不道徳な経済学──擁護できないものを擁護する (講談社+α文庫)

  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062814140

感想・レビュー・書評

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  • ★★★★☆

    友人から「お前は気に入ると思うから読め」と言われて購入してみたら……ええ、気に入りましたとも。

    本編を読みはじめて、冒頭に載せられているハイエクの推薦文がいかに当を得たものかよくわかった。

    まさに僕もハイエクと同じように最初は「信じられない!」と反発し、やがて「ぶっ飛び過ぎだ」と呆れるが、最後には「まいった、あんたが正しいよ」と納得させられてしまった。

    本書は原題を「Defending The Underfendable(擁護できないものを擁護する)」という。

    著者が擁護するのは、売春婦、麻薬の密売人、恐喝者など世間一般では問答無用で悪と決めつけられている人たち。

    彼らがいかに社会にとって(あくまで経済学的に)有益な存在なのかを、リバタリアンの立場から鮮やかに論じる。

    麻薬の密売人が、より多くの麻薬を売ろうと互いに競争すれば麻薬の価格は下がる。麻薬中毒者が犯罪に走るのは、ちょっと働いたぐらいでは追いつかないくらい麻薬が高いからであって、価格が下がれば彼らが犯罪に手を染めることはなくなる。

    逆に国家による規制は麻薬の価格を上昇させるので、本来なら麻薬をやって家でぼんやりしているだけだった人たちを犯罪に走らせてしまう。

    つまり麻薬の密売人は、警察に捕まるリスクを犯して、国家が押し上げた価格を下げるため、日夜商売に励むヒーローというわけだ。

    本当によく出来ている。

    一方で心情的にはどこか納得したくない部分もあり、ちょっとモヤモヤしながら読み進めるうちに、あれ?この感じ前にもあったなぁと思い、つらつら考えてみるとそれは少し前に読んだ『クライシス・キャラバン』だった。

    『クライシス・キャラバン』は、紛争地域で活動するNGOが、もはや単なる善意の第三者ではなく、紛争を長引かせる要因のひとつになってしまっている現実を綴ったルポルタージュだ。

    その中で赤十字の創立者であるデュナンと、近代看護教育の母ナイチンゲールの発言が出てくる。

    とにかく目の前の負傷兵を助けたいデュナンは、きちんと治療をした方が費用がより安く済むと政府に提案する。

    それを聞いたナイチンゲールは激怒し、費用が安くなれば政府は簡単に戦争をするようになるから高い方がいいんだ、と言う。

    『不道徳な経済学』はナイチンゲール側だ。

    つまり、被害を受ける人の総数を減らせ、ということ。

    うん。経済学らしい。

    デュナンは、例え総数が減っても目の前の苦しんでいる人を救わないことは心情的にできない、という立場だ。

    こういう書き方をするとナイチンゲールが、数字ばかり見ている薄情者のように誤解されそうだが、それは違う。

    逆だ。

    両者を比較すると、デュナンは現在の負傷者に共感しているだけだが、ナイチンゲールはこれから負傷者になるであろう人たちにも共感した上で総数を減らすことを語っているのだ。

    学問それ自体は無味乾燥な道具だ。

    しかし、使う人間によってそこから出てくる結論は、無味乾燥にも、血の通ったものにもなり得る。

    こういうふうにいろいろな考えを頭の中から引っ張りだしてくれる本に出会えると本当に楽しい。

    とりあえず薦めてくれた友人に好物のカレーでもおごってやろう。

  • 極端だが納得する部分も多い。経済の話だが、哲学的。

  • なかなか面白い考え方だった
    常識や良識といった「なんとなく思っていること」について的確にメスを入れていく爽快感はある
    この話は法律へも徹底的に批判していく
    ただし持論を成立させるために少し話を持って行きすぎているようで引っかかった
    何かを批判するのは簡単で理想論を振りかざすのは自由だが現実性を示すことは難しく、それを説明し理解させるのは難しい
    多分著者は公務員嫌いで、私も同じなので共感できたことは多いと思う

    発展途上国への支援が無意味、逆効果であることは分かりやすく納得できた
    支援という暴力はその国の市場を破壊することで、高官の利権を生み、一部の人間周辺の利益のみを与える
    それでもボランティアを叫ぶ人間は現状を知ろうともせず支援を続ける

  • 不道徳とみなされている職業や行為に対して擁護されてみると、無理くりだよ、それは……と思うものもあるけれど、言われてみればそうだよな、と思うことも多くあった。P247『企業家はいわばチャンスブローカーであり、みんなが利益を得られる機会を逃さないようにするのが彼の仕事だ。』はごもっとも。思い返せば「常識を疑い一歩立ち止まって考えること」ってほぼ無い。この本で貴重な体験ができた気がする。

  • 近代が生み出した人間は自由という虚構を徹底的に信じる潔さを感じた。

  • ●リバタリアンにとって、すべての不幸は国家によって引き起こされている。国家が小さいほど、私たちの自由と幸福は増大する。
    ●リバタリアニズム…人は自由に生きるのが素晴らしい。
    +しかし平等も大事である。リベラリズム
    +しかし伝統も大事である。保守主義
    ●アフリカ諸国への援助…私たちに必要なのは援助ではなく、健全な市場経済なのです。私たちを自分の足で立たせてください。
    援助物資が流入すると、現地の農業、工業が競争力を失って壊滅してしまう。
    患者数を水増しして発表したりも。
    ●チケットに定価が記載されていなかったならば、ダフ屋は存在しない。上場株式には値段が記載されていないから、大量の株式を買い、長期にわたり売り惜しみ、どんなに高値で転売しても、株式ブローカーはダフ屋とは呼ばない!
    ●福祉とは、大衆を支配するために権力者が用意した「パンとサーカス」であった。
    ●道徳哲学のせいで善意の市民が「道徳的」になれないのなら、もともとの道徳哲学が間違っているのだ。
    ●最低賃金法のせいで、必死に職を探し、最低賃金以下でも働きたいと願う労働者は仕事にありつくことができない。技術や資格がなく、まだ生産力が未熟な若年層が一番傷つく。

  • タイトル通り
    リバタリアンの立場から、非道徳的な好意・人を弁護していく。
    古い議論だが、それなりに面白い。
    タチバナさんの超訳はうまい。

  • 一般的には悪とされる経済的行動は実は社会的に重要な役割を果たしていたり、逆に必要とされる政府の経済への介入は悪い影響が大きかったり、という内容。

    極論が多いので全てには共感できないが、考え方の転換としてはとても教わることが多い。
    自由原理主義の主張がわかりやすく学べておすすめ。

  • 市場主義に任せればうまくいくことが沢山ある点には同意できる。でも完全に任せると、共有地の悲劇みたいなことが起きて、ろくでもない均衡状態になる気もする。

  • だいぶ前に読み終わったのに読了にしてなかった。バカ〜の本と似てるかな。

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著者プロフィール

2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)、『日本の国家破産に備える資産防衛マニュアル』『橘玲の中国私論』(以上ダイヤモンド社)『「言ってはいけない? --残酷すぎる真実』(新潮新書)などがある。メルマガ『世の中の仕組みと人生のデザイン』配信など精力的に活動の場を広げている。

「2023年 『シンプルで合理的な人生設計』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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