の魅力のすべてを書きあげる。
感想・レビュー・書評
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井上荒野にハマり片っ端から読みまくり中~
どの小説を読んでも自分のツボを刺激する
どんどんさかのぼって読み進めるうちに
荒野さんの原点であろうこの本を
読まなくてはという気持ちになりました
荒野さんの小説から感じられる雰囲気は
父・井上光晴氏の影響があるのだと
ずっと感じてはいたのだけれど
勝手に想像していた父親像よりかは
受け入れられる範疇だったかもしれない
それも 妻(荒野さんの母)の存在が
とても大きかったからだと思うのだけれど
妻の立場と子供の立場はまた違うので
多少複雑な気持ちにもなり興味深く読みました -
井上光晴氏の本は読んだ事がないのだけれど、作家である娘さんに書いてもらえた事は幸運であるのではないかと思う。
しかも、付き合った男子達に『君はファザコンだね』みたいに言われてしまう荒野さんである。
非常に興味深かった。
作家の家というもののひとつの形態を見た気がする。 -
単なる父の思い出ではなく、彼女なりの咀嚼と表現がなされた作品。井上光晴がどんな人なのか知りたく手に取ったが、彼女の文章を読むとその父がどれほどの能力を持っているか想像できる。
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2019 12/14
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出身地から生い立ちから、すべて嘘。トランプや花札をすれば必ずインチキをし、食事へのこだわりや勝手な思いつきで家族をふりまわし、愛人をつくって朝帰りを繰り返す。まったくもってひどい父親だけど、「ひどい感じ」というと、真剣に腹を立てるより、「まったく…」と言いながら、力の抜けた笑いが浮かんでくるような感じがするから不思議だ。
だいたい、出生の話とか「株のおじさん」だとか、井上光晴の話の辻褄があわないことに家族みんなが気がついていながら、あえて追及しようとしなかったというのも、ふつうに考えるとだいぶ抑圧的な家庭を想像してしまうのだけど、井上荒野が描く光晴は、わがままではあっても、抑圧的な感じはしない。それはたぶん、彼のわがままが、他人を支配することで力を感じたいという欲望からくるものではなく、自分自身の強い欲望から発していたせいではないか。たとえて言えば、支配する人がいて初めて王様になる人と、初めから自分が王様であることを疑わない人の違いのような。だから、この本で描かれるチチ・井上光晴は、呆れるくらいわがままだけど、とてつもなく魅力的で、「たいへんだったけど面白かった」というお母さんの述懐もわかる気がする(とは言っても自分勝手すぎ!とは思うけど)。
そして、あらためて井上荒野の文章の美しさ、上手さ(本人が「読了することが幸福なのでなく、読書している時間が幸福であるような小説」を書きたい、と書いているが、これはまさに井上荒野の文章を読むときに私が感じる幸福だ)を堪能しつつ、この力は確かに井上光晴から彼女が受けとってきたものなんだなあと気がついた。二世作家だからということではなく、読みものではない小説とは何かを学んできた人の文章ということ。さりげないユーモアも絶妙で、大いに楽しんで読みました。 -
著者は詩人・小説家の井上光晴の長女である作家井上荒野。
父・井上光晴の家族や周辺の人々との関係から、日本現代文学史に見る氏とは違ったユーモラスな井上光晴氏が浮かぶ。 -
作家の父を持つというのはどういうことかがよくわかる本だった。
荒野さんの小説はだいたい読んだことがあるが、光晴さんの本は
読んだことがなかった。今度読んでみようと思った。
娘の目から父がどのような人物であったか、娘に対してどのように
接していたのか、接し方に戸惑っていたのか、そういうものが
暖かな目線で書かれていて非常に面白かった。
父のいんちきな話を家族全員疑いもしない家風とか、そういう
家族という普通のようでいてどの家庭も普通でない感じが
とても上手に説明されていた。父であるけれど、時たま
父ではなく一個人の男という気配を無防備にさらけ出して
しまう父に対しての娘の戸惑いとか、さすが小説家だけ
あって娘が父のことを書いただけの小説なんだけど、
最後まで面白く読めた。そして父・井上光晴にとても興味を持った。
小説家という特殊な人間をほかの視点から見てとらえる文章が
好きだが、これはそういう文章の中でも特に面白かった。 -
井上荒野さんの父である光晴氏が妻や子達に語って聞かせた生涯は、大抵嘘であるということが光晴氏が亡くなってからわかっても、おどけた風に一言いう家族がなんだかほほえましかった。荒野さんの小説は折に触れて読んでいるが、光晴氏の本は読んだことがないので、そこが感想を語るにあたって残念である。機会があったら詩集など読んでみたくなった。