「たられば」の日本戦争史 もし真珠湾攻撃がなかったら (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (264ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062769112

作品紹介・あらすじ

歴史において「もし○○○していたら」と論じるのは無意味…ではない!もし満州鉄道の日米共同経営を受け入れていたら、もし第一次大戦でヨーロッパに派兵していれば、もし真珠湾を攻撃していなかったら-その後の歴史は大きく変わっていたはずだ。そんな「幻の選択肢」を検証する、画期的な戦争史論。

感想・レビュー・書評

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  • [評価]
    ★★★☆☆ 星3つ

    [感想]
    難しく考えずに軽い気持ちで読むといい感じだ。
    過去を変えることはできないが過去の状況を再確認し、どのような流れで決断されていたのかを知ることは未来への備えになるのではないだろうか。
    ともあれ架空戦記にありえそうなシチュエーションがいくつも検討されているのは中々に面白かったが、実際には何かしらの大きな転機でもない限りは難しいじゃないかと感じた。

  •  「たられば」で歴史を論じても意味がないと考えるのはおかしなことだ。だって歴史から教訓を得るためには必要条件でしょ? 

     この本は、果たしてどのような選択をしていたら、日本はアメリカと開戦せずに済んだか、ということを研究している。どうやればアメリカに勝てたかということではなく、勝てないとわかっている戦争をどうすれば回避できたか、ということ。
     表紙は変だけど、とても真面目な本だ。


     日清戦争の時代から真珠湾攻撃まで、時系列に沿いながら、その時点での回避できた点を浮き彫りにしていく。
     
     特に重要な転換点だったと思われるのは、第一次世界大戦で欧州が戦場になっているとき、イギリスなどから参戦の要請を受けていたのに、参戦(派兵)をしなかったこと。なおかつ大戦の混乱に乗じて、山東半島やドイツ領南洋諸島を占領してしまったこと。
     これによって、日本人は欧米人に「窮地に陥っている我々を助けるどころか、混乱に乗じて領土を奪う卑怯者」とみられるようになってしまった。
     その後のワシントン軍縮会議で日本が厳しい立場に追い込まれた原因はここにある。


     あとは比較的よく知られていることだが、満州建国などあからさまになる日本の野心を警戒した欧米は結束して対日包囲網をつくりあげていく。
     でも案外、満州だけにとどまっていたら国際社会に認めさせられるだけの可能性はあったようだ。
    そもそも欧米が日本に対して怒るのは、日本ばかり中国大陸を食いやがって、という感情なのであって、中国人を守ろうとかそういう考えではない。パイの奪い合いに俺たちも参加させろ、ということだ。だから満州以外は、もう手を出しません、中国には戦争を仕掛けません、と言えば、アメリカとの関係改善の余地は多分にあった。国共合作も起こらなかっただろうし。


     でも、いけいけどんどん、で戦争仕掛けまくっちゃうんだよね、現地の軍人たちは…
     これを「プチ石原現象」と著者は呼ぶ。


     これは政府の意向を無視し、統帥権を都合よく持ち出して、現場の判断で戦線を拡大していき、結果として成果を上げれば、政府の意向を無視したことが問われないばかりか、逆に政府が追認していく、という石原莞爾が得意とした戦術。


     満州国を建国したあと、国力増強のため中国との戦争を避けることに動いた石原だが、関東軍には「プチ石原」軍人が多く誕生したため、歯止めをかけられなかった。


     やっぱりここで止められなかったことが日米開戦を不可避にした一番大きな要因のように思う。


     本書はまだ「真珠湾を攻撃しなかったら」ということも論じているが、これはいかに最小限の被害で講和まで持ち込めるかということを論じたことなので、面白い内容だけれど、回避という点からは外れるのでここで紹介するのはやめたい。


     面白かったので、再読するかも。 

  • やはり歴史にタラレバは存在しない。そこには、日本人としてこうなって欲しかったとの愛国心しか存在しない。もし本気でタラレバを検証するなら、日清・日露の勝利した戦争においても考察し、その後の日本の行方を考える書籍があってもよいはずだ。但し、歴史から学ぶことは多い。日本が勝算の見込みがない戦争に突入し多くの国益を損失したのは、一言で言えば「有能な指導者の欠如」である。この問題は現在の日本についても同じことが言える。歴史が示す亡国の兆しに、日本人は同じ過ちを繰り返すのか?それとも救世主、メシアが現れるのか?

  • 太平洋戦争へと向かうさまざまな段階で多くの選択肢が存在したにもかかわらず、そのほぼ全てにおいて最悪の選択を行ったことが、日米開戦に必然的に繋がっていったということがよく理解できた。
    その原因のほとんどの部分を戦前の教育システムの欠陥によって指導者を育成できなかったことにある、ということにも共感できた。

    ただ、各要素にかかる分析が、浅い部分にとどまっているように感じた。もっと場面を絞って、多角的な分析をするべきだったのではないか。

  • 幻の選択肢で日本は変わっていた。戦争の悲劇を避けられた「たられば」を検証する。

    本書は日清戦争から太平洋戦争まで日本が取り得た選択肢を検証した本である。
    日清戦争時には北京攻略も視野に入れていたが、伊藤総理は清国政府が瓦解し交渉相手を失う事を恐れていたという。

    一番残念なのは、日露戦争後に日米共同の満鉄経営が実現しなかった事であろう。アメリカの鉄道王ハリマンと仮契約を結ぶところまでいったが、小村外相の反対により実現しなかった事である。これにより日本が警戒され、米国との摩擦が増すようになる。

    満州事変以降は、悲しいくらいの選択肢しかない。軍部の独走と指導者層の弱体化の悪弊がよく解る。

    先の大戦を自衛のための戦争という人がいる。しかしながら、他に取り得たであろう選択肢を考えると、軍人や政治家の責任を改めて考えさせられる。

  • 日本の近代戦争史の様々なターニングポイントにおいて、別の選択をしていたら歴史はどうなっていたか、という歴史好きには刺激的な題材。
    防衛大出身で自衛隊で戦史を研究した筆者らしく、「たられば」の前説として現実の歴史で起こった各戦争をコンパクトながらも戦術・戦略的な見地から解説しており、日本近代戦争史を俯瞰するには適した書籍といえる。

    大まかな方向性としては、日清・日露は政戦略が合致することで的確な戦争計画の遂行ができたが、それ以後は軍部の暴走と政軍トップのマネージメント能力の欠如により戦争計画すら立てられず敗北(戦争目的の未達)した、という司馬史観的な歴史観に基づいている。

    ただし「たられば」の部分は、政治・経済・社会など現実の歴史に影響を与える様々なファクターが織り込まれておらず、深いシミュレーションは行われていない。もう少しこの辺に突っ込んでほしかったな、と個人的には思う。

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