- Amazon.co.jp ・本 (512ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062816397
作品紹介・あらすじ
上田美由紀、35歳。小柄で肥満、鳥取のスナックのホステス。彼女の周りで6人の男が死んだ。この事件の背景には、木嶋佳苗事件とは別の深い闇がある。
――美由紀に騙されていたのは、あなただったかもしれない。
2009年秋、30代の太った女二人が、それぞれ男と関係を持ち、カネを貢がせ、死に追いやっていた――。木嶋佳苗事件との共通項の多さから、世間の話題を集めた鳥取連続不審死事件。筆者は鳥取に通い、上田美由紀と面会し、彼女に騙された男たちに取材を重ね、二つの事件は似て非なるものだと確信する。
鳥取の事件の背景にあったのは、日本の地方をじわじわと覆う闇――人が減り、町が廃れ、仕事を失い、生活が立ちゆかなくなった田舎で生まれる、弱者が弱者を食い物にする状況――だった。
木嶋佳苗が獄中ブログを始めるきっかけとなり、「私の事件を取材してくれていたら…と思い続けたジャーナリスト」と言わしめた一冊が、大幅加筆のうえ、文庫化!
2009年秋、当時35歳の木嶋佳苗の周囲で、複数の男性が不審死した事件が話題を集めていた。同時期、別の連続不審死事件が浮上する。現場は鳥取、主役は上田美由紀、スナックのホステスだった。
二つの事件には驚くほど共通点があった。主役はどちらも30代半ばの小柄な肥満体型の女で、亡くなった男たちと肉体関係を持ち、多額のカネを貢がせていた。美由紀に惚れ込んだ男たちのなかには、刑事や新聞記者もいた。
しかし、二つの事件の背景はまったく異なるものだった。佳苗が高級マンションに住み、外車を乗り回し、セレブ相手の料理教室に通い、婚活サイトを利用して男を物色していたのに対し、美由紀は過疎の進む鳥取で5人の子どもとボロ家に住み、場末のスナックでターゲットを探していたのだ。
筆者は、事件現場、スナックに通い、裁判を傍聴する。美由紀に惚れ、貢ぎ、騙された男たちをみつけ、話を聞く。そして、拘置所にいる美由紀とも面会を重ねる。
そうして、木嶋佳苗事件からは決して見えてこない、この事件の深層――地方の貧困との関係があらわになっていく。人が減り、町が廃れ、仕事を失い、生活が立ちゆかなくなる。そこで生まれる、弱者が弱者を食い物にする犯罪。それは、いまの日本社会に覆いかぶさろうとしている闇だ。
感想・レビュー・書評
-
女性の周辺で多数の男性が不審死する。小説やドラマではなく実話だ。それも場末の中年デブ女性が棲みつくカラオケバーば舞台。男性は妻子ある中堅会社員。何故?という疑問が真っ先に浮かぶ。ルポライターの光彦なら鮮やかに解決するが、著者の青木理は何度も現地を訪れてルポしても全容は掴めない。男性が誘蛾灯に誘われるように群がった本当の理由は男性の闇の中にある。
詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
この著者のドキュメントは何を主張したいのかよく解らない。この作品に描かれている上田美由紀と木嶋佳苗の接点が、本書にあるのだとかいう自画自賛のような不要な情報を筆頭に、まるでページを稼ぐためのような下品な描写に嫌気がした。
鳥取県で起きた6人の男性の連続不審死事件。事件の犯人と目されたのは、スナックホステスの上田美由紀だった。
『絞首刑』も、最後には論点がズレるというとんでもないドキュメントだったが、本書もまた最後は自画自賛という、とんでもないドキュメントだった。
レビューの評価が高いのが不思議だし、最近、著者がテレビでコメンテーターとして出演しているのも不思議。自分の理解レベルが低いのか… -
2009年、よく似た事件が埼玉県と鳥取県で起きてマスコミの報道は加熱を帯び世間も沸いた。
埼玉県の事件の容疑者は木嶋佳苗。
鳥取県の事件の容疑者は上田美由紀。
ふたりの共通点は、自身の周囲で不審な亡くなり方をする男性が複数いること、それでいて彼女たちは一見して太った美しいとは言えない到底魅力的とは言えない風貌をしていることだ。
ふたりの相違点は、木嶋佳苗が華やかさを前面に出し自身を演出することに対し、上田美由紀は地味であること。
同じ時期に似たような事件が起きればマスコミも盛り上がるだろうとは思う。そこで東京に近い埼玉県の事件容疑者が飽きさせない演出をしてくれば、当然マスコミの視線は木嶋佳苗に向く。
自分でへそ曲がりと言う青木理さんは、注目される木嶋佳苗には興味はなく、上田美由紀に興味を抱く。そんな青木理さんのルポルタージュを文庫化に際し加筆修正したのが本書。
木嶋佳苗が青木理さんに取材をして欲しかったと口にするジャーナリスト青木理さんの本には、出版された時点で興味を持っていたへそ真っ直ぐなわたし。文庫化されてすぐに購入した。
青木理さんの文章には、駄目なルポルタージュによくある偏重したところが見られない。あくまでも中立を心がけていることが感じられる。
ジャーナリストとして信頼できるひとりだと思う。
鳥取県という地域性に着眼し、鳥取県について詳しく書かれている。
鳥取県と聞いてすぐに頭に浮かぶこと。砂丘。
