我、拗ね者として生涯を閉ず(下) (講談社文庫)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (480ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062759076

作品紹介・あらすじ

敗戦、引き揚げ、GHQ支配に戦後民主主義教育現場…そして社会部のエースへ。戦後の激動の日本を生き抜いた作家が何よりも大切にしていたのは、「世俗的な成功」よりも「内なる言論の自由」を守り切ることだった。「人が人として誇り高く生きること」を希求し続ける、渾身の自伝的ノンフィクション。

感想・レビュー・書評

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  • いい本。痛快。僕も本田靖春のような日本人になりたい。

    「景気回復のために、消費拡大が叫ばれている。経済学的にはそうなのであろうが、人間にはモノより大切なものがありはしないか。もうモノは卒業しなければならない。でないと、自分たちはそれと気付かないまま、日本人の傲慢が世界を押し渡るであろう。保守化、政治的無関心は、大きな危険性をはらんでいる。飽食の日本人は、食べ物を口に詰めるより、頭と心に詰めるべきものがありはしないか。」

    「自民党を中心とする生活には、国家としての理想像がない。つまりは、この日本国には夢がない、ということである。そういう基本をないがしろにした指導者の下で、努力はしない、辛抱はできない、そのくせおいしい生活は人並み以上にしたいという、身勝手で自己中心的な国民が、大量にはびこってしまった。社会性を欠いた彼らには、きわめて残念なことながら、日本の腐った政治を変える能力はない。悲しい予測だが、この国は間違いなく滅ぶであろう。」

    「私は前に、豊かさは諸悪の根源といった。貧しい時代を切実に生きた人々は、真面目で、努力家で、忍耐強く、前向きだったように思う。いまは、それらがすべて失われている。だから日本を昔の貧乏国に戻せ、とは、いくら私でも言いはしないが、いまの日本人は嫌いだ、とだけは力をこめていっておこう。」

    「いまの日本人は、よくいわれているように、自己中心的で身勝手である。言いかえるならば、社会性をいちじるしく欠いている。社会生活を営むからには、なにがしかでも社会に貢献したい。そう思うのが普通であろう。だが、わが国ではそうではない。世のため人のため、などと口にしたら、周囲は白けるであろう。まして、社会正義なんてことばを吐いたら、変人扱いされるのがおちである。私たちは絶対神を持たない。だから、世のすべてのことが人間同士のやりとりということになる。ずるく立ち回っても、嘘をついても、法律に触れないかぎりだいたいにおいて許される。なぜなら、相手も人間であって、胡散臭さにおいて、こちらも向こうも大した変わりはないからである。ところが、相手が神ならそれこそすべてお見通しで、騙しはきかない。そう考えるのが良心というもので、その源から犠牲や奉仕の精神が生まれてくるのだと思う。良心を持たない人間は、ボランティアには不向きである。なにせ、自分さえよければそれでいい連中だからである。」

    「テレビを観るとバカになる、というのは本当である。職業的ミーハー集団ともいうべきテレビ局が、バカを相手にバカ番組ばかりつくっているのだから、元来、バカの資質がある視聴者たちが正真正銘のバカになるのは、当然の成り行きであろう。いまは愚民の最盛期である。そうした風潮を招いた元凶はテレビ(いちおうNHKは除く)である、と断言して憚らない。ことばが軽くなったと嘆いて自刃したのは三島由紀夫だが、思想・信条を越えて深く共感する。とくにテレビの連中は、知性を磨くことも、教養を深めることもしないから、軽い乗りで調子よく喋るのが主流で、使うことばに重みというものがない。」

    「この半世紀余を振り返って、私たち日本人が成し遂げた最大の偉業は、奇蹟的な経済発展を以て永年にわたる貧困を追放したことであり、最悪のものは、消費熱に浮かされ、欲望の充足にのみ心を奪われて、取り返しのつかない精神的荒廃を招いてしまったことである。」

    「かつて、私たちは、ひとしく貧乏人であった。でも、お仲間のほとんどは、成り金に変貌してしまった。貧乏人の立場からしか見えないものがいっぱいある。私は誇りを持って、貧乏人の孤塁を守る。間違っても、成り金の仲間入りはしない。」

    「民主化は精神的近代化に始まる。しかし、日本人の多くは、民主化する手前のところでポチ化していった。差し出された所得倍増という餌に、ころりと行ってしまったのである。ポチ化した愚民たちには、理想なぞというハラの足しにならないものは不用である。反戦とか平和とかいっても、見向きもしない。そんな空念仏より、小綺麗な家に住んで、旨いものを食べて、他人より目立つお洒落ができるかどうかの方が、重大関心事なのである。」

  • ジャーナリズムを通じて社会をよくしようと本気で考え、実践した人

  • 反動勢力内リベラル.....しんどい生き方だ

  • ノンフィクション
    社会

  • 自分の命を削ってまで「黄色い血キャンペーン」を展開、社会部記者として自らの信義に生きた。清貧を貫き、短所や非は素直に認める。ジャーナリストとして書き手として尊敬する。

  • 2011.2.27読了。
    2日間で一気に読み切った。
    「黄色い血」キャンペーンは身震いするほど壮絶な戦いだったと思う。信念と行動力が、今の献血システムを作ったのかと思うと、本当に頭が下がる。
    自分でもブレない軸を持って、信念を貫けるような生き方がしたい。
    絶対本棚に残したい一冊。

  • 2007年117冊目

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著者プロフィール

1933年、旧朝鮮・京城生。55年、読売新聞社に入社。71年に退社し、フリーのノンフィクション作家に。著書に『誘拐』『不当逮捕』『私戦』『我、拗ね者として生涯を閉ず』等。2004年、死亡。

「2019年 『複眼で見よ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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