- Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062766852
感想・レビュー・書評
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幻想文学の金字塔的存在『とらんぷ譚』も、ダイヤにあたるこの『真珠母の匣』にて、名残惜しくもついに完結である! 著者中井英夫のキャリアで最も有名なのは長編アンチ・ミステリ『虚無への供物』であるけれども、『幻想博物館』に始まる『とらんぷ譚』という短編傑作も忘れてはならないだろう。事実、ジョーカーも含めた54の短編を読んでみて私が感じるのは、短編こそ中井英夫の文学の真骨頂であり、その世界観が凝縮された傑作ばかりであった(中井英夫本人も短編という形式が好きだと語っているし)。
さて、ダイヤの本書は、クラブにあたる『悪夢の骨牌』の構成同様、戦前と戦後の対比、その風景、「戦争とはついに何だったのか」を強く問う、短編連作というよりは一種の長編に近い作品になっていた(殊に『死者からの音信』、『絶滅鳥の宴』に顕著である)。そのため、テーマが一貫していたこともあり、比較的読みやすく業の深い雅馴な文章に浸りやすかったように思う。長編に近いと書いたが、短編によって細々と区切られながらも長編を完成させているのはいかにも『虚無への供物』的だと言えるし、その文体も腐るどころか燦爛とさえしている。
ただ、これを「幻想小説」とするのかは、個人的には判断が難しくもあった。『真珠母の匣』の短編には所謂『幻想博物館』で見せたようないかにも幻想小説、と呼べるような作品は少なく、「戦争とはついに何だったのか」という主張が出すぎているように感じられなくもない。そのような個人的な考えによれば、『とらんぷ譚』における最高傑作はやはり澁澤龍彦と同じく『幻想博物館』になるのだろうが、『真珠母の匣』に収録されている短編は、ほかのどのエピソードよりも言葉の美しさ、重み、メッセージ性が秀でていて、圧巻なのだ。単純な形而上的、非現実な面白さも幻想小説にはあるが、ここでは新たな意味での幻想表現という点において、幻想文学の金字塔としての存在感があるのかと思った。
また、ジョーカーにあたる二作が、今までの作品を凌駕しつつある程の面白さだったと思う。就中『幻戯』の終わり方は最高としか言いようがない。他にも『真珠母の匣』で印象深い作品は『死者からの音信』、『絶滅鳥の宴』だと思う。
いよいよ読み終えてしまった『とらんぷ譚』。『幻想博物館』の衝撃に始まり、とても充実した幻想世界の彷徨を楽しめました! 小説は天帝に捧げる果物、一行でも腐っていてはならない――この読書経験は、私にとって決して忘れがたいものになりました。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
とらんぷ譚 最終巻。
三姉妹が宝石に魅せられたり、淡い恋を抱いたり。
前作程の怪しい雰囲気は無いですが、それでも大正生まれで
青春のほとんどを戦争で生きてきた彼女達の考えや思いに何か感じるものがありました。
これはこれでまた違った感じで面白かった。 -
とらんぷ譚シリーズ中で個人的には一番イマイチでした(汗)。主人公は老三姉妹で、若い美青年と束の間の恋を楽しみ、後はやたらと戦中戦後の回想的述懐ばかり…。中井英夫特有の幻想的な要素やどんでん返しの醍醐味がなく、これなら中井英夫じゃなくても…って感じ。
恋するグライアイ/死者からの音信/海の雫/幻影の囚人/ピノキオの鼻/優しい嘘/虚/紅と青と黒/金色の蜘蛛/青い贈り物/無の時間/盗まれた夜/絶滅鳥の宴
「影の狩人」「幻戯」 -
再読。「とらんぷ譚」最終巻です。
この巻では例外的に「とらんぷ譚」全編に漂う幻想性も耽美性も薄く、辛うじて連作短編集としての体裁は保っているものの、限りなく長編小説に近い構成になっています。テーマは「悪魔の骨牌」を引き継いで「戦争」。
若い時代を戦争の中で過ごした初老の三姉妹が、過去の戦争の影に触れつつ過ごす日常について語られています。非常に地味ではありますが、中井英夫の物語部としての才能のなせる業なのでしょう、起伏がないにも関わらず物語の中に引き込まれました。どこか諦念を感じつつ過ごす生活に共感する部分があったからかもしれません。
とらんぷのジョーカーにあたる「影の狩人」「幻戯」の2篇は、いずれも「真珠母の匣」本編とは対称的な、第1巻の「幻想博物館」に収録されていてもおかしくない反-世界的な妄念を感じさせる作品で、「とらんぷ譚」全作の中でも白眉と言えるでしょう。 -
ミレニアム2文庫上下を買おうとして
とらんぷ譚3巻4巻を買ってしまった。
好き。
買おうかどうしようか悩んでいたが
ミレニアムより安いし、と買ってしまった。
ミレニアムも、買うけども。
2巻3巻4巻はしっかり熟成させて
旅行用の短編積読とする。 -
きらびやかな宝石の匣。だが開けてみると、肝心の宝石は消えうせ、赤い絹布の窪みだけが残っている。この匣は、虚とか不在と名づけられるべき、天与の贈りものであろうか。戦争の傷をその後の人生に刻した三姉妹を美しい宝石箱の虚になぞらえ、妖美壮麗の小説世界を築く幻想文学の傑作(「BOOK」データベースより)
ミステリ色は薄いものの、イマドキのミステリ作家には書けない、独特の深い世界に魅了されました。 -
しっとりとした締めでした。