その他にはイメージがない。名産品もご当地グルメも、砂丘以外の観光地も浮かばない。
鳥取県のかた、ごめんなさい。
青木理さんの本によると、鳥取県は日本で一番人口が少ないらしく、鉄道整備が遅れている。軽自動車保有者が日本一多い。カレールー消費と冷凍食品消費が多く、世帯所得が低いらしい。
ここから想像出来ることは青木理さんと同じく、共働きで夫婦それぞれが比較的安い軽自動車を利用し、簡易に用意出来る冷凍食品や作り置き出来るカレーをよく使用する。
首都東京に近い埼玉県と、鳥取県という地方都市との違いから事件を紐解くというのは面白いと感じた。
上田美由紀の裁判の記述で、一審で上田美由紀が黙秘権を行使したことにも言及している。
やましいところがなければ裁判できちんと言うべきだ、世間もマスコミもそう糾弾したことについて青木理さんは異議を唱える。
被告に与えられた少ない権利が黙秘権であり、そもそも被告には自身の無実を自身で証明する必要はない。被告の有実を証明しなければならないのは検察側である。それを弁明しないのは卑怯だと責めることは法律をわかっておらず、そんなことを言う人間が裁判員として判決に携わることがおかしいと言っている。
わたしも正直言って、何もやっていないのなら裁判で言えばいいのにと思う人間のひとりだったので、何もわかっていなかったのだと恥ずかしく感じた。
結局上田美由紀は何を思ってか、何度となく面会にやって来る青木理さんにも全てを話すことは無かった。勿論、自分は殺していないとは言う。
真実は亡くなったひとと神のみぞ知るというところだが、わたしは報道だけで受けていた印象と本書を読んでからでは随分変わった。
辛辣な言葉も多いが、青木理さんの丁寧な取材によって事件の見え方が拡がり面白く読めた。 -
ジャーナリストの青木理氏が、鳥取で起きた連続不審死事件を取材した本。
お世辞にも美人とは言えない肥満体型の女に、何人もの男たちが夢中になり、人生を狂わせていった。同時期に埼玉で起きた木嶋佳苗事件と比べて注目度は低かったものの、熱狂する木嶋事件報道の「添え物」として取材を開始したらしい。
本書を読み進めていく中で見えてきたのは、鳥取という地域が置かれた厳しい状況。そしてそんな底辺の街にある寂れたスナックで働くホステスに絡め取られていった男たちが抱える心の隙間、闇…。なぜ立場のある男たちが彼女の虜になって堕ちていったのか。最終的には本書の著者までもが、彼女に振り回される結果になっていたのが可笑しみを誘う。
また、日本の司法の問題点についても切り込んでいる。被告は一貫して殺人については否定しているにも関わらず、十分な証拠を持って犯行を立証することもないままに、本書の出版より後になるが、とうとう被告の死刑が確定してしまった。結局、上田美由紀は最後まで真摯に真実を語ることをしなかったから、真相は闇の中だが、彼女一人が死刑になることでこの事件が幕引きとなるのは、非常に後味の悪い感じがした。 -
グロテスクでリアル。 事件背景が目に浮かぶようだった。 陰惨な暗い空気感。 このようなことは、都会や田舎を問わず、また程度の差はあれども(事件になるか、ならないか)一部の女が男を騙し、一部の男も女を騙し続けるのだろう。 昔から一定数いるんだろうなぁ。
-
2010年頃に話題になった鳥取連続殺人事件に関するルポ。事件を知らない人も、木嶋佳苗の首都圏連続不信死事件と同時期に似たような事件が起きて話題になっていたのは、ぼんやり記憶にあるのではないだろうか。
事件をざっくり説明すると、「デブ専スナック」と揶揄されるような場末スナックのホステスである上田美由紀(本の表記に合わせて、以下「美由紀」)の周囲で、6名の男が不信死していることが発覚。被害者はみな妻帯者でありながら、美由紀と知り合ったとたん彼女に入れあげ、多額の金を貢いでいた事がわかる。借金を重ねて生活が破綻し、家族を捨て美由紀と暮らし始めるも、しばらくすると不信死をするという同じコースを辿っていた――。
上田は美人といえるようなルックスではなく、おまけに虚言癖をもっている。被害者の中には新聞記者や刑事、腕利き営業マンなど、人間を見る目があるはずの者もいるのに、ことごとく美由紀に惹かれていったのはなぜか。著者の青木理は、そこにはっきりと答えは出していない。ただ、取材をする中で直面する地方の衰退や貧困の問題、そこに生きる人たちの鬱屈のようなものが、なにか答えにつながっているようにも読める。
なによりおもしろいのは、青木理がその状況に巻き込まれてしまうことだ。取材のために美由紀が勤めていたスナック(このスナックの実態が、本当にすさまじい)に通うと、常連扱いされママに股間をまさぐられたり、美由紀の元彼とつきあっている女性に妙な詮索をされたり、しまいには法廷での美由紀の証言が青木理の接見によって変化したり。半分当事者になって、彼らのどうしようもない人間関係にズブズブとはまってしまうのだ。単に事件の真相を追うだけなら不必要な描写だが、案外、そこに描かれた人間のあり方や空気感こそが、この事件の本質なのではないか。
青木理のことはテレビとラジオでしか知らなかったけれど、正直、なめていた。他の著作も読んでみよう。